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2 すてえたす?


 ◇ ◇ ◇



 僕が次に目覚めた時、そこはベッドの上だった。僕は、ベッドの上に仰向けで眠っていた。

 外から部屋の中に入る日の光は、朝の到来を示している。

 僕が寝ていたのは、見なれない部屋だった。首を左右に振って、部屋の様子を確認すると、とても西洋的な感じのする作りだった。いや、中世のような、と言ったほうが良いだろうか。ともかく、現代日本とは、似ていない作りをしている。壺とか、絵画とかもそれっぽく配置され、高そうな雰囲気を感じる。

 見なれない部屋の様子に緊張しながら、僕はゆっくりと体を起こした。

 僕が起きると、部屋の扉が開く音がした。

 その音に反応して、音のしたほうへ目線を向けると、誰かが外へ出て行くのが見えた。

 部屋の中には僕のほかに、人が二人ほどいたようだ。そのうちの一人が外へ出て、一人が部屋に残っている。

 部屋に残ったその人物を見ると、腰に剣を差していた。たぶん、本物だ。刃物を堂々と所持していられる国なんて、どんな国だろう。少なくとも日本ではない。

 その人物が、こちらへ来ることは特にないらしい。扉の近くから動かずに直立している。僕の監視か、何かとしてこの部屋に置かれているのだろうか。僕の記憶が正しければ、気絶する前の僕は逃げようとしていたから、そういう対応も当然だと思う。その辺りの対応は諦めるしかない。

 あの時から比べれば、僕は冷静に考えられるだけの余裕を持っていた。

 何も動きを見せない監視役(仮)から目線を外して、自分の体を確認する。

 僕は、ちゃんと服を着ていた。あまり着心地が良いとは言えない。独特な雰囲気を持った衣服だった。裸でいたのだから、あまり贅沢は言えないな。貸してくれるだけでも、礼を言うべきだ。

 体を動かすと金属がこすれる音が、小さく響いた。その音は、僕のごく近くから聞こえている。

 その音に違和感を覚えて、もう一度体を動かしてみる。

 再び、金属音が小さく響いた。

 その再度の動きで、違和感の正体は判明した。

 僕は、掛けられていた布団をめくって、自分の足を確認した。

 そこにあった僕の足には、鉄の輪が取りつけられていた。その鉄の輪には、鎖が繋がれており、鎖の反対側は、ベッドの足に繋がれているようだった。

 要するに、足かせだ。僕が逃げないようにするためだろう。


(やっぱり、問題のある行動だったかな)


 どんな言い訳をしても、結局のところは僕が逃げた結果が、今の状態なのだろう。この足かせも、足を圧迫してきついということもなく、僕に動かなければならない用事もなく、今はこのままでも不便はない。

 ベッドの上に楽な姿勢になって腰掛ける。


(これからどうするのか、どうなるのか)


 僕が思考に沈み始めたところで、再び、部屋の扉が開いた。

 部屋の中に入って来たのは、先ほど部屋を出た人物と、そのほかに二人の人物がいた。

 部屋に戻って来た人物は、すぐに扉の近くで直立不動の構えになった。監視役(仮)の二人は、もともとその姿勢でいたのかもしれない。

 新たに来た人物二人は、僕のほうへ近づいて来た。顔を確認すると、気絶する前、さらに言うと、僕が逃げ出したあの不思議な雰囲気の部屋に来た人物たちだ。

 青髪の青年と白髪の男性だった。

 白髪の男性が、まずは、僕の前で一礼した。


「少々、お時間をいただきます」


 そう断ってから、白髪の男性は部屋の中をテキパキと動きだした。椅子や机を動かしたり、部屋の外から茶器を乗せた配膳車を押してきたり、お茶の準備を始めたりしている。

 白髪の男性がお茶の準備をしている間に、青髪の青年は、ベッドの近くに配置替えされた椅子へと腰掛け、僕へ顔を向けた。

 白髪の男性のほうも準備が終わったらしく、部屋の中にいた監視役(仮)の二人に対して退室するように促した。

 部屋の中には、僕と青髪の青年と白髪の男性の三人だけになる。

 そこで、青髪の青年が頭を下げた。


「すまなかった」


 突然の謝罪の言葉に、僕は何を示しているのか理解できなかった。この対応のことなのか、僕の不思議な状況のことなのか、もっと別のことなのか、僕一人で考えても結論が出ない。


「いろいろと言いたいことはあると思うが、まずは何も聞かずに私の話を聞いてほしい」


 青年は、そう言って僕に真剣な眼差しを向けてくる。

 僕は、こんな状況でどうこう言っても何も進展しないと思って、素直な態度を示した。表面上は、何も言わずに青年の言葉に頷く。

 青年は、僕に頷き返すと話を始めた。


「私は、この国、サイフィルム王国の第一王子、バラス=サイフィルムだ」


 この青年は、王子様らしい。全く聞いたことのない名前の国だが、ここでそれは重要ではない。

 僕は、先に言われたとおりに何も口を挟まず、話の続きを待った。


「この世界は、あなたのいた世界ではない。異なる時空にある、異なる世界だ。まずは、そのことを納得して欲しい。その上で、これからの話を聞いてもらいたい」


 異世界。それを納得しろと来たか。

 いきなりそんなことを納得しろと言われても、納得できないが、納得しないと話が進まないのだろう。とりあえず、半分くらい納得する形で手を打つしかない。残り半分は、夢かドッキリだと思っておくことにする。


「この世界は、はるか昔から人族と魔族の間で争いを続けている。人族と魔族は相容れず、争いがなくなることはない。それでも、明確な勝敗をつけることはできた。この国では、過去に何度も異世界から戦士を召喚し、この世界を平定するために力を貸してもらっている。今回もまた、異世界の戦士の力を借りるため、召喚の儀式を行なった。その召喚によって現れたのが、あなただ」


 バラス王子の手が、「あなただ」の所で僕に差し出された。この場合は、示したになるのか。効果音が、ビシッと入りそうなほどに淀みない動きだった。


「具体的な話を言うと、あなたには、人族側の一員として魔族側の王を討伐してもらいたい」


(なるほど)


 ここまでの話でわかったのは、僕は召喚の儀式によって、この異世界に連れて来られたことと、この異世界の争いごとを収めるために魔族の王の討伐を望まれていることだ。この話が真実ならば、という条件付きにはなるが。


「無理じゃないんですか?」


 僕の口から出たのは、疑問形の否定の言葉だった。

 考えるまでもないことだが、僕に戦いなど無理だ。日本で生まれ育った中学生風情に戦いなどできるわけがない。ここがどんな世界なのかも知らないが、最初にそう考えるのは、当たり前のはずだ。


「それは、心配無用でございます」


 そう言葉を口にしたのは、白髪の男性だった。

 そう口にしながら、僕とバラス王子の前にお茶の入れられた湯呑が置かれた。僕は、その湯呑に視線を向けたまま、男性の言葉を聞く。


「召喚の儀式によって選ばれた時点で、あなた様はそれだけの才能をお持ちでございます」


 僕は、目の前の湯呑を注視していた。

 だって、湯呑ですよ。この場面、この雰囲気だったら、ティーカップが似合うじゃないですか。僕だって、お茶の準備をしているのを見た時に、そういった物が出てくるだろうと予想していました。それが、和風な器で出て来たのですよ。これを凝視しても仕方がないと思います。


「こちらの湯呑は、過去に召喚された勇者様のお気に入りの品を参考にして作られた品でございます」


 僕の様子を見て、白髪の男性が説明を入れてくれた。


「そのお方は、陶芸に優れた才覚を発揮いたしまして、晩年まで陶芸に打ち込んでおられました」


「魔族と戦わない人もいるんですね」


「いえ、その方も陶芸のための材料集めで、かなりの数の魔物と戦闘を繰り返しております」


「そうですか……」


 僕としては、戦いたくはないのだが、どうやら戦わないという選択肢は少ないようである。まだ戦わないで済む可能性が消えたわけではないので、少ないと思っておく。

 まだ僕は、この世界については何も知らない。僕の勝手な判断で、可能性を狭めてしまう必要はないだろう。異世界かどうかも、まだ半信半疑なのだ。


「それではこれより、召喚された勇者様のステータスを確認させていただきたいと存じます」


「すてえたす?」


「はい、ステータスでございます」


 白髪の男性は、疑問を浮かべる僕を放っておいて、部屋の中に運び込んでいた大きな台車を引いて来る。

 その台車の上には、大きな鏡のような物が寝かされていた。


「こちらへどうぞ」


 そう呼ばれて、バラス王子が台車の隣へ向かう。

 僕もベッドを下りて、王子に続いた。僕の足に取り付けられた鎖が、足を動かすたびに細かい金属音を響かせる。この足かせは、いつまで取りつけておくのだろう。

 僕が台車の隣まで来ると、白髪の男性が説明を始める。


「こちらの魔工品は、黒耀魔石を複数加工した品でございます。通常は本人しか見ることのできないステータスを、他人も見ることが可能になる品となっております」


「魔工品?」


「魔工品とは、魔石を加工した品物全般を指す言葉でございます。魔石にはいくつかの種類がありまして、使用する量や種類によって様々な効果を現します」


「ふーん」


 説明を聞いた僕は、大きな鏡のような魔工品を上から覗き込んだ。

 鏡のように僕の顔を映し出してはいるが、表面が真っ黒なため、はっきりとした姿を映してはいない。それで、これが鏡としては利用するには不便なのはわかった。


「こちらの魔工品、[ステータスピクチャーミラー]に手を置き、ステータスを表示するように念じていただければ、ステータスが表れます」


 ただ念じるだけで作動するらしい。その辺の動作は、異世界っぽい。


「それでは、まず私が手本をお見せいたします」


 そう言って、白髪の男性が一礼して、魔工品[ステータスピクチャーミラー]に手を乗せた。

 すぐに変化が現れる。

 魔工品が、黒い光を一瞬だけ放ち、鏡面上にステータスを浮かび上がらせた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前  ダジン=イーシュ

性別  男

年齢  57歳

種族  人族 人間種

職業  王国大臣

状態  健康

カラー  グリーン


クラス  アタッカー

     グラップラー


パラメータ  レベル 87

       HP  886/886

       MP  302/304

       SP  335/335

       心 ■■■■■■■

       技 ■■■■■■■■■■

       体 ■■■■■■■■■

       知 ■■■■■■■■■

       感 ■■■■■■■■■

       徳 ■■■■


スキル  基礎技術(物理)

     短剣技

     拳闘技

     事務作業

     掃除・洗濯

     炊事

     薬草知識

     応急処置

     王国知識

     他


称号  サイフィルム王国大臣

    使用人熟練者

    薬草調合者

    薬草採取者

    紅茶ソムリエ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 白髪の男性のステータスが、[ステータスピクチャーミラー]に映し出された。個人情報と呼べるような内容が並んでいる。


「内容は、見る者の母国語で表示されます。勇者様にもご不便なく、ご覧いただけるかと存じます」


 確かに読むのに不便はない。しかし、説明の中に気になる言葉が含まれていた。


(母国語で表示されるか)


 その言葉は、言語に種類がなければ出てこない。つまり、数種類の言語が存在することになる。

 言語と言えば、言葉が通じるのにも疑問がある。疑問があるが、その辺りは、後回しにしたい。何が藪蛇かわからないし、できれば戦士とか、勇者とかは、遠慮願いたい。争いなんて、悪い予感しかしない。

 このまま静かに、表示されたステータスへ視線を落として内容を見る。


「王国大臣?」


 僕がまず気になったのは、そこだった。職業の欄に『王国大臣』とある。


「はい。申し遅れました。私の名は、ダジン=イーシュと申します。僭越ながら、このサイフィルム王国で大臣の職を務めさせていただいております」


 目の前で頭を深々と下げる男性は、この国の大臣らしい。執事とかではないらしい。称号にも使用人という言葉があるのに、そっちの職業ではないようだ。

 他にもカラーとか、クラスとか、気になることはあったが、ここでの説明はなかった。ダジン大臣のステータスを見るのが目的ではないからだ。

 目的は、僕のステータスを見ることだ。

 ダジン大臣は、再度、[ステータスピクチャーミラー]の上に手を置いた。それで表示されていたステータスが消え、元の鏡面状態へ戻った。


「それでは、続けてお願い致します。この世界に来たばかりでは、スキルも称号も空白となるはずですので、その点はご了承ください」


 これで今度は、僕の番だ。ダジン大臣と場所を代わり、大臣が手を置いていた辺りに僕も手を置いた。そして、頭の中で念じる。


(ステータスを表示させろ)


 念じると、すぐに[ステータスピクチャーミラー]の鏡面に変化が現れる。一瞬の黒い輝きののち、僕のステータスが表示される。

 表示されたそのステータスを、王子と大臣が、凝視した。

 二人に遅れて、僕も内容を確認する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前  芳川勇太

性別  男

年齢  15歳

種族  人族 人間種

職業  学生

状態  健康

カラー  ブラック


クラス  アタッカー

     空き


パラメータ  レベル 16

       HP  108/108

       MP  56/58

       SP  66/66

       心 ■■■

       技 ■■■■

       体 ■■■

       知 ■■

       感 ■■

       徳 ■■■■■■


スキル  空き

     空き

     空き


称号  疾走する変態


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なんか、変な称号があった。



 ◇

 読んで頂き有難うございます。

 今回から解説コーナーを開始します。最初は、召喚の儀式についてです。


 『召喚の儀式』

 別名、『勇者召喚』。過去にあった、二度の人族と魔族の大戦においても行なわれている。第一次大戦で8回、第二次大戦で7回が行なわれていた。この時代の召喚は、先に8回行われており、勇太の召喚は9回目である。

 召喚により現れる人数は、その時々で変化し、1人~3人までの幅がある。これは、召喚に使用される魔石の質による変化であると考えられている。

 『帰還の儀式』の準備は、基本的に『召喚の儀式』と変わらない。召喚された者がいるか、いないかほどの差しかない。本来は帰還のことも考えて魔石を準備しているが、今回の勇太の召喚は後のない状況であったため、準備を途中で切り上げて、儀式が行なわれた。

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