終戦
『あででででででででででででで!!』
通信機を通して男の断末魔の叫びが聴こえる…。
集中出来ないんだが…、まぁ変質発言よりかはマシだろうか。
おっと、やべ尻尾攻撃。
そう思いつつ後退しようとしたが、疲労が溜まっていたのだろう、片足がもう片方の足にぶつかり尻餅を着いた。
「あっ……」
間に合わない、ここから立ち上がり逃げようとしても捕まるだけだ。
腕輪を使って跳躍しても先と同じことが起きれば今度こそ助からないと思う。
助け舟は今、沈没寸前である。
……………腕輪?
俺は傍と思いついたことを実行した。
“かたく!”“おもく!”
俺は可能なだけ体を構えて腕輪にそう念じた。
尻尾と強くぶつかる。
「ぐっ…!」
“おもく”と念じていなかったら今頃吹き飛ばされていただろう。
それに、最初と比べて気のせいだと思うが竜の体格が小さくなっているようにも思える。
多分、竜にダメージを与えたことで竜に蓄えられていた『身長』を開放したからだろうか?
このまま願いを腕輪に込めつつ新たに“筋力強化”を念じ、剣でこの尻尾を斬ろうとしたのだが、体が岩のように固くなり動かなくなっていた。
「ありゃ?」
“かたく”と念じていたお陰で自身の体が硬くなり自身の体に対する痛みはほぼ皆無なのだが、このまま硬直状態が続けば新たな攻撃が来るだろう。
『あー、それは…いでででで!ちょっといい加減にしてください!今から真面目なことを喋るんですから!』
いきなり通信機から仮面の男の声が届いてきた。
「なっ…なんなのさ…」
俺は尻尾の重力に耐えつつ、苦しみ混じりの声を返した。
通信機を通して男と幼馴染みの言い合いが聴こえてくる。
小鳥ってあんなに他人に強く言い返したっけな…、だいたいは柔らかく返して柔らかく跳ね返されるんだけどなぁ。
時を待たずして向こう側の言い合いが終わり男の声が届いてきた。
『念じつつ聞いてください。えーっとですね、念じる際はちゃんと意味を含めて念じてください。言葉だけですとその言葉と同発音の意味のある言葉の意味まで含めて発してしまう可能性があります。まだ念じたことに対する無意識下で発生した意味を汲み取るまでの機能が組み込まれていないのでしっかり意味まで言ってください。』
なんだそれ、先に言えよ。
てことは“かたく”とちゃんと意味を含まず念じたことにより容易く崩れないほど固く─堅くなったが、筋肉で動かそうとしても容易く動けないぐらい硬くなってしまったという訳か、面倒いわ!
ならば“体を堅く!”“剣の刃を鋭く!”
「うぉ……ぉおおおおおおおおおおおお!」
先程念じていた筋力強化と合わさり少しずつ尻尾を押し返す。
俺と尻尾と間が開くにつれ刃を立てていく。
「…りゃぁあっ!」
しっかりと尻尾に喰い込んだ刃を思いっきり振り上げ、ソレを大きく切断する!
まるでそれは豆腐を切るかのような抵抗力のない感触だった。
あんなに硬そうな皮膚をいとも簡単に斬れるとは…想いの力ってすげぇな。
斬り取られた尻尾は原型を留めず光の粒子と化し主の体を求めて宙へと飛び出していく。
『ナイスです!真咲さん!一気に畳み掛けまいででででででででで!!!何なんですかあなたは!殺戮人形ですか!?私を畳み掛けなくていいです!』
何なんだ……あの2人…。
小鳥って胸がないとああなるのか…。
「小鳥、いい加減に止めときなよ」
『あ、了解』
……素直に止めた。
もっと早くに言うべきだった。
『あ、ありがとうございます。…さぁ真咲さん!一気にやっちゃってください!』
「ああ!!」
俺は掛け声と共に腕輪に“高く跳ぶ”と念じ、竜の胸部目掛けて跳ぶ。
竜は尻尾を斬られたことにより怒りを顕にし、俺目掛けて大きく腕を振るう
『あっ!また叩かれますよ!』
男が心配し声を掛けてきたが俺はそれに即座に返答する。
「クッションを頼む!」
『しかし着地地点がわからない限り…』
「違う!空中に!」
俺は竜の腕を指しながら答えた。
「………りょーかい!!」
男はそれで理解したらしく、腕輪を光らせ空中にクッションを出現させた。
俺と竜の腕の間に。
竜の大きな手は俺を捉えようとしたが、クッションに阻まれ、更にはその勢いがクッションに反発され跳ね返った腕の勢いで大きく仰け反る。
「くらぇえええええええ!!!」
剣を両手で持ち、突き刺すように竜の心臓部分であろう箇所を穿つ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そのまま、剣を振り下ろし下腹部まで裂き開く。
ブシャアアアアアアア!!!
そこから多くの鮮血、粒子が噴出され竜の体が朽ちていく。
『ナイスです!真咲ちゃんやりましたね!』
「……終わったのか?」
『ええ、この戦いは終わりです』
朽ち果て、消えた竜から一つの玉が浮き上がり俺の方へと飛んできた。
様々な色が混濁した片手で掴めるようなサイズの玉。
光の反射で赤や青、緑といった様々な色が伺える。
「なぁ……なんか竜から変な玉が出てきたんだけど」
『それは核ですね。竜の核。それ自体に何を人から奪い取るのかが組み込まれていて、それを元に竜やらなんやらと生まれてきます。』
「へぇ……どうすればいいんだ?これ」
『触っちゃってください。触ることで貴女に吸収されて仮となりますが貴女の体の一部となります』
「仮?」
『ええ、核は元々誰かの一部のものでした。今回は身長を奪うというものでしたので誰かの身長。つまり一時的にですがその身長を自分のものにできるのです。勿論、仮なので100%自分のものには出来ず、些細な量しか出てこないでしょう』
「ふぅーん。そいや、これを放っときゃ持ち主のところへ帰っていくんじゃないのか?」
俺はその玉に手を伸ばしつつふと出た質問を投げ掛けた。
『いや、そうしますと再びそれを核に何らかの化物が生まれてくるだけと思います』
「げ、マジかよ」
それはその言葉に催促されたかのように核の玉を掴んだ。
掴んだ瞬間ソレは砕け散り、粒子へと姿を変えて俺の中へと取り込まれていく。
「俺がもらっても良かったのか?」
『貰っときなさいよ。仮なんだからいつか本人に帰っていくんだよ、きっと』
何故か男の代わりに小鳥の声が届いてきた。
戦いが終わって一度も声を聞いた覚えがないし話したかったのかな?
『今彼を押さえつけているから、さっさと戻ってきて。男を尋問するから』
どうやら男は喋れない状態と化していたらしい。
いつの間に。
や、やっと時間が…………