大騒動だよ花火大会 4
まず、僕たちはマーカスさんをスイカのツルからおろして、それから三人で、公民館の裏の公園にテーブルや、椅子や、それからたくさんのスイカを運んだ。
マッシュの家は肉屋だ。彼は家に帰ってお父さんにバーベキュー用の肉を分けてくれるように頼み込んでくれた。
カールの家は実は電気屋で、息子の頼みを聞いたお父さんは夜も困らないようにと電球をいくつも用意してくれたし、お母さんが町役場に勤めているアーニーは、街の防災無線でスイカパーティーのことを放送するように頼んでくれた。
少し割れた音で、役場前の大きなスピーカーが叫ぶ。
『本日6時より、スイカパーティーを開催します。場所は……』
僕とジェニーは、スイカ畑の真ん中でその放送を聞いていた。カーリーが畑の向こうから、息を切らして走ってくる。
「お父さんとお母さんにも、パーティーのこと話したよ~」
「よしよし、父さんたち、なんだって?」
「ぜひお伺いしますって言ってた! あとね、家からスイカを持って行こうっていうから、スイカはいらないよって言っておいたの!」
「そうだねえ、スイカは足りてるもんね」
「そしたら、トウモロコシを持って行こうって! いま、茹でてくれてる!」
これを聞いたジェニーは不思議顔だ。
「トウモロコシって、茹でるの?」
「茹でないで、どうやって食べるんだよ」
「袋から出して、レンジにかけるの」
「ああ、そういう冷凍のトウモロコシじゃないよ。僕の家の畑でとれた、生のトウモロコシを茹でるんだ!」
「つまり、とれたてね! 素敵!」
こうして……夕方になると公民館の裏の公園にたくさんの人が集まった。僕やカールやマッシュの家族はもちろん、クラスメートの子達や、近所のおじさんや、本当にいろんな人が集まって、お祭りみたいににぎやかだったんだ。
みんなが畑で取れた野菜だの、バーベキューセットだのを持ち込んでくれたおかげで食べ物はいっぱいあったけど、一番の目玉はなんといってもマーカス博士のスイカだった。
「いやあ、これはみごとなもんだ、どうやって育てたんです?」
僕のお父さんは目を丸くしてマーカス博士に聞く。育ちきったスイカは大人の背丈ほどの大きさになっているんだから、スイカ農家としては、ぜひとも育て方を知りたかったのだろう。
だけどマーカス博士は、まるでなんでもないことのように言った。
「普通にタネをまいて、肥料をやって、後はほっといたらこうなったんですよ」
「へえ、やっぱり手をかけすぎるのは良くないってことなんですかね」
僕のお父さんはもっとスイカについて話を聞きたかったみたいだけど、ちょうどそのとき、カールのお父さんが持ち込んだ大きなスピーカーがガピーと音を立てた。
マイクを握っているのはもちろん、カールのお父さんだ。
「お集まりのみなさま~、今日のこのパーティーに私たちを招待してくれたマーカス氏から、ご挨拶を一言ちょうだいしたいと思います~」
どこかで口笛があがった。みんなで拍手をしたり、飲みかけのビールを掲げたり、大人たちはなんだか盛り上がっている。だけど僕にはそれが大して面白いとは思えなかったので、クラスメートたちが集まっているテーブルに足を向けた。
そこには特に大きなスイカの一切れがでん!と置かれていて、スイカの周りにはみんながあちこちのテーブルから集めてきたらしい子供の好きそうなもの――ソーセージや肉団子、フルーツ類なんかが並べられている。
マッシュとカールはそのお皿を片っ端から平らげることに夢中だったが、女の子たちはジェニーを取り囲んできゃいきゃいとにぎやかにおしゃべりをしていた。
「ねえ、ジェニーちゃんの服、かわいい。そういうの、どこで買ったの?」
甲高い声での問いかけに、ジェニーがそっけなく返す。
「普通に、お店で」
これを見た僕は「あれっ?」と思った。そのあともジェニーは、どの会話に対してもそっけない。
「ねえ、ジェニーちゃんはどんなテレビがすき? 私はね、アニメとか良く見るよ」
「テレビは、見ない」
「あ、私、キャンディーもってきたから分けてあげる。何味がいい?」
「いい、遠慮する」
口をほとんど動かさないで、表情はひとつも変えないで、まるでお面が話をしているみたいだ。
(僕らといるときは、あんなに笑っていたのに)
なんだか胃の辺りがむかむかして、せっかくのごちそうにも手が伸びない。
アーニーは女の子に混じってジェニーのすぐ近くにいたんだけど、こそこそと何かをジェニーにささやいて、それからみんなに向かって手を振った。
「ごめん、ジェニーはちょっと具合が悪いみたい。あっちで休ませてくるわね」
「ええっ、私も一緒に行こうか?」
「いいからいいから、みんなはそのまま、スイカでも食べててよ」
女子の輪から離れる二人が気になって、僕は走り出す。僕が追い付いた時には二人は木の下にあるベンチに並んで腰掛けようとしているところだった。
「おい、大丈夫か?」
僕が声をかけると、アーニーが顔をあげる。
「ああ、たぶん、大したことないよ」
だけどジェニーはうつむいたままで、僕はそれが気になって仕方ない。
「本当に具合が悪いんじゃないのか? 何か、薬を探してこようか?」
そんな僕に向かって、ジェニーはうつむいたままで言った。
「ブライアン君、ごめんなさい」
「え、ごめんって、何が?」
「本当はこのスイカパーティー、私がクラスのみんなと仲良くなれるようにって考えてくれたんでしょ。だけど……私、やっぱり人がいっぱいいるのは、まだ苦手みたい」
アーニーが肩をすくめる。
「ま、そういうことよ」
僕は少しだけ考えた後で、とびっきりの悪者みたいなにやにや笑いを作って見せた。
「なぁんだ、バレちゃったんだ?」
「え?」
「まあ、気にするなよ、いつもの僕のおせっかいってやつだ」
クールに決めたつもりだったんだけど、ジェニーとアーニーは「ぷふっ」っと笑った。
「なにかっこつけてんのよ!」
「それ、カッコいいつもりなの?」
ひとしきり笑った後で、ジェニーは「あ~」と気の抜けた声をあげる。
「ブライアン君や、アーニーとは、こうやって普通に話せるのになあ」
アーニーは、笑いすぎて零れた涙をふきながら、ジェニーの方を振り向いた。
「いいじゃん、それで。友達なんて数が多ければいいってもんじゃないよ」
「それもそうね」
「それに、ゆっくりクラスに慣れていけばいいと思うよ。もうすぐ二学期が始まるんだし」
僕の指先に、じんとしびれるような緊張が走る。二学期の約束……それをするためには、まずはジェニーを連れ戻しに来るおばさんに勝たなくちゃならない。
つまり、アーニーがしようとしているのは、おばさんに勝利して、この先もずっと一緒に居ようという約束なのだ。
もちろん、賢いジェニーがそれに気づかないはずはないんだ。それでもジェニーは顔をあげて、アーニーを真っすぐに見た。
「そうね、二学期が始まったら……それでも、私の友達でいてくれる?」
「もちろん!」
二人は固い決意を確かめ合うように、強い握手を交わした。
その握手を祝福するかのように、タイミングよく花火が上がる。スピーカーからはカールの声。
「さあさあ、花火大会だ! 花火の提供はマーカス博士、僕らのアイディアをもとに作られた、他所じゃ絶対にお目にかかれない花火だよ! 最初はお菓子花火だ!」
夜空いっぱいに色とりどりの落下傘がいくつも散らばり、子供はみんな歓声をあげる。
「行こう、僕たちもお菓子を拾おうよ!」
僕が空を指さすと、アーニーとジェニーはベンチから立ち上がって、声をそろえて言った。
「うん、行こう!」
僕たちは落下傘が降り注ぐ公園の広場に向かって駆けだした。




