変化
ピピピピピッ。
定刻をしっかりと守る目覚まし時計が主に目覚めの時を耳をつんざくような音を鳴らしてそれを伝える。
「ん………んんっ……………」
主は半場覚醒している意識で眠気の余韻に浸りながら丁度手の届く位置に置いてた目覚まし時計を止めるために手を真っ直ぐ伸ばす。
ギリギリまで伸ばしてみたが鳴るそれに何故か手が触れない。
寝ている内に体がベットの後方に下がってしまったのかと思い体を前にずらしながら伸ばした手で宙を足掻く。
その時にふと思ったのだか、よく身長の伸びる俺にとって、例え体が下に下がっていたとしても思いっきり膝を曲げて丸くならない限り不可能な筈だ。しかし起きたときはその様な体型ではなかったし、そこまで寝相も悪くはない。
そこで意識が大体覚醒して未だに止まない時計の方を見て……
「…………は?」
俺の意識は覚醒した。
指先から時計までの距離に驚いたからというより、俺の手が昨日よりも小さくなっているという事に驚いたからだ。
パッと見るからに緋香里と同じくらいかそれ以下、それに焼けていたはずの肌が指先から腕にかけて白く、きめ細かくなっている。
少々ついていた筈の筋肉も夜な夜な家出…もとい体出?をしたかのように無くなっているように思える。
そもそも一夜にしてその様な現象が起こるわけがない。
何処ぞの探偵漫画みたく薬を盛られたという訳でもあるまい。
その時何やら長い髪の毛が視界に入った。
何かと思い触れ、軽く引っ張ってみると自分の髪の毛が引っ張られた感覚がする。つまり、これは俺の前髪ということだ。
だがおかしい、こちらは昨日まで眉毛に掛かるかどうかの位置にあった筈。
だが、現在視界に入っているのはそれを超えて伸びている。
その時、俺の頭でとある現象が思い浮かんだ。
恐る恐る、自分の胸に手を当ててみる。
昨日までは筋肉が多少ついていた筈だが摩ったり揉んだりしてみるが筋肉がついているという感じもなく、また想像していたアレのような感覚もない。
ほっ。と心の中で一息ついて続いて股の方に手を伸ばす。
有ってくれ、俺の魂。と昨日誰かが言っていたような台詞を思い出しながら指先が股に触れ、そのまま股についている筈のそれを手で握る。
もにゅっ、と少々小さくなっているとは思うが、十数年もの間共に生きてきたソレは確かについていた。
「……よかった」
と安堵の声を漏らす。
どうやら何処ぞの話で出てくるような女体化ではないようだ。
それに安心してもう一眠りしようと毛布を掴んだその時、
「目覚ましうるせぇわ!ゴルワァア!」
とずっと鳴りっぱなしだった目覚まし時計の音に苛立ちを覚えた緋香里が部屋のドアを思いっきり開けて突入してきた。
慌てて被ろうとしていた毛布を投げ飛ばして目覚まし時計の音を止める。
そして暫しの沈黙。
はて?いつもなら蹴りの一発やら飛んできてもおかしくはないのだが…。と疑問に思いながらずっと見つめていた時計から緋香里の方を向くと、緋香里は口元を手で覆い、今まで見たことの無いような見たような驚きを顔で表現していた。
「どうしたの………お兄ちゃん」
「は?」
驚きの最中になんとか捻り出したようなその言葉に俺は思わず聞き返そうとしたが、口から漏れた声が高く、それが自分の声だと気付くのに数秒掛かった。