表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

14 ちょっといいか?

 ◇ ◇ ◇



「帰ってこないのですか?」


 それは、僕が孤児院に訪れた時のことだ。

 いつも通りの時間に孤児院に向かうことを考えていた僕は、姫が今日は視察に行くと言うことで一緒に馬車で孤児院に来ていた。

 ちなみに今の僕はロープでぐるぐる巻きにされていた。僕が馬車に乗る時は、ロープで身動きを取れないように縛られる仕様なのだろうか。単純に姫の安全確保だと思いたい。それはそれで、兵士たちに信用されていないと言うことになるが。

 馬車から下りたすぐのところで、コルニス姫と孤児院の管理人が話をしている。


「それはどういう状況なのですか?」


 コルニス姫が丁寧な言い回しで話を聞いている。

 いまの姫は、剣や鎧を外した、お姫様らしい恰好をしている。ドレスや装飾品で着飾っている。王国の仕事の一環と言うことなのだろう。そのため、言葉づかいもそれにふさわしいものを使っていた。

 いつもとは違う他の一面を持っていると捉えるか、猫を被っていると捉えるか、人によってその辺りは変わってきそうだ。僕は、猫を被っていると感じるかな?


「昨日のうちに返って来ると話していたのですが……」


 管理人の話を聞いてみると、帰ってこないのは、どうやらアルたちのことのようだ。

 冒険者ギルドに登録して自分で稼げるようになったとはいえ、まだ住む場所を決めていないアルたちは、いまだに孤児院で世話になっていた。そのため、管理人に予定を話して依頼に出かけて行ったようだ。

 その予定が昨日で帰って来ることだったのだが、いまだ帰って来てはいない。

 僕が城下町でアルたちに会ったのが三日前だから、そこまで時間が経過しているわけでもない。


「……まだあの子たちは駆け出しで、何があるかわからないものですから心配で、心配で」


 管理人の心配する気持ちも良くわかる。

 確かにアルたちは、冒険者として駆け出しのひよっ子だ。強さがどうという以前に、冒険者としての経験が十分とは言えない。長年育ててきた身としては、心配でたまらないだろう。

 話を聞いた姫の表情は、厳しいものだった。真剣に考えているようだ。


「わかりました。私の方でもできるだけのことをいたしましょう」


「ありがとうございます」


「それで向かった場所はわかりますか?」


「はい、王国管理の廃鉱山に向かうと言っていました」


「すぐ近くですね。城に戻って準備をします。今日はこれで失礼いたします」


 場所を確認した姫は、すぐに踵を返して馬車へと戻る。

 僕は、それを外で見送ることにした。

 それを怪訝に思ったのか、コルニス姫が僕に声をかけた。


「ユータは、一緒に来ないのですか?」


「僕は、子供たちに会っていくよ」


 アルたちのことは気になるが、僕には他にも気になることがあった。まずは、そちらを確かめるのが先だと思う。

 血気盛んになるのは、姫がいれば十分だろう。僕までその雰囲気に乗ることはない。

 僕は、馬車が立ち去るのを見送って、外に集まっていた子供たちの所へ向かった。

 子供たちは、いつも集まっている場所にいた。

 だが、その様子は、心なしか元気がないように見える。事情をどこまで知っているかわからないが、帰ってきていないことは子供でもわかることだ。

 僕は、比較的話をしやすい少年に近づいた。腰をかがめて、目線を下げる。


「ちょっといいか?」


「うん、なに?」


「アルたちのことなんだけど、どこに行ったのか知ってるか?」


「……知ってるよ」


 僕がアルたちのことを話題にすると、話をしている少年以外にも近くにいた子供がそれを聞いて反応を見せた。会話に加わると言うよりは、聞き耳を立てているのに近い。

 申し訳ないが、いまはそれに気を回してやれる状況じゃない。

 周囲の状況を気にしないで話を進める。


「何でアルたちは、廃鉱山を選んだんだ?」


 僕が確認したかったことは、廃鉱山を選んだ理由だ。

 近くの廃鉱山は、瘴気が活発化している可能性がある。瘴気が活発になれば、魔物も活発化するため、危険が増えることになる。そんな場所をわざわざ選ぶ必要はないはずだ。

 依頼にそのように指定されていたのかもしれないが、それならば他の場所に行く依頼を選べば回避できる。

 冒険者になりたてならば、もっと採取依頼などの魔物と直接関係ない依頼で稼いでいくのが普通だと思う。

 それをせずに廃鉱山を選んだのだから、アルたちには選んだ理由があるはずだ。

 僕は、それを確認したかった。子供たちならば、もしかしたら何か知っているのではないかと思っている。


「廃鉱山のことは、アルが亡くなったお父さんから聞いて、よく知ってるんだって言ってた」


「私も聞いたー」


「なんか魔石の回復場所として使ってるんだって」


「あー、なるほど」


 聞き耳を立てていた子供も、知っている話だからか、少しずつ話に加わって来ていた。

 魔石は、使い続けると破損する。スキルであれ魔工品であれ、破損することには変わりない。

 破損するのは事実だが、それは何万回と使い続けた場合だ。通常の使い方ではまず破損することはない。

 だが、誰かに譲られた中古品や破損した魔石であれば話は違ってくる。破損した魔石は、修繕する必要がある。

 それが、魔石の回復だ。

 魔石の回復は、瘴気が一定の濃さを持った場所に放置すればいい。そのための放置場所が、幾つか確保されている。その一つが、今回の話に上がっている廃鉱山だ。


「廃鉱山は、初心者でも大丈夫って言ってた」


「アルのお父さんが使ってた魔石が、残っているはずだって言ってた」


「取りに行くって言ってたよ」


「ふむふむ」


 子供たちの話を統合すると、アルたちは、遺品を取りに行ったということか。そのついでに依頼もこなそうとしている。

 いや、依頼が出たから遺品を取りに行くことにしたのかもしれない。

 考えた順番がどうであれ、行動はほぼ間違っていないだろう。


「廃鉱山はね――」


「他に初心者はね――」


「何で縛られてるのー?」


 縛られているのは、姫がとんぼ返りのように城へ戻ったため、兵士にロープをほどく余裕がなかったからだ。ほんと、何で縛るんでしょうね?

 子供たちの話は、まだ続いていく。

 さっさと次の行動を起こしたいのだが、一通り話を聞かないと開放されそうになかった。



 ◇ ◇ ◇



 子供たちから開放され、ついでにロープからも解放された僕は、急いで城へ戻った。道案内をしてくれる兵士がついていなかったが、何度も通った道だから迷わずに戻ることが出来た。

 城門に通りかかった時、門番に一度声をかけられたが、それだけでほぼ素通りだ。

 僕は城門をくぐって、急いで動かしていた足をふと止めた。


(どこに行けばいいんだ?)


 走ってきた僕の息は荒い。だが、それで頭の回りが悪くなるわけでもない。

 こういった事態が発生した場合、王国はどのような対応を取るのか。捜索隊を編成したりするのだろうか。

 行方不明者は、冒険者だ。子供とは言え、冒険者である以上は、それ相応の対応があるのではないだろうか。

 まずは、冒険者ギルドが動くのか。そうならば、冒険者ギルドに行くのが正解か。

 いや、姫は、城に戻って準備をすると言っていた。準備とやらが何なのか知らないが、手順は踏んだほうがいいだろう。

 僕はよそ者なのだから、その辺りの配慮は細かく確認していかないと、何を間違うかわからない。間違ったら間違ったで、知らなかったの一言で通すのだが。

 しかし、ここで姫の所へ向かって、変にやる気があると見なされると、後々面倒なことになる気がする。姫は、僕を勇者にしたいのだ。何もないと考えるのは、楽観的すぎる。

 そうなると、ある程度は僕の意向をくみ取ってくれて、城の中の情報を入手できる立場の人物を頼るしかない。


(……とりあえず、あそこか)


 僕は、研究所に向かって、改めて走り出した。

 弟王子ならば、ある程度は僕の意向をくみ取ってくれるだろう。城の中の事態もある程度は知っているはずだ。

 研究所へ向かう途中、城内の様子を外からうかがったが、特に大きな変化はないように見える。

 もたらされた情報が、一カ所だけでは動くに動けないのか。それとも、まだ大々的に動く段階ではないのか。


(やっぱり、今のままじゃ何も判断できないな)


 僕は、城の奥へと向かい、研究所の扉を無遠慮に開いた。

 いつもは、ポロム王子に招待される形で研究所に来ている。自分でここの扉を開けるのは初めてだ。

 研究所へ入るといつも通りの絨毯の通路に、いつも通りに文字が投影される。毎回ここに投影される指示の通りの場所で、地下への階段が準備されていた。

 僕は、投影された指示を一目確認して、通路を駆けた。今回の階段は、最初の十字路にあるようだ。

 僕が十字路に辿り着く頃には、すでに階段の準備が整っていた。

 その階段を、やはり急いで駆け下りて、地下の研究施設へ向かう。

 地下に駆け下りた僕は、通路内の曲がり角をいくつか曲がって、扉の開かれていた部屋へと入った。

 部屋の中にはポロム王子が待っていた。


「ずいぶんと慌ててるね」


「騒がしくして、悪い」


 僕は、息を整えながら弟王子に頭を下げた。


「まあ、座りなよ」


 僕の態度を気にしないとでも言いたそうに笑って、ポロム王子は、僕に壁際のソファーを示した。

 僕は、ありがたく腰掛けさせてもらう。


「いきなりなんだけど……」


「廃鉱山の話でいいのかい?」


 僕が要件を言う前に、弟王子に言い当てられてしまった。

 これに僕は、驚きを隠せない。


「何でそれを?」


「姉さんが、騒いでいるから、かな」


 ポロム王子は、部屋の中央で前面に設置された巨大モニターに視線を向けていた。

 この部屋に入るのは初めてだが、研究の施設としては異質だ。

 この部屋の中にあるのは、壁のように複数設置された巨大なモニターと、それを操作すると思しきパネル群、それと壁際にあるソファーと作業台のような腰の高さのテーブル。それですべてだ。

 モニターに視線を向けると、そこには城の中の様子が映し出されていた。映し出される場所は様々である。まるで監視用のモニター室だ。


「別に盗撮とかしてるわけじゃないからな。この部屋は、外部の警戒用に設置したカメラの情報を集積しているんだ。いまは、それを城の中の情報に切り替えてるだけだ」


 言いたいことはわかる。城外の景色も映し出されているのだから、弟王子の言葉に偽りはないだろう。

 だが、内部の情報収集にこんなことをして良いのかはわからない。

 それと、心配になることが一つあった。


「そんな場所に僕を入れてもいいのか?」


「まあ、ユータのことは信用してるし、今回は特別。仮に何か企んだら、いろいろバラしてあげるよ?」


 ポロム王子が、不敵な笑顔で僕の様子を見た。いろいろバラすって、何を知っているの?

 気になることはあるが、ひとまずそれは置いておこう。


「孤児院の子供が、帰る予定の日を過ぎても帰って来ていない。行方不明ってことになるんだけど、王国はどう対応するんだ?」


「いまは冒険者ギルドに行って情報収集をしてるみたいだね。姉さんは、捜索隊を組む気でいるみたいだけど、それもこの状況だとどうなるかわからない。孤児院は国の管轄だから、捜索隊を組む理由は充分にあるけどね」


「簡単にはいかないってことか?」


「最終的には、姉さんが無理やり通すんじゃないかな?」


 捜索隊を組むことは、ほぼ確定らしい。それがわかっただけでも、一つ安心できた。


「ギルドに情報収集をしてるっていうのは?」


「今回の行方不明が、この件だけなのか、他にも上がって来てないのかを調べてるみたいだ。その辺りの幅で、捜索隊の規模とかも変わって来るから」


 やることは、いろいろとやっているようだった。

 コルニス姫が声を上げれば、城の兵士たちが動かないわけがない。姫は、城の兵士や使用人たちに、かなり慕われていると思う。


「おっと、何か動きがあったみたいだね」


 ポロム王子が、モニターに注意を向けた。

 僕もモニターへ視線を向ける。

 モニターに、何やら兵士の一人が報告をしている様子が映し出されていた。

 映像は見えるが、音声は聞き取れない。音声は、弟王子にしか聞こえないようになっているらしい。イヤホンでもつけているのだろう。


「どうやら、廃鉱山の情報は、あまり集まって来ていないみたいだね。周辺の情報はいくつかあるみたいだけど。ギルドで依頼も出してるはずだから少しは集まっててもいいと思うけど、どういう状況だろう?」


 ポロム王子は、一人考察を開始している。腕を組んで、車椅子に背中を深く預けていた。

 僕は、邪魔をしないように静かにその様子を見守った。

 数あるモニターの中では、兵士たちが忙しく動いていたり、報告をしていたりする様子が映っている。通常通りの対応をしている所もあるから、モニターに映っているのは、城の中でもごく一部だろう。

 モニター画面には、コルニス姫の様子も映っていた。孤児院で見せた着飾った服装ではなく、腰に剣を下げ、胸甲や手甲で要所を固めて、髪を結んでいる。戦闘スタイルで兵士の報告を聞いていた。


「あー、そういうことかな」


 ジッとしていたポロム王子が、モニターに向かって何度か頷きを返している。


「何かわかったのか?」


「どうやら、予想以上に瘴気が濃いみたいだ。おかげで魔物が予想以上に活発になっている。これだと初級冒険者じゃ碌な情報を持ち帰れないね。ギルドの方も依頼のレベルを引き上げる検討をしているって」


「それって、かなり危険じゃないのか?」


「まあ、初級者には危険だろうね」


 端的に返されてしまった。それも肯定の意味で。


「そうか……、はあ」


 僕は、思わずため息が漏れ出てしまった。悪い情報を聞けば、心持ち気分が重くなってしまうのは仕方ないだろう。

 そんな僕の様子をポロム王子は、首を傾げて見ていた。



 ◇



 読んで頂き有難うございます。

 次回は、締め切りまでの日数の関係で連日で投稿します。投稿ペースが変則的になりますが、ご容赦ください。

 今回の解説コーナーは、研究所の施設についてです。


 『モニター室』

 研究所に設営されたモニター室は、王国場内と城壁に近い外側を映し出すことができる。この映像は、各地に設置されているカメラ機器から送られている。

 地面の中や柱などに沿ってコードが引かれ、そのすべてがモニター室に集められている。

 この異世界に無線機器はない。そのため、映像のすべてが有線で送られてきている。

 無線機器がないのは、遠くまで電波やそれに類するものを届ける技術が確立されていないためだ。称号【異世界の住人】を使用しても実現はされていない。

 これは、空気中に含まれる瘴気や各所にある魔石の波長が障害となっていると考えられている。

 距離が近かったり、魔石で同調させたりした限定的な条件でなければ無線は使用できず、基本的に有線で情報は伝えられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ