友達の誓い2
カールは僕が何かひとことでも口をきいたらぶん殴ろうという勢いで怒っているし、僕の方はカールがぐうの音も出なくなるような悪口を言ってやろうと頭に血を上らせている。マッシュはそんな僕らを引き離そうと弱々しく両手を差し出して、おろおろとしているばかりだ。
「やめなよ、ねえ、やめなよ」
「いいや、やめないね」
「そうだ、やめない」
そんな僕たちのいざこざさえ吹き飛ぶほどの大音量で、ジェニーの声が教室中に響いた。
「ほっといてって言ってるでしょ!」
僕たちが振り向くと、六人くらいの女子に取り囲まれたジェニーが、顔を真っ赤にして両手を振り回しているところだった。
「どうせあんたたち、私が『かわいそう』だと思ってるんでしょ!」
それだけを叫ぶと、ジェニーは教室を飛び出して行く。机に並べたばかりの給食セットも、机の中にしまった教科書も、ランドセルすら持たないで、まるで弾丸のような勢いで。
僕はカールの手を振りほどいて、ぽかんと口を開けて立ち尽くしている女子たちのところへ駆け寄った。そこにはマリエルもいた。
「いったい、何をしたんだよ!」
僕が少し怒りながら聞くと、マリエルは悪びれるふうもなく肩をすくめる。
「何も……ただ、一緒に給食を食べようって言っただけ」
「それだよ!」
僕はここで、朝からずっと心に引っかかっていた『違和感』の正体に気づいた。
「それなんだよ、おかしいなって思ったのは! 僕たちはジェニーがどうしたいのか、全然考えてない。友達はいらないって言ってるけど、それが本心なのか、嘘なのかすら知らない。両親がいないことだって……秘密にしたいのか平気なのか、それすら知らないのに、勝手に友達になろうとしたり、勝手にかわいそうがったり、誰もジェシーの気持ちを聞いてあげていないじゃないか!」
教室がしーんと静まり返った。最悪の空気だ。
僕たちは誰一人として口を開くことなく自分の席に戻って、静かなままモソモソと給食を食べた。
けっきょくジェニーはその日、教室に戻ってくることはなかった。
帰りの会の後で、僕らは先生に呼び止められた。
「カール君、マッシュ君、それからブライアン君、ちょっと待ってくれないかしら」
僕たちは給食の時間の小さなけんかの後、まだ仲直りをしていない。だから先生の前に並んだ時も、なんだかぎくしゃくしていてお互いに顔をそらしていた。
先生はそれに気づいて、小さくため息をつく。
「あなたたち、大丈夫?」
「何がです?」
僕は自分の声があまりにも不機嫌そうでとげとげしいことに驚いて、慌てて両手を振った。
「いえ、あの……大丈夫です」
先生は優しそうな丸い顔を大きく横に振って、それから僕の顔を真っすぐに見た。
「ちっとも大丈夫じゃないじゃないの、ブライアン君」
「大丈夫ですよ、昼間ケンカしたことについてですよね。僕らはケンカなんてしょっちゅうしてるし、仲直りもしょっちゅうしているんだから、たぶん大丈夫なんです」
「そうね、いつもは三人でケンカして、三人で仲直りして、それでよかったかもしれないわ。でも今回のケンカに関係あるのは、三人だけじゃないでしょう?」
「ジェニーですか」
「そうよ。ジェニーさんにご両親がいないという話を聞いて、あなたはどう思ったの、マッシュ君?」
いきなり名前を呼ばれたマッシュはびっくりして目を丸くした。それからきょろきょろとあたりを見回して、最後に僕の顔を見つめて、もぐもぐと自信なさそうにつぶやく。
「ええと……でも、僕……」
先生はにっこりと優しく微笑んだ。
「大丈夫よ、マッシュ君、今はあなたの正直な気持ちを言っていいのよ」
マッシュは大きな体をきゅうっと縮めて、しょぼんと肩を落として話を始めた。
「僕は、かわいそうだと思いました。でも、ブライアンが……」
「ブライアン君の言いたいことはあとで聞くから、今はあなたの気持ちを聞かせてね。あなたは、どうしてかわいそうだと思ったの?」
「はい、僕はお父さんとお母さんが好きだから、もしも僕のお父さんとお母さんがいなくなったら、寂しい気持ちになってしまって……だから、ジェニーはずっと寂しいのかなって、かわいそうになってしまったんです」
「良くわかったわ。上手に言えたわね」
先生はマッシュの頭を撫でようとしたけれど、それを遮るようにしてカールがぐいっっと前に身を乗り出した。
「僕はかわいそうだなんて思いませんよ、先生」
「あら、じゃあ次はあなたの考えを聞こうかしら、カール君?」
「親との死別なんて、世界中にありふれた話です。別に親を亡くした子供はジェニーだけってわけじゃないし、もっとつらい状況に置かれている子供なんか、世界中にいくらでもいるでしょう。変わり者だけど優しいおじさんがいて、あんな大きな家で暮らせるんだから、ジェニーは恵まれていると思いますよ」
「そうね、その通りだわ。引き取ってくれるお家もない子はたくさんいるものね」
先生はカールの言葉に深く頷いた後で、僕の方を振り向いた。
「あなたはどう、ブライアン君?」