異変
「きゃっきゃっ!真咲ちゃんの初めてのおつかいだねっ♪」
俺を見送るために玄関まで付いてきた母の最初の一言がそれだった。
おつかいというより、お供…付き添いと思うんだが……。
その前に初めてじゃないはずだ。数日前にカレーライスを作るのにルーを買ってくるのを忘れたといって買いに行かされた記憶がある。まぁ、確かにルーがないとカレーじゃなくなるのでなくてはならないものだが…。
……いや、ちょっと待った。俺の名前は真咲じゃねぇ、真樹だ!異口同音だ!
「お母…さん?その言葉に幾つか突っ込みたいところがあるんだけども………」
「行ってらっしゃいっ♪」
母はその言葉を無視し、俺に手を振った。
それとほぼ同時に着替えと朝食の為に一度自宅に戻った小鳥が俺の家のドアを開けたところだった。
「真樹のお母さん!大丈夫です!下劣な男共からは私めが護ります故!」
「俺は男に襲われるのか!?そもそも口調どうしたんだよ小鳥!」
「あらヤダァ、いい子だワァ…。真咲ちゃん、小鳥ちゃんと結婚しなさい。同性婚なら私がなんとかするから」
たらぁー。っと赤い鼻水…もとい、鼻血が一筋垂れていく。
「…って、お母さん!鼻血鼻血!!」
まだ兄は行ってないのか…。というような顔をして近づいて来た緋香里は母の顔の状態に一言言ってから慌ててティシュを取りに行った。
なんかもう…「同性婚」とか聴こえた気がするが……突っ込むのはもういいや。これ以上無駄に体力を消耗したくはない。
「い、行ってきます……」
「行ってらっしゃい♪信号よく見てお車には気をつけるのよー」
そう言う母の顔を家の戸から出る合間にチラッと見てみたが、その顔は満面の笑みでその奥底に悪戯心が潜んでいるようなものであった。
「いやぁ、いつ話しても面白いお母さんだねー」
体の変異を話し合いながら街中を歩いている最中、小鳥がふと思い出したかのように俺の母のことを切り出してきた。
いつまであんな心は女子高生!キラッ!というのが続くのかが心配なのだが…、他人から見てみればそう見えるのだろうか。頭の中がハッピーワールドなだけな気がするが…。
「そうかぁ?どう見たってありゃあ心は大人になれなかった一種の病気だよ」
「お母さんの心の時間の流れは外界に対して遅すぎたのね」
「えっ」
なんか、小鳥らしからぬ科白が飛んできた気がするのだが………、き、気のせいだよな。うん。
そう思いながらいつもと変わった歩幅に悩まされながら歩いていく。
小鳥はそんな俺に合わせて歩くペースを落としてくれていた。
この時期には少々輝きの強すぎる太陽がモノに隠れ、俺らの周囲が陰に覆われた。
「きゃぁぁあああああああああああああああ!!」
それから一秒も経たず、
この道の双方の歩道から幾重にも重なった人々の悲鳴が聞こえてきたのだった。
反射的に歩道に立っていた人たちが向いていた方向…、早朝陽が上る東側を向いた。
そこには、5メートルは軽く超えるであろう大きな何かが大きな音をひとつも立てずにその場にいつの間にか立っていた。
雲に隠れたと思っていた太陽はソレの後ろで輝きを主張している。
対になる大きな翼、太陽の輝きで輝く見るからに獰猛な牙、丸太のように太い尻尾、体全体を包み込むような自らギラギラ輝いているように見える鱗。
そう……それは、ファンタジーの世界だけの生物と思われていた竜の姿であった。
うーむ、どうもこういうファンタジー要素が絡んでくるという…
( ̄ω ̄;)
ま、ええか。