旅をする白絵具
果てしないパレットの上、白絵具は生まれた。
世界の中の何らかの力によってギュッと世界に産み落とされた。
何物も真似できない純粋で美しい白。
しかし彼は孤独だった。
家族という概念は無い。何から生まれたかもわからない。
「私はなに?」
白絵具は呟いた。
「一緒に探さない?」
声が響いた。
声の先には青絵具がいた。
「君だけじゃきっと見つけられない。僕と一緒に君が何者か探しに行こうよ」
青絵具は手を伸ばす。
「でも、君と手を繋いだら僕が僕で無くなってしまう」
白絵具は彼の手を取ることは無かった。
「これは必要なことなんだ。僕と一緒に行けば僕の知識が手に入る。知識を増やさなければ、いつまで経っても君が何かわからないままだよ」
青絵具は手を伸ばしたまま、優しく微笑んだ。
「君の言う通りだ。このままじゃきっといけない」
白絵具は青絵具の手を取った。
二人は空色絵具となり、果てしないパレットの上を歩き始めた。
「僕は何色だ?」
声が響いた。
「君は黄色だよ」
空色絵具は答えた。
「でも僕は自分の色を見ることが出来ない。でも君と混ざれば、僕が何色なのかが証明される。僕も連れて行ってくれないか?」
黄色絵具は手を伸ばした。
「でも君と混ざれば何色になってしまうか解ったものじゃ無い」
空色絵具は頼みを断った。
「お願いだ。一人ぼっちは耐えられない」
黄色絵具は涙を浮かべた。
「わかったよ。一人の辛さは僕も知ってる」
空色絵具は黄色絵具の手を取った。
三人は緑色絵具となり、果てしないパレットの上を歩き始めた。
「そこの君、綺麗な色をしているじゃないか」
声が響いた。
「君は赤紫色かな?」
緑色絵具は名前を訊いた。
「そうさ。良ければ僕を連れて行ってくれないか。君は見たところ優しい色をしている。優しいだけではこれから先、他の色に消されてしまうよ?」
赤紫絵具は言う。
「優しさ以外に何かが要るの?」
緑色絵具はそう訊いた。
「力さ。優しさも必要だが、力が無ければ意味が無い。僕は見るからに強そうだろう? 僕を連れて行った方が良い」
赤紫絵具は手を差し伸べた。
「うん。君の言う通りだ」
緑絵具は赤紫絵具の手を取った。
四人は黒色絵具となり、果てしないパレットの上を歩き始めた。
彼は真っ黒になった。
生まれた頃の色はすっかり忘れてしまった。
「僕は元々何色だったんだろう」
黒色絵具は呟いた。
誰の声も響かない。
パレットの上の絵具達は黒色絵具の事が大嫌いだった。
彼と交れば色を消されてしまうから。
しかし、彼は何色にも消されることの無い色を手に入れることが出来た。
彼はこの世界の王様になったのだ。
彼の踏みつけるパレットの色は綺麗な白だった。
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