友達の誓い 5
「あのさ、ジェニー、まずは僕たちと友達にならないか?」
「友達?」
「そう、友達……友達っていうのはさ、本音を言える相手だと思うんだ。だから君は、自分の思ったことを素直に僕たちに言ってくれればいいよ」
「それでケンカになったらどうするの?」
「別にいいじゃん、僕とカールとマッシュなんか、しょっちゅうケンカしてるよ?」
「変なの。ケンカをするための友達なの?」
「そういうわけじゃないけど……友達じゃなかったら、ケンカもできないよ?」
「あなたって変わってる、マーカスおじさんに似ているわ」
こらえきれなくなったのか、ジェニーがくすくすと笑う。
ジェニーの笑う顔なんか初めて見た。教室で怒ったような顔をしているジェニーは大人っぽく見えるけれど、笑うと目がすごく細くなってふにゃんって油断した顔になる。
そうか、やっぱりジェニーも僕とおんなじ子供なんだなって思ったら、なんだかうれしくなって、僕もクスクス笑ってしまった。
ジェニーは少し怒ったみたいに頬を膨らませて、背筋を伸ばす。
「何よ、何がおかしいのよ」
だけどそれは怒ったふりで、目元は相変わらずニコニコしているんだから、怖くもなんともない。
僕はついに大きな声で笑いだしてしまった。ジェニーも僕に釣られて笑い出した。大きな声で。
僕たち二人はしばらくの間、二人でワハワハと笑いあっていた。
「僕がマーカス博士に似ているって? どこが?」
笑いながら聞くと、ジェニーが笑いながら答えてくれる。
「そういう、子供っぽいところよ」
「仕方ないじゃん、子供なんだから!」
「それもそうね!」
たったそれだけのことがおかしくって、僕たちはまた、大声で笑う。涙が出るほど笑った後で、ジェシーが目元を拭いながら言った。
「ああ、すっきりした。でもね、友達にはなれないわ、ブライアン君」
「やっぱり友達は女子のほうがいい?」
「そういうことじゃないのよ」
ジェニーはすごく困ってしまったみたいで、眉毛がハの字になるくらい表情を曇らせてしまった。
「この街で友達を作らないって、そう約束したの」
「誰と?」
「ごめん、それは言えない」
「よくわからないけれど、それもみんなに内緒?」
「ええ、これはマーカスおじさんにも内緒にしてね」
「そんな内緒の話を、どうして僕にしたの?」
「どうしてかな……私にもわからない」
ジェニーはまだ困った顔をしている。これ以上、いろんな話を聞いたら、ジェニーはもっと困ってしまうだろう。
僕は腕組みをして、う~んと唸り声をあげた。
「残念だけど、そんな大切な秘密を聞かせてくれたってことは、僕たちはもう友達なんじゃないかな?」
「ええっ、そうなの? そういうものなの? 友達って!」
「僕とカールとマッシュはさ、そういう大人に言えない秘密を三人でいっぱい持っているよ」
「例えば?」
「この前、算数の小テストがあったこととか。マッシュったら、お母さんに怒られそうな点数だったから、秘密基地にテストを隠しちゃったんだ」
「それ、私に話しちゃっていいの?」
「うん、君が秘密を一つ話してくれたからさ、僕も一つ、秘密をお返し。これで僕たちは友達だね」
「ど、どうしよう、約束をやぶったら、怒られちゃう!」
「秘密にすればいいんだよ。僕も君の秘密を誰にも言わない、君も、僕の秘密を誰にも言っちゃダメだよ。そして、僕たちが友達だっていうことも秘密、ね、これで大丈夫だよ」
「でも……私、友達って、何をすればいいのか、分からないの」
「わからないって、今までの友達とは、どうしていたの?」
「私、友達がいたことなんて、一度もないから……」
「一度も? たったの一度も?」
ジェシーが顔を真っ赤にして頷く。
「うん、一度も」
「そうか、じゃあ、僕が最初の友達ってわけだ、よろしくね」
握手を求めて勢いよく手を出すと、ジェシーはおずおずと、それでもしっかりと手を伸ばして握手を反してくれた。それと一緒に、大きなため息も。
「ほんと、マーカスおじさんにそっくり」
「どこがそっくりなのさ」
「なんだかいい加減で、めちゃくちゃなところ」
「それは、確かにそっくりかもしれない」
ジェニーが声を立てて笑った、本当に心から、楽しそうに。
「ふふ、本当はね、友達って、ちょっと憧れてたの」
「しかも、ただの友達じゃないよ、秘密の友達だ! ね、ワクワクするだろ?」
「そうね、秘密って、とってもワクワクする」
痛いぐらいに力強い握手をしながら、僕は思っていた。
(ジェニーには、まだいっぱい秘密がある)
だけどそれを無理に聞き出すつもりはない。そんなことはジェニーと友達になるのにどうしても必要なことだとは思えなかったし、ジェニーから話してくれるまで待てばいいだけのことだ。
こうして僕とジェニーは友達になった。夏休みが目の前に迫る七月の、ある日のことだった。