表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

7 カラクリ屋敷か……



 ◇



 老人の体調も平常に戻り、落ち着いて話の続きをできる状態になった。


「なるほどのー」


 僕のステータスを一通り老人に伝えたところだ。僕のステータスを聞いたことで、老人の眼が光る。しきりに頷いている。


「そうなると、スキルを覚えるのも慎重になるべきじゃな。《基礎技術》も取るのは控えるべきかもしれん」


「そこまで慎重になるの?」


 老人の意見にコルニス姫が、疑問を口にする。

 僕は、話の流れそのものがわかっていない。ともかく理解するために、わからない部分は積極的に聞く体勢でいる。


「《基礎技術》って言うのは?」


「第一クラスのスキルのことじゃ。クラスによって内容は異なるが、名称はほとんど同じじゃ。誰もが覚える基本スキルじゃな」


(基本スキルか)


 基本と言うからには、この先に応用とかがあるのだろう。基本を覚えていることを前提で、いろいろ考えられているだろうから、普通であれば迷わずに取るはずだ。

 僕の場合は、普通じゃないから迷う状況になっている。


「基本スキルなんだから、一つ目は《基礎技術》でいいんじゃないの? 《基礎技術》を取らないんだったら、第一クラスの意味が半分なくなると思うんだけど?」


 姫は普通に考えていて、迷っていない。老人が控えるべきと考える理由に思い至っていないようだ。


「そうじゃな。それでも、急いで『空き』を減らす必要はないじゃろう。なにしろ、勇者殿には【異世界の住人】がある」


「あっ、そっか」


 姫と老人は、また僕を置いて二人で話を進めていく。また、この世界の常識が、僕の理解を妨げている。


「【異世界の住人】が、どうしてスキルと関係するんですか?」


「ふむ。[ステータスピクチャー]で浮かび上がったステータス画面に触れたことはあるかの?」


「いえ」


「では、触れてみなされ。それで、勇者殿の疑問は解決するはずじゃ」


 僕は、老人に言われたとおりに再びステータスを呼び出した。

 ステータスは、[ステータスピクチャー]から空中に飛び出して表示されている。空中に映像が投影されているような感覚だ。

 その投影された表示に自分の指を重ねる。場所は、称号の部分、【異世界の住人】だ。

 僕の指が表示に触れると、ステータス画面が回転し、表示されていた内容が変化した。ステータスが表示されていたものが、称号【異世界の住人】の説明文に変わった。


(なるほど。これで称号の詳細を確認できるのか。こういうことなら、スキルやクラスも詳細が確認できるかもしれない)


 僕は早速、説明文に目を通す。そして、読み取ったことを理解半分で口にした。


「……【異世界の住人】は、新しいスキルを作ることができるんですか?」


「その通りじゃ。【異世界の住人】は、この世にまだ存在していない、新しいスキルを生み出すことができる」


 自分で見て、さらに外から教えられて、少しずつしみ込むように理解していく。


「それって、どんなスキルも好き放題で作れるってことですか?」


「好き放題と言うわけではないのー。すでに存在するスキルは作れんし、自分の能力以上のスキルを作っても使いこなせずに宝の持ち腐れになるだけじゃ」


 さすがに、何でも作れるというわけではなかった。それでも、制限をかけられている印象は少ない。誰も知らない、この世界に存在しないスキルを作らないといけないが、それはそれで面白いと思う。


「何事もほどほどが良いと言うことかのー」


「そうですね」


 僕と老人は、二人で何かを納得していた。

 やや、蚊帳の外にいるコルニス姫が、そんな話を変える。


「説明は、もうここまででいいよね?」


 姫の様子は、少しそわそわしている。

 ここまでの説明を求めたのは、僕だった。それでここまで話を続けてきたが、確かに今すぐに聞きたい話はなくなった。

 僕は、姫に頷きを返した。

 それを見たコルニス姫は、笑みを浮かべて言い放つ。


「それじゃあ、次に行こう!」


 そう言えば、『勇者』の称号を得るための話と行動をしていたのだったか。主にその行動をしているのは、姫だけだけど。僕は、断じて巻き込まれているだけだ。

 仕方なく僕は、続きを促した。


「次って、何?」


「そうだね、さっきは剣だったから――」


「姫様」


 コルニス姫が、次の行動を考え始めたところで、声をかけられた。声をかけて来たのは、メイドのエレンだった。

 いつの間にか訓練場にいたエレンは、表情の乏しい顔で、背筋を伸ばした綺麗な姿勢で立っていた。そしてエレンは、頭を下げて話を続ける。


「ユータ様をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「何か用事?」


「はい。ポロム様が、ユータ様をお呼びです」


「ポロムが? どうして?」


「詳しいことはわかりませんが、ユータ様にお会いしたいということです」


「うーん、私もいろいろユータと試したいことがあるんだけど……」


 渋る様子を見せている姫に、さらにエレンが言葉を続けた。


「それから、姫様をバラス様がお呼びです」


「うぅっ」


 それを聞いたコルニス姫は、明らかに嫌そうな顔を見せた。頭を抱えて、その場で丸くなる。しかし、すぐに数回頭を左右に振って、迷いをふっ切ったように立ち上がった。


「はぁー、わかったわ。伝えてくれてありがとう」


 コルニス姫は、エレンに礼を言い、僕にも別れを言って訓練場から去って行った。

 立ち去る姫を見送って、僕は新たに現れたエレンへ尋ねた。


「それで、僕はこれからどうすれば?」


「案内は、ウィルにお願いしてありますので、ウィルと一緒に研究所へ向かってください」


 表情を変えずにエレンが、僕の次の予定を告げる。

 僕は、これから研究所へ向かうことになった。研究所で会うって、何か嫌な予感がするのだが、人体実験とかないよね?



 ◇ ◇ ◇



 研究所は、城の敷地内の辺鄙な所にある。城の陰になって、ほとんど日光の当たらない場所に建てられていた。そんな環境なため、草花も植えられていない殺風景な所だ。

 道すがら、僕は、ポロムと言う人物についてウィルに話を聞いた。

 ウィルの話によると、ポロムと言うのは、このサイフィルム王国の第二王子だそうだ。研究所にずっと詰めていて、外にほとんど出てこないらしい。

 話をしながら歩いていると、すぐに研究所が見えてきた。研究所と同じ城の影の中に入ると、静かに雰囲気が変わる。肌がピリッとするような不気味な感覚が、体中に走る。あまり良い感触ではない。

 研究所の建物は、一階建ての平屋だ。外からは、何の建物なのかわからない。言われて始めて、何の施設なのか知ることができる。そのくらいに、普通な外装をしている。その外装で、なぜ不気味な感覚を抱いてしまうのだろうか。


「ここからは、ユータ様お一人でお願いします」


「えっ、そうなの?」


 研究所の入口でウィルは、足を止めてしまった。中まで案内してくれるものかと思っていたが、どうやら違うらしい。


「許可を得ていない私が、足を踏み入れる訳にはいきません」


 ウィルは、僕の呼び出された要件が終わるまで、研究所の入り口前で待っていることになった。

 僕は、何の変哲もない扉を開けて、一人で研究所内へ進む。

 研究所内に入ると、真っ赤な絨毯の敷かれた通路が、真っ直ぐに伸びていた。その通路を一歩進むと、目の前に変化が現れる。

 僕は、その変化にすぐに体を強張らせて様子を窺った。

 僕の目の前、通路上の空中に文字が浮き上がった。通路内を見回すと、壁の隅に機械が置かれている。おそらく、プロジェクターのような機能を持った魔工品だろう。


(まだ、文字は読めないんだけど……)


 僕は、[ステータスピクチャー]を取り出して、記録しておいた情報を引き出した。

 [ステータスピクチャー]は、記憶媒体として使用できる。授業で使ったのは、その機能だ。この世界の文字と日本語の対応表を記録させている。これを使って、日頃から勉強するように先生から言われていた。

 対応表とにらめっこを繰り返して、何とか空中に投影された文字を解読すると、道に沿ってまっすぐ進み、最後の十字路で止まれと書いてあるようだ。

 僕は、その指示の通りに道を進んだ。真っ赤な絨毯の上を真っ直ぐ進む。途中にあった十字路は、曲がると絨毯が引かれていない通路になる。完全に脇道の扱いだ。

 そんな十字路を二度通り過ぎると、行き止まりが見えてきた。その行き止まりの少し前に最後の十字路がある。

 僕は、指示の通りに、そこで立ち止まった。

 すると、大きな音が耳に届いた。最初に一度、何かが外れるような音がした後、断続的な振動が続いている。振動音は、何かを引きずっているような音を伴っていた。

 周囲を確認すると、右手側の通路が、沈み込んでいくのが見えた。振動が落ち着くまで、僕はその様子をじっと見守った。

 通路に現れたのは、地下に下りる階段だった。


(カラクリ屋敷か……)


 僕は、現れたその階段を下りることにした。それ以外に道はないしね。

 地下に下りる階段は、すぐに様相を変えた。一階の時のような洋装から、鉄板やパイプを使った雑多な構造になった。足下を照らす明かりも少なく、鉄色と影色が交互に視界に入って来る。

 地下には、それほど歩かずに辿り着いた。階段から通路へ移って、奥へと進む。

 地下の様子は、階段と同じようにほとんど鉄製で作られていた。プレハブのような印象も受ける。通路の両側には、何に使うのかわからない品が重ねられていて、通路の幅を狭めていた。

 僕の足は、すぐに行き止まりに辿り着いた。行き止まりと言っても、壁がある訳ではない。その行き止まりは、ちょっとした広間となっており、ソファとローテーブルが、一つずつ置かれていた。

 僕は、その広間に足を踏み入れ、周囲を見渡した。周囲も先ほどの通路と同じように、何に使うかわからない品で埋め尽くされていた。それでも足場の踏み場がないわけではない。床が見えている部分もある。

 そして、壁の一角に、一つだけ扉があった。この奥にもまだ部屋があるようだ。


(とりあえず、ここのソファで待たせてもらえばいいか?)


 僕は、獣道ほどの狭さの床を歩いて、ソファに腰掛けた。

 そこで、新たな変化が突然現れた。

 僕が腰かけたソファが、変形したのだ。内部からアームが飛び出し、僕の手首を拘束する。続けて、足下からもアームが飛び出し、両足を固定した。僕の体が、ソファに釘づけにされた。さらに、背後からもアームが飛び出し、僕の首を絞めつけた。


「うぐっ!」


 僕が苦しみを見せると、首の圧迫が減る。ただ、拘束されていることに変わりはない。首から足まで、僕の体は身動きが取れなくなった。


「ふふふふ」


 わざとらしい笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。いや、扉の向こう側から聞こえて来ているのは、わかっているけどね。

 扉が開かれると、そこには車椅子に座った少年がいた。

 車椅子は、特に少年が操作することなく、僕の前まで少年を運んだ。車椅子の背後には、いろいろな魔工品らしき機械が積まれていて、すごく重厚な様子を僕に与えた。普通の車椅子としてだけでなく、いろいろな機能を積み込んだ結果なのかもしれない。ハイテク車椅子のように見える。

 ソファに拘束された僕は、ローテーブルを挟んで少年と向き合った。


「初めまして。ようこそ、僕の研究所へ。僕がこの研究所の所長、ポロム=サイフィルムだ。以後、宜しく頼むよ」


 目の前の少年、ポロム=サイフィルムが、名乗りを上げた。ポロム=サイフィルムは、第二王子ではなかっただろうか。所長を担っているとは聞いていなかった。

 外にはあまり出ていないということだったが、その通りに外見は貧弱そうだった。肌は青白く、日光に当たっていないと想像できた。地下にばかり閉じこもっていては、人工的な光しか当たらないだろう。魔工品の光が、どういう扱いなのかは知らないが。

 とりあえず、ひどい扱いを受けてはいるが、一応名乗り返しておく。


「僕は、芳川勇太です」


 簡潔に済ませて、話を進める。まずは、この扱いをどうにかしなければいけない。


「それで、僕は、なぜ捕まっているのでしょう?」


「まあ、落ち着きたまえ。そう、急ぐことはない」


 そう言ってポロム王子は、車椅子の脇から手元へパネルのような物を引き出す。そのパネルを操作して何かを入力していく。

 入力が終わると、車椅子の両側からアームが現れた。そして、ポロム王子の背後で何か作業を始める。僕の視界から隠れているので、何をしているのかはわからない。

 作業が終わって、再び僕の前にアームが現れると、その手にはそれぞれティーカップが握られていた。ティーカップの片方は、ローテーブルの上に静かに音を立てずに置かれる。もう片方は、ポロム王子の手元に差し出された。


「遠慮せず、飲むといい」


「……いや、手が動かせないんですけど」


 僕の腕は、ソファの横に固定されている。

 それを聞き取ったのか、僕の腰かけているソファから新たにアームが現れた。そのアームが、ローテーブル上にあるティーカップを掴み、僕の口元に近づける。どうやら、自動で飲ませる機能があるらしい。高性能なソファである。

 僕の口元に最接近したティーカップ。

 それが、適度な距離に近づくのを待つ僕。

 僕は、一瞬失念していた。この状況は、すべて目の前にいるポロム王子が作り出したものだということを。

 目の前のポロム王子は、先ほどから笑みを浮かべ続けている。

 僕の目の前で、ティーカップが傾いた。僕の口に辿り着く前に、僕の前でティーカップがひっくり返り、中に注がれていた熱いお茶が、僕の体に振りかけられた。


「あっちぃーっ!」


 僕は、あまりの暑さに叫んだ。熱さに反応して体が飛び跳ねようとするが、鉄のアームに拘束されてそれができない。


「熱い、暑い、アツい! 何、これ! 熱すぎるんですけど! どんな熱湯ですか!」


「熱いか。それは冷まさないといけないな。ポチっと」


 僕が騒ぐ目の前でポロム王子は、パネルを操作している。

 その操作に従って、再び車椅子が行動を開始した。

 今度は、車椅子の背後からバケツが現れた。バケツの中には液体が入っているようだ。そのバケツが、王子の頭の上を通過して、放物線を描いて僕の前に来る。

 そして、バケツがひっくり返った。


「つめったーっ!」


 熱湯に続いて今度は、氷の入った冷水がかけられた。

 僕は、頭から足元までを冷水でつかり、太ももの上にたくさんの氷の粒が乗っかっている。


「寒いです! 寒いですよ!」


「それでは、次はこれだ。ポチっと」


「ぎゃーっ!」


 研究室の地下で僕は、思わぬ歓迎を受けることになった。こんなの絶対に歓迎しないけどね!



 ◇



 読んで頂き有難うございます。

 今回の解説コーナーは、【異世界の住人】について説明します。


 『称号【異世界の住人】』

 ―― 称号【異世界の住人】 ――

 汝は、別世界の住人である。その事実が、世界に与える影響は決して少なくない。それは、別世界の理をこの世界に持ち込むに等しい。この世の理を乱し、捻じ曲げ、汝に大きな力を与える。

 ―― 効果 ――

 ・スキルの作成

 ・パラメータ全体の上昇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ