今日も、スイカ畑の真ん中で
それからどうなったかって?
夏休みの残りは、宿題を終わらせるための勉強会ばっかりだった。
「ねえ、ジェニーは宿題、終わってるんでしょ。答えを写させてよ」
僕がだらけながら聞くと、ジェニーは厳しい声でぴしゃりと言い切る。
「だめよ、それじゃ、宿題の意味がないでしょ」
宿題も写させてくれないなんて、本当に友達って役に立たない。だけど、それでも僕らは、マーカスの秘密研究所に毎日集まって、ケンカしたり、教えあっこしたり、笑いあったり……最後まで最高の夏休みを過ごした。
二学期最初の朝、僕らはみんなでジェニーを迎えにマーカスの秘密研究所へ行った。
研究所の周りを囲むスイカ畑はすっかり収穫を終えて丸坊主になっている。スイカを育てるビニールのトンネルも片付けられて、枯れてしおれた黄色い葉っぱが寂しそうに風に揺れていた。
「なんかさあ、こっちのほうが秘密研究所って感じだよね」
確かに、寂しい光景のど真ん中に堂々と立つレンガ造りの家は、太陽を背中にしたせいで影絵みたいに暗くて少し不気味だ。
だけど、僕らは知っている。秘密研究所といっても、怖いマッドサイエンティストはいないし、人体をばらしたり恐ろしい兵器を作るような研究をしているわけでもない。
ここに住んでいるのは、大人には秘密にしておきたくなるようなとびきり楽しい発明品を作るおかしな博士と、あとは……僕たちの大事な友達だけだ。
「おーい、ジェニー、学校へ行こうよ!」
門に向かって大声をあげると、スピーカーのノイズがザザッと鳴った。
「やあ、おはよう、キッズ!」
「博士、僕ら、ジェニーと学校に行こうと思って来たんです」
「そうだろう、そうだろう。そう思って、君たちの分も発明品を用意しておいたぞ。名付けて『ジェットランドセル』!」
スピーカーの向こうでジェニーの小さな悲鳴と、何かが壊れる音がした。続いてジェニーの怒った声。
「おじさん! 私のランドセルを勝手に改造したの?」
「いや、歩くよりも楽ちんかなと、それで……」
「もう! 次からは学校のものは改造するの禁止!」
「とほほ……」
その後で聞こえたのは、シュッと何かが飛び立つ音と……ガラスの割れる音は、スピーカーの中からじゃなくて、二階の窓の方から聞こえた。僕らが見上げると、ガラスを突き破って現れたジェニーは、空を飛んでいる!
「もう! これ、操縦難しいわね」
ジェニーのランドセルからはシュウシュウと音を立てて白い湯気のようなものが噴き出している。あれで空を飛んでいることは明らかだ。
マッシュがキラキラと目を輝かせた。
「すごい! かっこいい!」
アーニーは笑っていた。
「そうね、『タイジュウミルミルカルクナール』で飛ぶよりも、だんぜんかっこいいわ」
カールは真面目な顔で頷く。
「なるほど、高濃度に圧縮した空気によって飛ぶ仕組みか」
カーリーなんかは両手を広げて、飛び回って、大はしゃぎだ。
「カーリーも、カーリーもそれ、やりたい!」
ジェニーはシュッと小さな空気音を立てて僕らの傍へ降り立った。
「そうね、じゃあ学校が終わったら、公園で遊びましょうか」
僕は、思いっきり力いっぱい、頷いた。
「よし、じゃあ今日も、一緒に遊ぼう!」
それから僕らは、スイカ畑の向こうまで響くような元気な声で言った。
「じゃあ、マーカス博士、行ってきます!」
今日も良く晴れている。枯れたスイカの葉を揺らす風は穏やかで、青い空には入道雲じゃなくて、秋の薄い真綿みたいな雲が浮かんでいた。
僕らの二学期が始まる。




