閑話1 失敗
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サイフィルム王国、城下町。
まだ日も昇らない、夜明け前。まだ空は暗くとも、間もなく光が差し込むことを予感させる、薄くなっていく夜空の下。
誰もがまだ寝静まっている中、町を走る青年がいた。
その青年は、大きく口を開けた鞄を肩から提げている。右肩と左肩の両方に同じような鞄を互い違いに提げ、その鞄の中には、多くの紙束が詰め込まれていた。
詰め込まれている紙束は、新聞だった。一週間に一部のペースで発行されている。
城下町に製作所があるのだが、離れた町に届くまでの期間もあるため、毎日は作られていない。号外を出すこともあるが、今回は通常の週刊の物だった。
つまり、まだ暗い町中を走る青年は、新聞配達員だ。
新聞配達員の青年は、民家の並ぶ路地を走りながら新聞を届けて回る。
そんな記事の中の一つに召喚の儀式について書かれたものがある。
『――サイフィルム王国が魔族の進行に対して行なった召喚の儀式であるが、この度の儀式は王国が思い描いていた結果とはならなかったようだ。ダジン=イーシュ王宮大臣は今回の召喚の儀式を失敗と明言しており、貴重な魔石をただ浪費しただけとなった。そもそも今回の召喚の儀式は、国土の防衛に戦力のほとんどを割いている状態にまで兵力が落ち込んでしまったことに問題がある。先のロートカック戦線において――』
サイフィルム王国は、召喚の結果を公式発表していた。
これにより、ユータの存在が世間一般に知られることになる。それが同時に失敗であることも。これが、王国の国民にどのように受け止められるかは、想像に難くない。
また、他国への状況にも多少なりとも影響を及ぼすだろう。その他国の中には、当然のごとく魔族の国も含まれていた。
新聞の記事には他にも、瘴気の活動期、次の青空市の日程、新聞配達員募集の広告などが並んでいた。
その中にまぎれて、こんな記事もあった。
『――国立サイフィルム孤児院において、不審者が捕らえられた。不審者は、偶然にも見回り中であった王国兵士によって捕らえられている。孤児院に侵入して何をしていたのかは調査中であるが、単独犯であり、今後の危険はないと報告されている。城下の見回りは今後も継続し――』
記事の事実が、すべて真実であるとは限らない。
ここに書かれている不審者とは、もちろんユータのことであるが、それは秘匿されている。
写真を取られてもいたのだが、顔が馬車に隠れて見えなかったのが幸いであった。
それでも縛られた姿で兵士に連れられていれば、誰でも事件だと思うだろう。連行されていると想像するのは、自然であり、否定できない。
だからこそ、その正体をひた隠しにしていた。
このサイフィルム王国にも、いろいろな動きが内包されている。
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読んで頂き有難うございます。
短いですが、明日続けて投稿しますのでご容赦ください。