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13 何でそんなことを言ってしまうのかな!


 ◇ ◇ ◇



 城の食堂で昼飯を頂いた後、僕はウィルと共に孤児院へ出かけた。孤児院には連日のように出かけているので、その行き帰りはすでに慣れたものだ。

 いまは孤児院からの帰り道で、空はやや赤みを帯びるようになってきた。

 僕たちは冒険者たちの利用する通りを通って、城へと向かっている。


「もうすぐ城かー」


 孤児院では、やはり連敗をした。そうそう簡単に勝たせてはくれない。称号の返上ももちろんできない。

 僕自身も多少は経験を積んで、うまく動けるようになってきていると思うが、そこは子供たちのほうが上手だ。どうしても最後はやられてしまう。

 今回の勝負は、アルたちは出かけていて孤児院におらず、あまり勝負をしたことがない子供ばかりだった。そんな状況でも、どうしても勝てなかった。いままでの勝負を見て対策を考えられていたのかもしれない。


「そうですね。この後は、いつも通りですか?」


「まあ、そうですねー」


 僕たちは、特になにをするでもなく通りを歩いた。

 この通りには多くの人が歩いている。そのほとんどが、剣を背中や腰に携えたり、鎧などの防具を身に着けたりしている人たちだ。この通りが、冒険者を相手にする店が並んでいるのだから、不思議な光景ではない。

 だが、今日は少しその数が多い気がする。


「今日は、何かあるんですか?」


「おそらくは依頼を確認しに来た方たちでしょう」


「依頼?」


 ただ単に依頼の確認だけで、冒険者がいつもよりも多くなるわけがないと思う。依頼を確認する必要が出るような、何かのきっかけがあったのだろう。


「瘴気の活動の転換期がもうすぐですので、それに関係した依頼が国から出されているはずです」


「国からも依頼が出てるんですか?」


「冒険者ギルドを通してになりますが、調査依頼を出しています」


 瘴気の活動範囲は、国としても無視できない事項だと言う。瘴気の広がっている範囲を正確に調べて、街道の危険度の指定や注意喚起などを行なう。

 そのための情報収集を冒険者に依頼しているのだ。

 依頼を受ける冒険者からは、王国の依頼は比較的好評らしい。調査依頼であるため早い者勝ちとなるわけでもなく、照らし合わせるために複数の情報を求めているために、依頼をこなせばしっかりと報酬が払われるのも大きい。

 今回は、過去の情報から城から歩いて半日ほどの距離にある廃鉱山が、活動を活発化させる可能性が高いらしい。そのための調査は重要視されている。


「この前、発行された新聞に情報を乗せていましたので、それで依頼のことを知った冒険者たちが集まっているのでしょう」


 集まっている冒険者たちは、見た目の装備がしっかりとしているように見える。体格もしっかりしている人が多い。


「難しい依頼なんですか?」


「瘴気の濃い深部まで探索しようと思えば、時間も装備も必要になりますが、瘴気の薄い外周で魔物の調査をするくらいならば、そこまで難しくはありません。近場ならば、日帰りでも可能でしょう」


「へー」


「少しでも腕に覚えがあるならば、初級者でも参加する者はいるかと思います」


 難易度はそれぞれで決められるのならば、駆け出しでも参加はするだろう。どんな情報を集める必要があるのかは知らないが、危険が少ないのならば参加するかもしれない。

 そんなことを思いながら、冒険者ギルドの建物の前に差し掛かった。

 ギルドの建物から子供が出てくる。少年二人と少女一人の三人組だ。


(あんな子供でも冒険者かー。って!)


 ギルドから出て来た子供の三人組に見覚えがあった。

 子供たちのほうも通りを歩く僕たちに気づいたようだ。


「ユータじゃんか!」


 気づいたアルが、真っ先に僕たちの元へかけて来た。

 ギルドから出て来た子供たちは、孤児院の子供たちだった。

 アルに続いて、二人の子供も近づいてくる。


「こんばんは」


 丁寧に挨拶をする少女の名はルルミック。孤児院で勝負をしたことはないが、何度か話をしたことがある。この三人の中では比較的礼儀正しい子だ。


「こんばんは、こんなところで何してるんだ?」


「何って、依頼を受けに来たに決まってるだろ」


 アルが、僕の質問を頭の悪い人を見るような目をして答えた。

 ギルドから出て来ているのだから、そう考えるのが普通なのだろう。頭では理解している。それでもやはり、子供が冒険者をやるというのには抵抗があった。


「あんまり危ないことするなよ。まだなったばかりなんじゃないのか?」


「まあ、そうだけど大丈夫だよ。さっさと初級者は抜け出してやるから」


 答えるアルは、心配など必要ないといった自信に満ちた表情をしている。

 側にいるルルミックとキールも、アルほどではないが、不安を感じてはいないようだ。ルルミックはアルの言い分に呆れているようだし、キールは少し縮こまっているがそれはいつもの様子だ。

 三人は明日の準備がまだ残っていると言う。


「明日、朝に出発するから明日は会えないと思うけど、家のほうをよろしくな」


「わかった」


 僕は、アルの言葉を軽く請け負った。僕がほぼ毎日孤児院に出かけていることは三人も知っている。

 三人と別れた僕たちは、このまま城へと向かった。


「子供の成長は早いものです」


 隣にいるウィルは、感慨深げにつぶやいている。僕なんかと比べたら、子供たちを見ている時間は長いのかもしれない。だが、その発言はいかがなものだろう。


「そのセリフは、年寄りくさいですよ」


 僕とウィルは、感慨深い感情を等分に内包して歩いていった。



 ◇ ◇ ◇



 城に戻った後、少しの時間を経て夕食を終えて食休みを取った僕は、訓練場にいた。

 さすがに夜中となれば外は暗く、訓練場には明かりとしてカンテラ状の魔工品を六つ、ある程度離して並べている。

 僕は、準備運動をしながら訓練場の準備を眺めた。


「準備できたぞー」


 準備をしていたのは、訓練場の老人だ。

 老人が、訓練場の各所に武器を設置していた。老人の持つスキル《武器召喚》により、何もない所から次々と槍や剣が出現し、配置されている。


「ありがとうございます」


「なあに、これくらいは造作もないぞ」


「おじいちゃんは、後は休んでいてください」


 老人は、笑顔を浮かべて訓練場の定位置へ移動していく。

 前に呼び方に困って老人の名前を聞いたのだが、別にどんな呼び名でも良いと教えてくれなかった。周囲の人は、ほとんど「じいさん」とか「おじいちゃん」とか呼んでいるので、僕もそれにならって呼ばせてもらっている。

 過去には名をはせた戦士だったらしいので、調べれば名前ぐらいはわかるかもしれないが、わかった所で何が変わるというわけでもない。


(さてと……)


 僕は、多くの剣や槍が突き立てられた訓練場の中央へ、足を踏み入れた。その場所に立って、周囲を確認する。

 訓練場に設置されているのは、武器だけではない。最も外側には、ポロム王子に準備してもらった小型の砲台がある。土台の上に小さな筒が取り付けられ、そこから砲弾が飛んでくる。詳しい原理は知らないが、かなり早く飛ばすことができた。

 訓練用に作ってもらった物なので、攻撃力はほぼ皆無の玩具みたいな代物だ。その砲台が三基あり、発射準備が整っていた。

 そのほかに暇を持て余している魔法系の兵士も二人いる。老人に呼ばれて手伝ってくれていた。

 これで何をするかと言うと、大方の予想通りだろう。

 僕は、集中して周囲の状況を頭に叩き込んだ。


「では、始めます!」


 周囲にいる兵士の一人が、合図を出した。

 そして、柔らかい砲弾と堅い氷の礫が、一斉に僕に向かって飛んできた。

 僕は、飛んでくるそれらを、訓練場内を動き回って回避する。ただ、ひたすらに回避する。地面に突き刺さった槍や剣の間を縫って動き回る。


(やっぱり、少しつらいな)


 今夜はいままでとは違って、魔法も飛んで来るので把握する手数が多い。それでも何とか当たらずに回避を続ける。

 ここ数日、僕は訓練を続けていた。

 きっかけは、孤児院で連敗したことを老人に話したことだった。僕としては、勝つ必要性はないのだが、負けっぱなしでは子供たちに呆れられるし、相手をしていても面白くない。手っ取り早く、手強くなれる手段でもあったらいいなと、そんな気持ちで話したはずだ。

 それを聞いた老人は、瞳を一瞬光らせて僕に言った。


「そういうことならば、任せておきなされ」


 そして、老人に任せた結果、こんな訓練メニューを作っていた。

 昼間は城の兵士たちが訓練場を使うため、僕の訓練は夜間に行なわれた。

 最初は、訓練場に刺さった武器の間を走っていただけだったのだが、次第に魔法が放たれるようになり、砲台が置かれ、日を重ねるごとに難易度が上がっていった。

 

「《サンダー》」


(おっと!)


 雷の魔法は、さすがにやばい。威力の問題ではなく、速度の問題でだ。光の速度なんて普通に回避できない。威力は弱くしてくれているので、一度くらい受けても問題ない。

 僕は、地面に差された槍の背後に回り、槍を避雷針代わりにしてやり過ごした。

 魔法を使う兵士は、雷の魔法を使う時だけは合図を出してくれているが、氷の礫を飛ばす時は合図を出してはくれない。この辺りのさじ加減は、すべて老人が決めている。

 僕は、こんなことを連日続けていた。

 イレギュラーがなければ、これを休みなく時間まで続けて終了する。時間になったら、エレンが訓練場に伝えに来てくれることになっていた。


「《サンダー》」


 訓練場内に魔法スキルの名前と砲弾の発射される音が響いている。

 僕が、こんなことを夜間にしていることは、すぐに噂になった。噂になるのは当然だろう。訓練場の全面を使って、派手に行なっている。これで目立っていない方が、おかしい。

 だから、呼ばれていない人物が訪れることもある。

 僕は、回避に集中しながら、訓練場内に誰かが近づいて来たのを感じた。近づいて来たのは感じられたが、誰なのかまでは確認できない。回避に手いっぱいで、そちらには気を回せない。


「おじいちゃん、こんばんは」


「おー、姫様ですか、よくぞいらした」


 耳に届いた挨拶で、訓練場に来たのがコルニス姫だとわかった。わかったからと言って、こちらからは何もしようがない。やっぱり五人を相手にするのはつらい。


「どんな様子なの?」


「ふむ、まあぼちぼちじゃろう。もう少し難しくしたいところじゃが、暇なのが捕まらなくて困ってますな」


(何でそんなことを言ってしまうのかな!)


 そんなことを言えば、姫がどう行動するのかなんて明らかだ。老人は、絶対にわかって言っていると思う。


「それじゃあ、私が手伝うよ」


 コルニス姫が、快く手を上げた。

 その時の老人の表情はわからないが、とても不気味な笑顔を浮かべていたのではないだろうか。僕の体感で。


「手伝ってくれるならありがたい」


 そう言った老人は、姫に武器を手渡している。


「さて……、勇者殿!」


 老人が、大きな声で僕の注意を引いた。

 注意を引かれたことで僕は、老人を視界に入れたが、周囲からの攻撃は止んでいない。回避をしつつ、老人の次の言葉を待つ。


「姫様には、直接攻撃に加わってもらうので、それも回避するように! いいですな?」


 了解したくないことを老人は、瞳を光らせながら叫んでいる。

 どうせ僕の意思は、くみ取られないのだ。諦めるしかない。諦めるしかないが、いまの状態でもつらいのにどうやって姫の攻撃を回避すればいいのか、頭を抱えてしまう。

 そんな僕の表情が読めたのか、老人は言葉を続けた。


「姫様に渡すのは一本だけですから、手数はそこまで増えんよ!」


 本来のコルニス姫は、二刀流で戦闘を行なう。それを一本、片方だけになれば、単純に手数は半分だ。

 老人もその辺りは、理解していると言うことだろう。


「残りの時間を死ぬ気で避けろー!」


 それで老人からの話は終わりだ。元の位置に戻って、置物のように訓練場を眺めている。

 コルニス姫は、早速訓練場に足を踏み入れた。もしかして、こういう展開を期待していたのだろうか。しっかりと防具も身に着けた戦闘スタイルだ。


「それじゃあ、いっくよー!」


(やれやれ)


 僕は、近くに突き刺さっていた槍を一本手にとって、迫る姫を迎え撃つ。

 コルニス姫の振るう剣とそれを妨害する槍が交差する。

 僕とコルニス姫が交差する間も、周囲から砲撃と魔法が飛んでくる。さすがに姫が近くにいる時は姫を気遣って攻撃がやむが、少しでも隙があれば遠慮なく打って来る。

 そんな攻撃の網を僕は、何とか回避し続けた。

 エレンが時間を告げに来た時には、汗まみれになって倒れてしまった。

 僕は最近、そんな毎日を繰り返している。

 ただ、そんな繰り返しの毎日が、突然狂わされた。



 ◇ ◇ ◇



 読んで頂き有難うございます。

 今回の解説コーナーは、スキルの説明をします。


 『スキル《武器召喚》』

 スキル《武器召喚》は、自在に武器を召喚するスキルである。

 この召喚は、別の場所にある武器を手元に呼び出すことを意味する。専用の別空間が準備されているわけではない。

 老人は、《武器召喚》によって、城の武器庫より武器を召喚して訓練場を利用する者に手渡している。

 召喚できる武器は、使用者が召喚する武器に触れなければならない。一度でも触れれば、どんなに距離が離れていても呼び出すことが可能となる。

 また、敵の使用する武器であっても呼び出すことが可能である。その場合は、戦いながら触れるため、現実的な方法ではないが。

 スキルの習得には、「知」と「感」のパラメータが高くなくてはならない。戦士系のスキルであるため、習得には「知」のパラメータがネックになり、使用者は決して多くない。

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