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16 その辺のことは言わないで

 ◇ ◇ ◇



 廃鉱山への捜索が、本格的に開始される日の早朝。

 まだ、太陽も出ていない薄暗闇の中で行動が開始された。多くの兵士が、準備を進めている。すべての兵士が本陣から出るわけではないため、すべての兵士が動き回っているわけではないが、本陣の中は忙しそうな印象を受ける。

 おかげで、僕も朝早くから起こされた。誰かが起こしに来たわけではないが、テントの外から聞こえる雑音と、慣れない寝袋の就寝で勝手に目が覚めてしまった。

 僕は、特に準備も割り振られていないため、研究所から持ち込まれた魔工品などの自分の準備だけを進めた。

 僕の持ち物は、とても限られている。装備と言えるほどの物もない。防具すらない。

 そこは、背負う魔工品が防御膜を発生させてくれるので、必要ないと言うことだった。この機能は、今回検証する機能とは別で、すでに実用性が確立されている機能だ。

 準備が終わって外に出ると、食事が配られていた。小さな広場に兵士の列ができている。ちょうど配布が開始された所のようだ。

 兵士たちは、パンやカップを手に持って、それぞれ外で食事を摂っていた。

 僕もそれにならって、列に並んで外で朝飯を頂いた。本日の朝飯は、スープと少し硬めのパンに肉や野菜を挟んだ料理だ。これから行動開始するためだろう、軽食に近い。

 僕は、近くで座れそうな場所に座り、もそもそと少しずつ咀嚼する。僕の頭は、寝起きに近く、まだ完全には覚めていない。

 捜索隊の中を僕は、食事を摂りながら見渡した。

 食事を摂っている兵士が大半だが、忙しく動いている兵士もいる。いま食事を摂っているのは、おそらく捜索に加わる兵士なのだろう。本陣に残る兵士は、後で食事を摂るのだと思う。


「注目!」


 突然の大声で、食事中の兵士たちが、一斉に姿勢を変えた。大声のした方向へ体の向きを変える。

 僕もそちらへ視線を向けると、捜索隊の指揮を取っている隊長がいた。


「これより、作戦の概要を伝える」


 本日の予定が、伝えられるようだ。

 僕もぼんやりした頭で話を聞いた。

 部隊は、大まかに分けて本部に残る部隊と、周辺調査をする部隊と、廃鉱山へ向かう部隊の三部隊に分けられた。最も人数が多いのが、周辺調査をする部隊だ。次に多いのが本部に残る部隊である。

 廃鉱山へ向かう部隊が少ないのは、最初は周辺の安全確保を優先しているためである。周辺の安全が確保されれば、廃鉱山へ向かう部隊を増員する。そういう予定だ。

 僕は、その中の廃鉱山へ向かう部隊だ。

 細かな詳細の説明まではなかったが、大筋は理解できた。

 話を聞き終わると、兵士たちは、またもとの様子に戻ってしまった。この辺りの切り替えは、さすがに素早いと思う。

 僕もいつまでも、寝ぼけ頭ではいられない。朝飯を食べて、多少は回るようになった頭で今後の準備を進めた。



 ◇



 準備が出来たら、すぐに出発となった。

 僕たちは、廃鉱山へ向かう時に使われる街道に沿って進んだ。

 廃鉱山へ向かうのは、全部で16名である。進行する部隊の前方に8名、中間と後方に4名ずつで並んでいる。

 僕は、姫と一緒に中間の部隊にいた。

 まさか、ここまで姫が出てくるとは考えていなかった。前日に姫の言っていた「私の言うことを聞いて」と言うのは、一緒に行くからという意味が含まれていたようだ。

 初めて体験する町の外を僕は、やや緊張した状態で進んだ。部隊の中では、僕が一番緊張していたかもしれない。

 街道の左右は、森に囲まれている。

 小さな森だと言うが、奥が見えないと広さなど関係なく不安を感じる。森の先に何かいると言われれば、そんな気もするし、何もいないと言われても気を張った状態で見てしまう。その位には木々が生え、先の見えない森だった。

 実際には、何もなかったのだが。

 緊張状態を維持したまま廃鉱山まで、特に何もなく進んでしまった。

 廃鉱山の入り口前は、小さな広場になっていた。岩盤がしっかりしているのか、雑草の生えていない土の広場だ。


「ここで一旦、休憩とする!」


 この部隊を指揮する兵士の声が響いた。

 後方の兵士たちもそろったところで、広場を利用しての休憩となった。

 僕は、背負っていた魔工品を地面に下ろして、広場の端っこに座り込んだ。

 思ったよりも疲れていた。警戒しすぎて、神経をすり減らしていたらしい。頭を下げて体を楽にし、疲労の回復に努める。

 そんな、だらしない恰好をしている僕の目の前に、金属性のカップが差し出された。


「お疲れ様」


 僕にカップを差し出して来たのは、コルニス姫だった。


「ありがとう」


 僕は、顔を上げて、それを受け取った。

 広場の中央には簡単な暖炉が作られ、飲み物を準備していた。そこで、温かい飲み物を配っている。姫が持って来てくれたのも、そこからのようだ。

 兵士たちは、思い思いにくつろいでいた。だが、僕のように腰を地面に下ろしている者はいない。伊達に訓練を続けているわけではなかった。

 僕の隣にコルニス姫が腰を下ろす。


「だらしないなー」


「その辺のことは言わないで」


 自分で自覚しているからこそ、言われると結構傷つく。言っている側もそれを理解しているのか、そこまで話を続けることはない。


「魔工品の状態は、どうなの?」


「さあ?」


 僕は、姫の疑問に疑問を重ねてしまった。


「さあって、使ってなかったの?」


「使ってはいたけど」


 ここまで来る間、魔工品の起動は継続して行なっていた。だが、目に見える変化は特に感じられなかった。

 それは当然のことで、人間には瘴気の濃度が変化しようと関係ない。実際には影響があるが、ここに集まっている者は瘴気を浄化する術を身に着けている。そんな状況では、濃度の変化に意味はない。

 ちなみに、僕の瘴気を浄化する方法は、[ステータスピクチャー]の機能を使っている。白銀魔石を核としている機能だ。使用する魔石が増えたことで、[ステータスピクチャー]の機能が自然と増えていた。

 魔工品の効果を実感できるのは、魔物と遭遇した時になるだろう。


「起動は問題なくできてるし、大丈夫じゃないかな」


「まあ、ポロムがいい加減な物を渡すはずがないから、その辺は心配してないけどね」


 コルニス姫は、僕の言葉に同意して、カップをすする。

 姫も魔工品については問題を感じていないようだ。

 ただ、効果の程がわからないと、どの程度まで信頼できるか判断のしようがない。その辺りの話を聞きたかったのだろう。実力を見極めておかないと、いざという時に判断を誤るかもしれない。スペック的なものは教えてもらっているが、それが常に発揮できるとは限らない。

 僕は、カップに口をつけながら、広場の中をゆっくりと眺めた。

 広場は、窓の割られた小さな小屋があったり、薄い金網で廃鉱山側と仕切られていたりする。それらは、かなり古く、原形をとどめてはいるが、ほとんど瓦礫のように見える。


「ここは、昔は使ってたのかな?」


「鉱山だった頃は、入山管理所だったみたい」


 僕たちがここへ来たのは、この先に入口があるからだ。

 廃鉱山の入口は、幾つかあるようだが、この先が最も広い入口で人数が多くても行動が出来る。アルたちがここを使った可能性は低いが、部隊のことを考えると、ここを使うのが最適だった。


「それをそのままにしてるの?」


「瘴気がここまで来るようになったから、退避を優先したんだと思う。解体中に魔物に襲われたりしたら大変だしね」


「魔物は、かなりの数がいたんだ?」


「昔のことだから詳しくは知らないけど、ここまで侵攻されてたんじゃないかな。その後、この辺りの討伐を済ませて取り返して、鉱山は回復場所としてそのまま残したんだと思う」


 侵攻。

 魔族なのか魔物なのかは知らないが、こんな城の近くまで侵攻されていては、まずい状態だ。それでも城がこの近くにあるのだから、その時は押し返して事なきを得たのだろう。その時の戦果として、鉱山が魔石の回復場所となったのか。

 城の場所が、昔も同じ場所だったのかは知らないが。もしかしたら、後で城の場所が移った可能性もある。


「廃鉱山の中は、しばらく魔物に占拠されてたんでしょうけど、一度討伐をしてしまえば危険は少なくなる。浄化も進めれば、ダンシングツリーも弱められるから回復場所として使うのは簡単でしょうね」


「だんしんぐつりー?」


 初めて聞く単語が出て来た。直訳すると踊る木だ。踊る木って何だ?


「魔物の一種だよ。ダンシングツリーは瘴気を拡散させる能力があるから、魔物が進行する時は、必ずダンシングツリーと一緒に行動するの。廃鉱山の中にも生えてるはずだよ」


「生えてるんだ……」


 踊るけど、ちゃんと地面に生えているらしい。何とも不思議な木だ。


「ここのは、もう成木になってるから、移動をすることもないし、鉱山の中だから魔物をおびき寄せることもなくて、初級者向けだったんだけどね……」


 説明するコルニス姫の声が、尻すぼみに小さくなる。

 いろいろな状況を加味して廃鉱山は、初級者向けの魔石回復場所になっていたようだ。

 それなのに、アルたちは帰ってこなかった。


「そこから先は、これから調べるんだろ。まだ何もわかってない。アルたちのこともまだ諦めるのは早い」


 アルたち三人の第一クラスは、それぞれ異なると聞いている。アルが『アタッカー』、キールが『エンチャンター』、ルルミックが『キャスター』とバランス良く分かれている。

 その三人がパーティーを組めば、大抵のことはこなせる組み合わせだ。

 諦めるのは、クラスの面から見てもまだ早い。三人が一緒にいれば、大抵のことは何とかなるはずだ。


「あいつらもいろいろ準備していたみたいだし、少しぐらいの蓄えもあるはずだ」


 三人は、スキル《ボックス収納》を持っている。それがあれば、いろいろな物を簡単に、そして大量に持ち運ぶことができる。スキルを持つ者のレベルによって上限はあるが、それでも十分なスキルだ。

 この捜索隊でも食器やテントなどの用具を運ぶのに役立っている。本当にうらやましい。

 行方不明から日数が経っているが、食糧などは心配ないはずだ。そういう意味でも可能性は残っている。


「それとも、もう諦め気味なのかな?」


「大丈夫よ! 私だってまだ何も諦めてないんだから!」


「はいはい」


 僕は、腰を上げて、勢いよく立ちあがった。いつまでも座りこんではいられない。

 隣に座っている姫に手を差し出す。


「それじゃあ、行きますか?」


「さっきまでへたり込んでた人に言われたくないよ」


 コルニス姫は、多少の不満を示しながらも、僕の差し出した手に手を伸ばす。


「その辺のことは言わないで……」


 僕は、恐縮しつつ、姫の手をとって立ち上がる手助けをした。

 周囲の兵士たちも、休憩を終えているようだ。厳しい視線を向けている。主に僕の方へ。なぜ厳しい視線を向けられているのでしょう?


「休憩終了! 準備が出来次第、廃鉱山への侵入部隊を編成する!」


 号令がかかった。兵士たちが、各自準備を進めて行く。

 僕も魔工品の状態を簡単に確認して、さっさと準備を終わらせた。

 ここからが、本番だ。



 ◇ ◇ ◇



 読んで頂き有難うございます。

 今回の解説コーナーは、ダンシングツリーについてです。


 『ダンシングツリー』

 ダンシングツリーは、トレントの一種である。幹の中に瘴気を貯め込み、運搬、拡散を行なう。

 見た目は普通の木と変わらず、若木の間は、根っこを足のように動かして移動することができる。

 成長することで瘴気を拡散させる範囲が広がり、成木となると最大で150㎞を越える範囲で拡散させることができる。ただし、成木となるとそのぶん移動を制限され、一カ所から動くことがなくなる。

 成木となり移動をしなくなったダンシングツリーは、種をまく。ウォーキングシードと呼ばれるその魔物は、いずれ若木として別の場所で瘴気を拡散させるようになる。

 さらに長い間生息すると、活動も衰えていき、老木として余生を過ごす。老木となると瘴気の拡散は5㎞にも満たなくなる。

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