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マーカスの秘密研究所  作者: 森野 コリス
友達の誓い
17/33

友達の誓い 5

「あのさ、ジェニー、まずは僕たちと友達にならないか?」

「友達?」

「そう、友達……友達っていうのはさ、本音を言える相手だと思うんだ。だから君は、自分の思ったことを素直に僕たちに言ってくれればいいよ」

「それでケンカになったらどうするの?」

「別にいいじゃん、僕とカールとマッシュなんか、しょっちゅうケンカしてるよ?」

「変なの。ケンカをするための友達なの?」

「そういうわけじゃないけど……友達じゃなかったら、ケンカもできないよ?」

「あなたって変わってる、マーカスおじさんに似ているわ」

 こらえきれなくなったのか、ジェニーがくすくすと笑う。

 ジェニーの笑う顔なんか初めて見た。教室で怒ったような顔をしているジェニーは大人っぽく見えるけれど、笑うと目がすごく細くなってふにゃんって油断した顔になる。

 そうか、やっぱりジェニーも僕とおんなじ子供なんだなって思ったら、なんだかうれしくなって、僕もクスクス笑ってしまった。

 ジェニーは少し怒ったみたいに頬を膨らませて、背筋を伸ばす。

「何よ、何がおかしいのよ」

 だけどそれは怒ったふりで、目元は相変わらずニコニコしているんだから、怖くもなんともない。

 僕はついに大きな声で笑いだしてしまった。ジェニーも僕に釣られて笑い出した。大きな声で。

 僕たち二人はしばらくの間、二人でワハワハと笑いあっていた。

「僕がマーカス博士に似ているって? どこが?」

 笑いながら聞くと、ジェニーが笑いながら答えてくれる。

「そういう、子供っぽいところよ」

「仕方ないじゃん、子供なんだから!」

「それもそうね!」

 たったそれだけのことがおかしくって、僕たちはまた、大声で笑う。涙が出るほど笑った後で、ジェシーが目元を拭いながら言った。

「ああ、すっきりした。でもね、友達にはなれないわ、ブライアン君」

「やっぱり友達は女子のほうがいい?」

「そういうことじゃないのよ」

 ジェニーはすごく困ってしまったみたいで、眉毛がハの字になるくらい表情を曇らせてしまった。

「この街で友達を作らないって、そう約束したの」

「誰と?」

「ごめん、それは言えない」

「よくわからないけれど、それもみんなに内緒?」

「ええ、これはマーカスおじさんにも内緒にしてね」

「そんな内緒の話を、どうして僕にしたの?」

「どうしてかな……私にもわからない」

 ジェニーはまだ困った顔をしている。これ以上、いろんな話を聞いたら、ジェニーはもっと困ってしまうだろう。

 僕は腕組みをして、う~んと唸り声をあげた。

「残念だけど、そんな大切な秘密を聞かせてくれたってことは、僕たちはもう友達なんじゃないかな?」

「ええっ、そうなの? そういうものなの? 友達って!」

「僕とカールとマッシュはさ、そういう大人に言えない秘密を三人でいっぱい持っているよ」

「例えば?」

「この前、算数の小テストがあったこととか。マッシュったら、お母さんに怒られそうな点数だったから、秘密基地にテストを隠しちゃったんだ」

「それ、私に話しちゃっていいの?」

「うん、君が秘密を一つ話してくれたからさ、僕も一つ、秘密をお返し。これで僕たちは友達だね」

「ど、どうしよう、約束をやぶったら、怒られちゃう!」

「秘密にすればいいんだよ。僕も君の秘密を誰にも言わない、君も、僕の秘密を誰にも言っちゃダメだよ。そして、僕たちが友達だっていうことも秘密、ね、これで大丈夫だよ」

「でも……私、友達って、何をすればいいのか、分からないの」

「わからないって、今までの友達とは、どうしていたの?」

「私、友達がいたことなんて、一度もないから……」

「一度も? たったの一度も?」

 ジェシーが顔を真っ赤にして頷く。

「うん、一度も」

「そうか、じゃあ、僕が最初の友達ってわけだ、よろしくね」

 握手を求めて勢いよく手を出すと、ジェシーはおずおずと、それでもしっかりと手を伸ばして握手を反してくれた。それと一緒に、大きなため息も。

「ほんと、マーカスおじさんにそっくり」

「どこがそっくりなのさ」

「なんだかいい加減で、めちゃくちゃなところ」

「それは、確かにそっくりかもしれない」

 ジェニーが声を立てて笑った、本当に心から、楽しそうに。

「ふふ、本当はね、友達って、ちょっと憧れてたの」

「しかも、ただの友達じゃないよ、秘密の友達だ! ね、ワクワクするだろ?」

「そうね、秘密って、とってもワクワクする」

 痛いぐらいに力強い握手をしながら、僕は思っていた。

(ジェニーには、まだいっぱい秘密がある)

 だけどそれを無理に聞き出すつもりはない。そんなことはジェニーと友達になるのにどうしても必要なことだとは思えなかったし、ジェニーから話してくれるまで待てばいいだけのことだ。

 こうして僕とジェニーは友達になった。夏休みが目の前に迫る七月の、ある日のことだった。


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