150 感覚がマヒしてきそうな今日この頃
チートとかを使っているとそういうふうな感じになりそう
ラン王女誘拐未遂事件から5日、すぐにゴーレム諜報部隊はエーゼット王国の現在の情勢について調べ上げたようであった。
相変わらずの仕事の速さに、生みの親でもある神龍帝のアルもびっくりである。
・・・・もうこの際、正式な部隊名称でもつけようかな。いつまでもゴーレム諜報部隊って言い方だと普通すぎるし、普通じゃないこの諜報部隊には何かふさわしい名前があるだろう。
まあそれは置いといて、集められた情報がまとめ上げられ、ファーストが読み上げていく。
ラン王女もいるので一緒にその情報を聞くことにした。
ゴーレム諜報部隊の情報収集能力の高さについてはもはやツッコミを放棄したようだ。
「だって、アルの直属のゴーレムたちでしょ?もう慣れたというか、突っ込み不足と言うか・・」
感覚がマヒしてきたようだ。うん、自分でもわかる。
「さてと、今回エーゼット王国のことについて諜報部隊は調べ上げていたようですが・・・・いろいろとややこしい状態のようですネ」
「ややこしい状態?」
「はい、現在どうやらエーゼット王国では派閥争いのような物が起きているそうデス。本来ならば起きないようなものですが・・・」
・・・エーゼット王国は「王国」とついてはいるが、国王が政治を取り仕切るのではなく、「予言者」と呼ばれる人物が「予言」とか言ういかにも胡散臭そうなものを掲げて、それを政治に活かして仕切っているそうだ。
宗教国家として改名しろよと思うが、別に宗教とかはなく、予言者は予言者でありそれ以外の何物でもないとかいう感じの方針らしい。
ただ、どうやら現在そのことについてどうも争いが起きているようなのだ。
「予言者の方を優先しようと考える『予言派』。予言なんかに惑わされずに国王自らが行っていくべきだと唱える『改革派』と言うふうに分裂したようですね」
昔から予言者が国王の代わりに政治を行うという形態をしているそうだが、それを可笑しいと唱える人が出始めて、現在そのような派閥争いが・・・いや、政権争いと言った方が正しいのかもしれないのだが起きているのである。
「そして、どちらもやはり人族至上主義を掲げているのでどっちにしろ他国からは嫌われマス」
「それはわかる」
人間以外の種族も混じって生きているのだし、今更そういう考え方をするのはどうかと思う。
「で、今回ラン王女を攫おうとしたのは・・・どうもどっちなのかがわかりづらいようなんデスネ」
「「え?」」
どうも、どっちの派閥からそのようなことをしようとしたのかが不鮮明だというのだ。
「もともと獣人をエーゼット王国に入れるのも嫌うようですし、今ルンデバラート国とジューメンダス獣人国の抗議をというか、物凄い文句を受けているようですが、どちらも互いにそんなことをしようとしたのかと罪を擦り付け合っているようデス」
獣人を国に入れること自体を毛嫌いしているらしく、どちらの派閥もそのことについて責め合っているらしい。
なお、ジューメンダス獣人国のほうの抗議は受け付けないようで、「ならば開戦してやろうか」みたいな血の気の多さも出しているようだ。
「となると・・・・」
「ええ、これはおそらくですが両派閥で互いに争うと得をするような人物が今回の件を引き起こしたものだと推測できマス」
獣人を入れるのを嫌っている両者がそもそもそんな攫う事をするはずがないらしい。
そのため、今回ラン王女を攫おうとしたことを国にとって汚らわしい好意をしたとか言って攻撃しあっているそうな。
・・・・なんかムカつくな。
そんな獣人だからとか言って汚らわしいとか文句を言っているけど、彼らだって心があって俺たちと変わらない。
そしてラン王女についてもいろいろと相手側から「勝手に罪をかぶせようとしている」「獣人の言うことを信用できるか」「そっちのねつ造では」と意見が出ているそうな。
・・・親しい相手になんか勝手にそういう奴らこそダメなような気がしてきた。
「・・・・・・・・・」
「アル、なんか怖いわよ」
「あ、ごめん」
なんとなくイライラしてきたところで、ラン王女がそう言ったのではっと我に返った。
「えーっと・・・・で、そのためこの両派閥が官益していない可能性を考えて、両者の争いで得するものが今回の事を引き起こしたのだと考えられるわけで、なおかつあの諜報部隊はそれなりの権力者じゃないと動かせないそうです」
「それなりの・・・・王族とかがか?」
「そうと言えばそうデス」
「何か含みのあるような言い方ね」
「はい、これもこれでめんどくさい感じの様デス」
なんでも、今エーゼット王国の国王は重病になっていて床に臥せており、王城内での権力争いも同時に起きているのだとか。
次期国王争いとして、第1王子か第3王子か・・・そして第三者かの争いだという。
「第2王子は?」
「調べたところ、両王子から暗殺の証拠が出てきまして、おそらくこの時ばかりは協力してやったのではないかと」
「腐っているところは腐っているなぁ」
「というか、協力ができたのですか・・・・」
第2王子はどうやら至上主義に染まらなかった貴重な人だったようで、王となればその差別を撤廃してみせると宣言していたらしい。
そして成績優秀容姿端麗カリスマの性のある人物だったようだけど、これを気に入らなかったのが第1,3王子の二人。
二人ともすっかり人族至上主義に染まっていたようで、しかもコンプレックスをそれぞれ抱えていたようで気に入らないし、王位を継がれたら困るので、この第2王子を協力し合って亡き者にしたそうな。
国民には獣人を拾ってきて病気を移されて死んだとかいう風評被害をまき散らすのも忘れずにやっていたようで、どれだけあくどいんだと言いたくなった。
「で、その二人の争いはあるのですが、その争いでまためんどくさいのが・・・・・」
「『予言派』と『改革派』に対してか」
「ハイ」
第1王子は「改革派」のほうで、第3王子は「予言派」・・・・ん?
「あれ、でもこれって両者に被害を与えてもこの二人が困るよな?」
「そこで出てきたのが、第三者・・・・現国王の弟を名乗る人物だそうです」
病に伏せている国王の弟・・・その年齢は40代ほどで現役っぽい野心家だとか。
「で、この国王の弟が自身にも継承権があるとごり押しをして、権力争いの中に入り込みました」
「そして、その両派閥それぞれに入っている王子たちの力を削ごうとして・・・」
「私を攫うようにしたという事ね」
わかりやすくまとめると・・・・・
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・エーゼット王国では国王が虫の息。
・政治形態について、「予言派」「改革派」の争いあり
・次期国王の座を巡っての争いもある。第1王子、第3王子、国王の弟の3人。
・「予言派」に第3王子、「改革派」に第1王子がいるので、その両者の力を弱らせようとどちらにも所属していない国王の弟が、今回の事件を引き起こした。
・獣人であるラン王女を攫おうとしたことによって、人族至上主義の両派閥に対して攻撃させ合うのが主な目的だった。
・ついでにジューメンダス獣人国とも戦争をして、何やかんやで王子たちを殺して座に入ろうとしていたのも調査済み。
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「ついでに、この国王の弟ですが彼は人族至上主義らしいですが、女狂いでもあるそうです。人間が一番だという事ですが、調べたところ亜人種族の女性たちをこっそりと奴隷で違法購入しているのだとか。バレないようにこっそりかつ、淫猥な日々を過ごしているそうデス」
「つまり、ラン王女を攫えていたら・・・」
「・・・・まあろくでもないことになるでしょウ」
・・・救いようのない感じがするな。違法に奴隷を売買するのも国際的に大問題になるはずだしね。
あともうこの時点でこっちの沸点がなんか限界に来そうだ。
「あと、おまけにこの第1,3王子たちは今回のルンデバラート国からの抗議も嫌がって、逆にアリス姫を要求してどちらかの妻にしようとも言っているという屑っぷりデス」
「よし滅ぼそう」
「決断早っ!!」
いやだってな・・・・親しい人たちを狙い、腐っているような人たちにはそれなりの制裁が必要でしょう。
後悔してももう遅い状態にしてやりたい。
徹底的にぶっ潰したい。
「とは言っても、力づくでやるのも味気ないな・・・」
ブレスとか魔法とかでぶっ飛ばせばその瞬間に勝負ありだろうが、それでは面白みと言うか、後悔させる間もない。
とことんやってやらないと気が済まない。もう泣いて懇願して生きているのもつらいけど死ねないような状態にしてやりたい。
「滅ぼすのは確定ですか」
「公認モンスターの怒りを買っているからな。ラン王女もアリス姫も俺にとっては大事な人だし」
「・・・」
なんかラン王女が顔を赤くしたけど、うん、自分でも結構恥ずかしいセリフなような気がしてきた。
何だろうかこの羞恥心。
そしてファースト、何でお前がじーっと半目で見ているんだよ。
「・・・マスターの天然ジゴロ野郎」
「今なにかつぶやかなかったか?」
「いいえ何モ?」
ぽつりとつぶやいたような気がするけど、何を言ったのかよく聞こえなかったな。
・・・ま、とにもかくにもエーゼット王国には滅んでもらったほうが良さそうだ。あまりにもひどすぎるというか、汚すぎるというか、腐り過ぎているような感じがするしね。
そういえば、ここまではっきりと滅ぼそうと思ったことはなかったな。初めて滅ぼすのがこの国か・・・。
エーゼット王国、この瞬間に終了のお知らせ。
とはいえ、ただ暴力だけで滅ぼすのも味気がないし能がない。
国民全体がそうでもないだろうし、救いようのないような腐れ切ったところだけを狙い撃ったほうが良さそうだ。