不機嫌な転校生11
研究所からの帰り道、僕は大変なことに気が付いた。
「あ、なんであの家にジェニーの両親がいないのか、聞くの忘れた」
カールがぴょんと飛び上がる。
「そうだ! ジェニーが人造人間じゃないという証明がなされていない!」
マッシュは渋い顔だ。
「そういうことはさ、相手が話してくれるまで聞かないほうがいいんじゃないかな」
カールは大きな声を出して、マッシュを叱りつけた。
「マッシュ! 君のそういう態度が彼女を傷つけたんだぞ!」
「なんのことさ!」
「『かわいそうな子』扱いだよ! 両親と一緒に暮らしていないからって、その理由がかわいそうなことだとは限らないだろ!」
「じゃあ、かわいそうじゃない理由って、なんだよ!」
「それは……」
僕たちは考えた。一生懸命、何度も考えたけれど、両親がいなくておじさんと一緒に暮らす理由なんて、親に捨てられたか親が死んだくらいしか思いつかなかった。
僕たちがずっと黙って考え事をしていたものだから、カーリーは退屈してしまって、僕の背中にぴょんと飛びついた。
「お兄ちゃん、早く帰ろうよ」
「まて、カーリー、僕たちは今、大事な考え事をしているんだから」
「知ってる。あのお姉ちゃんにお父さんとお母さんがいない理由でしょ、でもそれ、そんなに考えなきゃいけないことなの?」
「考えなきゃいけないことだろう。カーリー、お前は『相手の気持ちを思いやりなさい』って、習わなかったのか?」
「習った! でもカーリーはカーリーだから、あのお姉ちゃんの気持なんかわかんない! でもね、カーリーだったら、ここでこんなふうにコソコソ噂しないでほしいって思う!」
マッシュが目を丸くして、カーリーの頭を撫でる。
「なるほど、確かに。ジェニーだったら、『噂なんてしていないで直接聞きに来なさいよ!』って言いそうだよね」
「でしょ」
カールがそんな二人を鼻先で笑った。
「ばかだなあ、秘密の研究で作られたアンドロイドが、そんな簡単に秘密を話したりするもんか!」
「だったら、先にお友達になればいいんだよ。お友達だったら、秘密を話してくれるよ。ね、お兄ちゃん?」
ああ、お前も僕に話のお尻を任せるのか、カーリー……でも、確かに……。
「カーリーの言う通りだよ。こんなところで勝手な想像なんかしていても、ジェニーに両親がいない本当の理由がわかるわけじゃない」
「でしょ、さすがお兄ちゃん!」
「それに僕たちはマーカス博士と友達になったばっかりだろ。これからゆっくりと、少しずつ、そういう秘密を知って行けばいいんじゃないかな」
「なるほど、さすがはブライアン!」
僕たちはそれで話をやめて別れた。僕はカーリーの手を引いて家に向かいながら、そっとスイカ畑の向こうを見た。
スイカ用のビニールトンネルは、僕たちの腰までしかないような小さなものだ。だからそれが畑のずーっと向こうまで並んでいても、夕暮れ色に染まった空の風景を隠したりはしない。絵具箱から取り出したばかりの絵の具みたいに鮮やかなオレンジ色の空が広がっていた。その真ん中に立つ『マーカスの秘密研究所』は、夕日をいっぱい浴びて暖かそうなオレンジ色に染まっている。
「そうだな、ゆっくり友達になればいいんだよな」
そう思えば、あの不機嫌な転校生とどうやって友達になるか、その作戦がいくつも思い浮かんでくる。僕はとても楽しい気持ちになって、小さく笑いながら家への道を歩いて行ったのだった。