120 ある皇子の話
本当はとことんひどい展開にしたかったけど・・・・・・
SIDE第3皇子 ゼヴォ=バンダンガ
「諜報部隊は戻らないか・・・・・」
帝国の城の第3皇子の部屋にて、第3皇子であるゼヴォ=バンダンガはつぶやく。
今日、この時間までに第2諜報部隊が帰還して報告をしてもらうということを予定していたのだが、予定時間をすでに大幅にオーバーしており、そのことは失敗を意味しているだろうと思えた。
昨年、色々とやらかした挙句、父親である皇帝に存在しなかったようにされた第2皇子がいなくなり、帝位継承権としては、実質2位の地位であった。
だが、それでも第1皇子である兄にはまだ届かず、自分が皇帝になれない可能性が大きかった。
下の方の第4や6皇子などの弟たちも、この機会に自身が皇帝になれるチャンスをつかもうと画策しているようであり、うかつにしていれば、自身も第2皇子の二の舞になるとゼヴォは考えた。
そこで、(自称)頭脳派と名乗っているゼヴォは、この際強力な後ろ盾を得て、第1皇子すら凌駕するぐらいの権力をつかみ、皇帝になろうと考えた。
だが、その後ろ盾とするのはただの帝国貴族ではいまひとつであろう。
というか、そもそも有力な貴族たちはすでに大半が第1皇子のもとに下っており、残っているのはそこまで影響力が強くない者たちばかりであると、見下していた。
実際には、その者たちの中にも結構権力がある者がいたが、ここはこの第3皇子の情報収集能力と理解力の今一つさが出たところであろう。
そこで、考えに考え抜いた結果、貴族なんかよりも物理的にも上の存在・・・・公認モンスターたちに目をつけたのである。
公認モンスターたちは国から独立しているギルドから公認されており、その力はすさまじいものが多い。
知能が高く、人と会話が可能でもあり、中には平然と人の街に交じって暮らしている者もいるのだが、それでも国一つは滅ぼせるような力を持つ者たちがいるのだ。
そのような者を後ろ盾に出来れば、第1皇子なんて目ではなく、しかもその功績で一気に皇帝へとのし上がれるのではないのかと考え、現時点で住所が判明し、手紙が出せるモンスターたちへ向けて、自身の後ろ盾になってくれるように頼む手紙を出した。
・・・・この時点で相当なあほなのか、文章が威圧的であり、命令的なものとして書かれており、下手すると激怒して攻めてくるものがいた可能性があったが、幸いにもモンスターたちの方が理性が高く、全部ご丁寧にかつ正論で拒否するという手紙が送り返されてきた。
ここであきらめればよかったのだが、ふとここで第3皇子の情報網にとある公認モンスターの情報が入ってきた。
その名は「神龍帝」。アルと言う名前を持ち、純白のドラゴンの姿を持つが、普段は人の姿で生活をしているというモンスターである。
聞く話によると、人の姿の時でも高度な魔法を使用し、ドラゴンの状態でもとんでもない威圧感を感じさせ、その力は未知数であるというものであった。
すでに第2皇子が亡き者にされた時点で広まっていた話ではあったのだが、ここでやっと引っ掛かってきた情報であった。
もうその力などをあてに出来る公認モンスターたちにすべて断られているので、この際わらにもすがる思いでこの公認モンスターと今度は手紙ではなく直接的なコンタクトを取って、後ろ盾になってもらおうと考えたのだ。
ただ、生憎情報が少なくて、さらにこのモンスターは強大な力を持つというのでおいそれと怒りを買うようなことをしたらまずいと危機意識を持った。・・・・今さらではあるが。むしろ、ここまでよく生きていたと思う。
そこで、皇子関係者が使役できる第2諜報部隊に命令し、この公認モンスターの情報を集めて、コンタクトを取る際に有利に働きかけられるようにと思っていたのだが・・・・・・どうも不興を買ったようにしか思えないとゼヴォは感じた。
第2諜報部隊は父である皇帝直属の第1諜報部隊よりは劣るものの、各自の技量はそれでもかなり優れているのである。
その部隊が戻ってこないということは、公認モンスターにバレて捕まって・・・・下手するともうこの世に存在しないかもしれない。
・・・この第2諜報部隊との予定の前に、先ほど別の案件で神龍帝について得ている情報の中には、神龍帝は自由気ままに生活することを好むというものがあった。
こういう自由に生きる者達にとっては、権力争いに巻き込まれるというのをきらうという傾向があるのを流石にゼヴォは知っていた。
その例として最たるが、彼より下の位でもある元第5皇子がいる。
自由気ままに生きるのを信条とし、皇族としての地位を捨てて今はこの国のギルドマスターとして活躍しており、気さくなところが多く、多くのモノに慕われているという継承権争いから抜けているとはいえ、注意しておくべき人物である。
しかし、元第5皇子だがその気さくさの反面、権力で拘束されるのを嫌って大暴れをするときがあるのだ。
その大暴れのせいで第5皇子の地位を捨てざるを得なかったという話もあるが・・・・・・。
いずれにせよ、その元第5皇子と同じような感じで神龍帝も権力争いに巻き込まれるのを嫌っていたら。
もし、元第5皇子と同じように暴れたら・・・・・・・。
想像しただけで、ゼヴォは背筋が凍り付くそうになった。
今さらながら得た深い後悔。
だが、時すでに遅かったのは言うまでもない。
それから1週間ほどで、彼の生活は大きく変わっていった。
まず、突然ゼヴォが皇帝になれたらいろいろ融通をしてもらおうと思って、支援をしていた貴族たちがいたのだが、なぜだが徐々にゼヴォの下を離れていき、支援をしてくれるものがいなくなった。
せめてもの後ろ盾になってくれそうな最弱の貴族たちもいなくなり、完全に孤立した。
それだけならまだしも、自身が皇帝になったらいろいろ改革しようとしていた案件がすべて他の皇子たちに流されており、目立った特徴が無くなってしまった。
影も薄くなり、支援もなくなり、城内でも徐々に孤立していくゼヴォ。
・・・・そして、その存在はいつしか忘れ去られていった。
頭脳派とか豪語をしていたが、才能は平凡であり、後先をよく考えていない思慮が浅かった彼だが、ここまでいてようやく理解した。
これは神龍帝からの不興を買ったせいだと。
ここで彼を恨もうかと思ったが、もう意味がない。
自身の権力もすでに無くなり、もう影がかなり薄くなっていて、恨んだところで何もならないのだ。
・・・・元をただせば、自身は皇帝と言う権力の塊に目が眩んで、その結果こうなったのである。
そして、直接暴れられるのではなく、周囲から自身の存在をなくされるということをされて、権力も失ったのである。
このまま完全に自身が忘れ去られたら・・・・結局己は何だったのかと一生後悔をすることになる。
ここでゼヴォはとある決心をした。
自身が何かわからなくなるのであれば、自分を作り出せばよい。
権力にまみれたからこのようになったのだと理解し、今度は世の為人の為に働き、そして己の愚かさを償っていこうとそう心に決めた。
すぐに自身の皇族脱退手続きを行い、第3皇子の座を彼は放棄した。
・・・・・・・それから長い年月が経ち、とある村ではお祝い事が行われていた。
その村では不作が続き、貧しい状態が続いていたのだが、とある男性が来て、一緒に頑張って知恵を絞りだしてくれて、さらに働いてくれて数年もたたないうちに村は豊かになったのである。
その男性は去ってしまったが、彼の功績をたたえてその村ではお祝い事が開かれるようになった。
また、ある村では害獣被害が出ていたところを、とある旅の男性が知恵を絞ってくれて、柵や堀、罠などを仕掛けて被害が食い止められて、その村にいた者は彼に感謝した。
その村以外にも各地を回って知恵を一緒になって絞ってくれて、善行を施す男性が現れたという。
そして、どの村でも彼に感謝し、祝い事を開いていった。
・・・・そしてある時、その善行を施していた男性・・・・ゼヴォは旅の疲れでとある村で休んでいた。
もう自身もかなりの年となり、動き回れなくなるころである。
足腰が痛み、それでも今滞在させてくれている村の人の為に頑張って村は現在いい方向へと向かっていた。
これまでの善行を振り返って、満足できるかと思ったが、やはりまだまだ満足はしない。
しかし、これ以上身体を動かすのもつらく、彼の旅はそこで終わると思われていた時であった。
「・・・あの、この村にて我が子を保護してくれた方ですか?」
「・・・ん?」
家の扉が開き、そこからゼヴォに向かって笑顔を向けてくる子供と、その子供の父親と思われる男性が立っていた。
その子供の方に、ゼヴォは見覚えがあった。
数日前に村の中で泣いていた子であり、話を聞くと、この村の子ではなくどこからかの迷子だったようである。
見かけは10歳ぐらいだが、不思議な雰囲気を纏っていた・・・・が、子供は子供。
そのうち親が探しに来るかもしれないし、親の為にもその子を探している者がいないかと尋ねまわったりもしていたのである。
「・・・ああ、もしかしてその子の父親ですか。ええ、確かに保護をしていました」
だいぶ目の方も老眼となってきており、いまいちはっきりと見えなくなってきているが、なんとなくその父親は若い外見のように思えた。
ただ、その割には髪が白いようにも思えたのだが・・・・・。
「ありがとうございました。うっかりこの子が落ちてしまって探し回っていたのですが・・・・お礼として何かできることはないでしょうか」
「お礼ですか・・・・・」
ゼヴォは元々お礼なんて考えていなかった。
ただ、その子が親に遭えればいいと思っていただけであり、また彼にはもう物欲とかもなかったのだが・・・・。
「・・・そうですね、出来ればもう少し儂は体を動かしたい。寿命尽きる時まで世の為人の為に尽くしたいのだ」
「そうですか・・・では、これでどうでしょうか」
と、その父親である男性がゼヴォの体に手をむけて、何かをつぶやき、その手が輝いた。
何かの魔法かとゼヴォは思った。
そして、次の瞬間直ぐに彼は気が付いた。
節々の痛みがなくなり、老眼もなくなってはっきりと周囲を見渡せ、すっかり健康体となっていたのである。
「・・・さすがに寿命までとはいきませんが、ある程度これで動けるようになったはずです」
まさに奇跡ともいえるような所業にゼヴォは驚く。
「あ、あんたは一体・・・・・!?」
「俺ですか?・・・・そうですね、このこの親でもあり、公認モンスターともされている存在ですよ」
その父親はそう言って、扉からその子と共に外に出た。
慌ててゼヴォが走って出ると、その方向には飛び去って行く美しい純白のドラゴンの姿が見えた。
その時ゼヴォは理解した。
あの奇跡を起こした者は、昔自身が起こした愚かな行為によって、自身を今の様に生まれ変わらせてくれるチャンスをくれた偉大なる存在・・・・・・神龍帝であると。
それからさらにゼヴォは一生懸命、最後に感謝しながら集まってきた人たちに看取られるまで世のため人の為に働き続けたのであった。
その最後の死に顔はとても晴れやかなモノであり、ずっとあのまま権力のみを求めていたら手に入らなかった満足感を得て、死後、彼の事は人々に語り継がれていくのであった・・・・・・。
よくよく考えれば権力に目が眩んだだけで、ものすごい悪人と言うわけでもなかったからこのような結末を迎えさせることにいたしました。
さてと、ついでに次回はどうやって彼を城内でも存在感を薄くしたのかの種明かしをしますかね。
まだまだこの物語は続くけど、たまにはこういうハッピーエンドな話もいいでしょうか?