豪炎
竜は物珍しそうに空や周囲に建っている建物をじっくりと眺めつつ、グルルル…と喉を鳴らした。
なにかに気付いたのだろうか、自分の足元をサッと目線を向け、その場にいたまるで蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまっている人々を凝視する。
そして、反対車線からでも聞こえるような大きな音をたてながら肺いっぱいにその場の空気を吸い、ゆっくりと大きく口を開く。
誰もがこの後の出来事を薄々感じてはいた。だが、そんなことするはずがない、起きるはずがないと否定的な考えもあり、そんなことしないでくれよと念を乗せた視線を竜に向けていた。
しかしその念も通じることはなく、竜は振り払うように燃え盛る炎を口から放出し、周囲にいた人々は炎の中へと飲み込まれていった。
人に触れなかった炎は直ぐに消えたが、人を包み込んでいる炎は消えることなく蝕み、取り込まれたひとは悶え苦しむように倒れ込んだ。
誰もが非現実的な光景に驚愕し、その場に貼り付けられたかのように動けないでいる。
「なんなの…………アレ」
ふと、小鳥が零した言葉によって周囲の人々が我に返ったかのように叫び、その場から逃げ出していく。
その声を耳にした竜が振り向きざまに口から先程と同じく真紅に燃え盛る炎をこちらに向けて吐き出した。
まだ現実を受け止められていなかった俺達と逃げ遅れていたその周囲の人達はその炎に巻き込まれて死ぬ、と直感的に判断した。
だが、その時。
「幼女に牙を向けるとは…失せろ、獣」
と、言葉を吐きながら俺達の目の前にフードを深くかぶり、マントで全身を隠す謎の男が立っていた。