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厨二病と異世界

 突然だが皆さん、厨二病という病気をご存知だろうか?

 中学二年生の頃、早ければ小学生の頃に罹患しはじめ、その多くは治らないという不治の病だ。

 通常なら、思考が、酷ければ言動が非常に痛くなるだけだが、重篤になってくると日常生活を送ることに支障が出てくる。

 そう、例えるなら二次元の世界と現実の世界の区別がつかなくなる、というようなことに。

 ちなみに最近私は公式の漫画や小説のほかにネットの厨二病患者どうしたちが書いた小説にはまっている。流行りは異世界トリップものだ。


――閑話休題。

 

 今、私は身に覚えのない場所にいる。

 一応だが言っておくと若年性の認知症ではない。成人前、ぴちぴちの十九歳・大学一年生である。

 けれど、私の記憶によれば私は先ほどまでバスの中にいた。

 大学の授業を終え、趣味でやっているバイオリンのレッスンに行く途中だったのだ。

 それがどうだろう気づいたら……


 青い空、白い雲。

 香ってくるのは砂糖のようにほんのり甘い香り。

 決して、車から排出される石油風味の有害ガスの臭いではない。

 ……いや。ここまでは百歩譲って許す。本当は色々突っ込み所があるけど。むしろ突っ込み所しかないけど。

 だけどそう、決定的なのは目の前にいるとても日本人とは思えない美女。

 光に透ける白銀の長髪にアメジストを思わせる紫の瞳。一瞬レイヤーさんかと思ったが、染めたような違和感もないしカラコンを入れているような気配もない。何より、顔の作りが日本人のそれとは違う。

 ということは生まれつき彼女はこの姿だということで。

 そしてそれはつまり。


「ふふふ。ついに重篤患者の仲間入り?」


「お願いだから話を聞いてーーー!?」


 壊れた笑いと美女の悲痛な叫びが重なった。




「……ということで!あなたはこの世界に迷い込んだ【難民】なの。この世界じゃよくあることでちょくちょくあなたのような人が現れるわ。それで、私は通りがかりの魔女見習いサンリィ・ベルです。」


「……はあ。私は竹下文音と申します。この度はわざわざご説明と保護ありがとうございます。」


 未だに自らに起きた事態を訝りながら謝辞を述べる。

 この人―サンリィ・ベルさんはなかなか話を聞かない私に腹を据えかねて自宅へと半ば強引に案内してくれた。

 そのまま彼女の勢いに押されて話を聞けば。

 曰く、この世界は日本があった地球ではなくリール、ぶっちゃけると異世界である。

 曰く、このリールは他の世界よりもほんの少しだけ各世界との距離が近い場所に存在している。そのために、ふとした瞬間世界が揺らぎ、その揺らぎの近くにいた人間がリールに飛ばされてくる。

 曰く、飛ばされた人間、通称【難民】は数年に一度、これまた数人くらい現れる。


 ……とのことである。


「まだ頭おかしくなったっていうほうが説得力あるよね。」


「まだ信じてくれないんですか!?そこまで自分を疑わなくても!?」


「だって、気づけば別世界。いわゆる異世界トリップですよ?オカルト掲示板か流行りの小説でしかそんな話は存在しないはずです。はずなんです。なのにいくら抓っても痛いし、サンリィさんは美女だし。」


「あっ、えっ、ありがとうございます。」


「いえいえ、事実ですし。」


「……そうじゃなくて!現実を受け入れてください!タケシタ……えーとそれともフミネ?」


「どちらでも呼びやすいほうでどうぞ。」


「それじゃあ、お言葉に甘えてタケシタと。こほんっ、タケシタは変に冷静で状況自体は飲み込んでくれているのに最後の最後で現実としては受け止めてくれないんですか!?」


 興奮気味に頬をほんのり赤くしながら尋ねるサンリィさん。目の保養である。

 ……もとい、どうしてと聞かれても自分が厨二病だからとしか答えられない。 

 大げさなと思うかもしれないが一般人が思うより厨二病は重い病気なのである。

 でも、どんなに頬を抓っても痛くて、目の前の美女は一生懸命だ。

 己の痛覚には疑いの余地が残るが目の前の美女が一生懸命なのには疑いの余地はない。

 ついでにつけ加えればレッスンに行く途中だった時に持っていた、バイオリン及び肩掛けのバッグもきちんと一緒にあるのだ。中身を確認すれば本日返却された外国語のテストも入っている。勉強する箇所を間違えて取った点数は惨憺たるものだった。……これはかなり現実味を帯びる。


 受け入れるしかあるまい。

 ――異世界に来てしまったと。


「となれば今後の身の振り方を考えないといけないか。」


「大体もうここに……って、え、え?」


 私の中では繋がっているのだが、客観的に見れば突然の方向転換である。話が飛んでいるとも言う。

 サンリィさんの頭にはたくさんの?が浮かんでいた。だが美女なので可愛い。

 

 ――(お前って結構話飛ぶよね。)

 ――(いや、お前もだろ。っていうか私は自分の中で繋がってるし。)

 ――(そんなの私も私の中では繋がってるし。)

 ――(それきっと気のせいだよ。)

 ――(そんなわけないだろ、はげ。)

 ――(はげてないです~!)


 ふと、ここ一週間連絡が取れない友との会話を思い出した。

 数少ない私の友達。

 週末には一緒に遊ぶ約束をしていたのに、ここのところずっと音信不通で。

 今度は私が異世界に来てしまった。

 ……私は、もう会えないのだろうか……?


 そう考えると一瞬、瞳に水分が集まった。 



読んでくださってありがとうございました!

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