名前
彼女の笑顔を破ったのは小鳥の声だった。
「胸谷……覗き?こんな時まで変態発言?人がまじめに聞いてるのに名前くらいちゃんと言いなさいよ。さっきまで真樹が制していたから我慢したものもあるけどねぇ…もうとことん言って殺るから!!!」
………え。
ちょっと待った、小鳥なんだかキツくなってないか!?
もしかして先ほど能力を使った影響だろうか。
胸だけでなく温厚さも失ったのはわかっていたが、能力を使うことで温厚さが更に減り小鳥の中に潜む猛獣が表れてしまったんだろうな。
あの小動物のようなほんわかした小鳥は何処へやら。
………………………いや、そうじゃなく。
良い名前だなとか言うべきところを「ふざけるな!」って小鳥さんふざけないでくれよ。
俺もその字が脳裏を掠めたけども。
あと殺るな。
「んだとごるわぁああああああ!!!!??私の名前をバカにするのは構わない。だけども、父と母に貰った名前を………ましては代々受け継がれてきた苗字をバカにするとは!いくらなんでも頭をいきなり殴られたことを我慢した私でさえ我慢ならん!ちったぁそこに座れガキィ!!!」
ほら、怒った。
殴られた原因は宗谷さんの方にある気がするが、覚えていたのか…それ。
そして性的趣向で一人称が俺となっていたのに対し、ただ頭に血が昇ってキレただけじゃ変わらないのね。
別の意味で話し方が怖いけども。
「あぁん!?ふざけたあんたが悪いんだろうがぁ!それともなんだ!?てめぇの両親は名前に覗きと名付けるようなふざけた野郎だったのかよ!えぇん!?」
あ、始まるわ…これ。
女と女の争い。
違う訂正、女性の皮を被ったおっさんと女性の皮を被った猛獣の争いや。
「だれがふざけたってぇぃ、ワレィ!!ちゃんとした名前だって聞いてなかったんかいちゃんと耳ついてるんか!?あと人の顔もよぉ!」
「付いてるわいボケェ!そろそろ女性の皮脱いでおっさんの顔出したらどうでっか!?」
あかん………これはアカン!!
目の前で今まさに地獄が生まれようとしている…!
先刻戦った竜並みに…いやそれ以上に恐ろしい。
「ちょっと二人とも落ち着け!」
「黙れ!」「黙って!」
双方から酷似した言葉で同じ意味の声が飛んできた。
因みに「黙れ!」が小鳥で、「黙って」が宗谷さん。
俺に罵声を浴びせた後も口論を続ける二人。
仕方ない……………できればやりたくなかったんだが…。
「やめろよ二人とも!!上脱ぐぞ!?」
効果は…………あった。
「え、ちょ、ま。やめるから脱がないでぇえええええ!」
取っ組み合いになりかけていたのを止め、俺の服に縋るように小鳥が近づいてきた。
小鳥はこれで撃沈。
宗谷さんはというと……。
「ふははははははははははははははははははは!!!脱ぐというならとことん暴れてやりましょう!真咲ちゃんが全裸になって恥ずかしい部分を羞恥の顔をしながら見せてくれるというならば宗谷希紀こと私は暴れてやりましょうぞ!」
逆効果だった。
右手を強く握りしめ目の前で溜めたあと、天へと突き上げる。
なんだろう、この”我が人生一片の悔いなし”と聞こえてきそうなフォームは。
全裸とか言ったっけな…。
「あ、なら脱がねぇわ」
「バタンキュー。」
棒声を漏らしながら素早く地面に突っ伏した。
瞬・殺。
これで小鳥も宗谷さんも戦意は喪失。
使えるな…これ。
使いたくはないから最終手段となることは必然的であろうが。
「あのなぁ、小鳥。人の名前を勝手に改変して怒るなよ。そして宗谷さん」
「お姉ちゃんって呼んでいいんだゾ☆」
「年が幾つかは知りませんが、年上あれば大人の対応というのをみせてもらいたかったです」
無視。
「ロリっ娘な真咲ちゃん憧れる年齢だゾ☆」
ロリじゃないので無視。ロリであっても無視。
あとなんだよその口調、変動が激しいなおい。
「それじゃ真咲ちゃんにはオトナの体旺てのをみせちゃおっかな!」
体旺………恐らく造語だろうが”体が盛ん”と言いたいのだろう。
自分の体を見せつるのは個人の勝手なんだが若い男にゃ強すぎる毒である。
そして宗谷さんは悠々と着ていた服に手をかけ、脱ぎ始めた。
脱ぐなよ。
「貴様ぁ!胸のない私を愚弄するが為に脱いでおるのか!」
「バッカじゃないの!?どうしてただの娘に私の裸体を見せないといけないんだよ!例え胸が幼女だったとしても思考が幼女じゃない貴女になんか見せません!私が裸体を見せるのは幼女の為、幼女が未来に希望を持ち目を輝かせる為にあるのです!」
あ、また始まったわ。
お陰様で宗谷さんは脱ぐのを止めてくれたが、はだけた服の隙間から見える白い肌がエロスを醸し出している。
横目でちらちらとこちらを見ているようだし……わざと見せているのか!?
そんなことされても俺は反応しないぞ。
「ちょっとあんた。肌わざと見せつけてるでしょ」
「は?貴女が私の動きを制した結果でしょうに」
……………この二人水と油の関係だな。
「ごめん宗谷さん、俺たちこの後も用事があるんだ。そろそろ……いいかな」
「なるほど!そろそろ私の裸体が見たいのですね。分かった、真咲ちゃんの脳内を私の裸体で埋め尽くしてあげまs」
宗谷さんが暴走を始めた直後、今度は素手で頭部を殴り気絶させた。
………明日には死んでそうだな。
「さて、そこら辺のちり紙に帰りますって書いて帰ろう、真樹。こいつ起きてたらいつまでたっても帰れる気がしない」
そう言いつつテーブルの上にあった手頃な紙を手に取りつつ言葉を吐き捨てた。
「お、おう」
今日何度も感じた小鳥の変容に対して短めの言葉を返すことしかできなかったが、どことなく小鳥を頼もしく感じたのも事実である。




