変態
「グギャアアアア!!」
竜に向かって走り出すとそれは叫ぶと同時に尻尾をこちらに向けて大きくなぎ払う。
“跳躍力を!”
腕輪に強くソレを念じ、大きく飛び上がり尻尾攻撃を避ける。
「喰らえぇッ!」
竜の首元近くまで跳べたのでそこ目掛けて剣を振り、首元を深く斬りつける。
首元を斬りつけられたことを気にもしなかったかの如く尻尾を振った勢いのまま跳躍して落下する以外動くことが不可能な俺を大きな手で叩き飛ばした。
「うぐっっ!」
かなりの衝撃だった。
男の発言からするに奴は精神と肉体の半分のような存在、つまり俺に対する肉体的ダメージは半分と思っていいだろう。
なのにコレだ。純粋な肉体の竜じゃなくて助かった……。
…いやちょっと待て、いま俺空中からたたき落とされたよな。
地面は竜と違って普通の地面だからぶつかったら即終わりじゃねぇか!
マジかよ、最初カッコいいところ見せたかと思えばこれか!
ぼふっ。
かっこわりぃだの、もうちょっと冷静に行けばよかっただの考えてたらなにやら柔らかいものにぶつかった。
「なんだこれ」
先程までこの場には落ちてはいなかったはずだ。
風で飛んできたとしても、今日の風で飛ばせるのは紙切れ程だろう。そんなもので助かるはずもないし………何なんだ、これは。
『あー、よかったよかった。間に合いました』
男の声が聞こえた。
「あ、もしかしてこれお前が出したのか?」
『ええ、腕輪を使ってその位置にクッションを出すようにしました。早くどいてください、いつまでも念じるのは面倒です。』
「あ、了解っす」
フカフカなクッションにいつまでも乗っかってはいたいが、そんなことをしていたら竜に狙われて終わりだし、男にも迷惑なのでその場から離れる。
『ジャンプするのは構いませんが、着地のことも考えてからやってくださいよね。危ないです。可愛い四肢や可愛いお顔可愛い胴が怪我しちゃったらどうするんですか。あ、でも「怪我しちゃった……うえぇん(泣)」なんて状況になりましたらそれはそれで萌えますね』
「ちょっとお前を見直しかけた俺が馬鹿だった。とてつもない変態だな、お前」
確かにジャンプに関しては反省をするが、台詞の最後がなぁ……戦意が削がれた。
『変態だなんてそんな……フフッ、私ゃノーマルですよ。……まぁそれはさておき、安全にお願いします。周りの人が目覚める前に倒して頂くと有り難いです』
「お、おう…」
気力が通信の声に削がれつつ、俺は再び竜に突っ込んだ。
どうやって倒そう。
それに、冷静に考えてみたら剣で火炎を消すなんて凄いですよね。
普通なら剣をすり抜けて直撃するはず…