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10 あっれ~?



 ◇



 勝負の準備は、割と簡単だった。魔工品の防具を身につけて、移動範囲を決めただけだ。一応、立会人兼審判として、ウィルが勝負を見守る。子供たちは、離れた場所からの観戦だ。

 ここまでは、問題がなかった。問題が出たのは、この次だ。問題と言うほどのことではないのかもしれないが。

 各自が定められた位置に付き、ウィルが確認をする。


「それでは次に……、使用する魔石は、何になりますか?」


「赤と黄と黒を使う!」


 子供は、ウィルに威勢よく答えた。

 対して僕は、片手を挙げて質問していた。


「魔石って、何?」


 子供たちの僕を見る視線が痛い。いや、全然知らないのだから仕方がないでしょ?

 少年の言葉で、色で判別がつく要素らしいことはわかった。だが、それだけで魔石について聞かれた意味まではわからない。

 ウィルは、僕の質問に一つ頷いて説明を開始した。


「魔石は、スキルの種類によって必要になります。戦闘用のスキルの発動には、必ず必要です。エレンの《火遁》や《分身》がそうですね」


 ウィルの例に出されて、昨日のエレンの行動を思い出した。ついでに昨日の恥ずかしさも思いだす。あの現象は、魔石を使って起こしていたのか。


「魔石の種類によって、できることも変化します。これは、模擬戦に当たりますので、何が起こる可能性があるかを把握するために聞かせていただきました」


 ウィルが聞いたのは、この勝負の安全性を高めるためだったようだ。

 魔石については、この場で必要なことは理解した。だが、理解しただけであって僕には意味がない。


「魔石を持ってないから、僕は意味がないよね?」


「いえ、魔工品に魔石が使われていますので、魔工品に触れれば、スキルは使えます。ちなみに、その胸の部分にあるのが黄金魔石、[ステータスピクチャー]に使われているのが黒耀魔石です」


 すでに僕は魔石を持っていたらしい。

 そう言えば、魔工品は魔石を利用して作られていた。魔工品は、スキルの発動にも利用できるようだ。だが、それを理解しても僕には意味がない。


「でも、僕はスキルがないから意味がないよね?」


「……た、確かにそうですね」


 ウィルも、そのことまでは考えていなかったようだ。

 僕のスキル枠は少なく、覚えるスキルについては慎重になるべきと言われている。もっとも、元の世界に帰還することを考えているから、スキルを覚える必要性も感じない。


「スキルがないからって、手加減しないからな!」


(元気な子供だな)


 僕は、その意味を深く考えずに、少年に剣を模した棒を向けて応対した。多少、大げさに見えるように腰に手を当てて胸を張る。こちらも少年に合わせて演技をして見せる。そのほうが、子供は楽しめる。


「それでいいよ。負けた時の言い訳にされなくないしね」


「言い訳なんかしない」


 魔石の確認も済み、子供の気合も十分だった。僕の気合は、そこそこだね。


「では、それぞれ名乗りを上げてください」


「アル=シャーロ!」


「芳川勇太」


 少年、アルが元気良く名乗り、僕は静かに名乗りを上げる。これで勝負の準備が、すべて整った。


「では、アル対ユータの勝負を開始する。始め!」


 ウィルの開始の合図とともに、アルは懐から何かを取り出して手に握った。形は[ステータスピクチャー]に似ている。


(魔石か?)


 この状況で考えられるのは、それだろう。

 そしてアルは、懐から出した物を握り締めて、速攻を仕掛けた。

 僕は、それに対して回り込むように走った。僕にはスキルだけでなく、剣を扱う技術もない。相手が子供であろうと正面から相手はできない。

 僕が回り込もうと動くのを見たアルは、足を止めて剣を構えた。前傾姿勢になって、僕の動きを目で追っている。


「《フレイムラッシュ》!」


 アルのスキル発動と共に、アルの体が動く。僕との距離を一瞬で詰めて、目の前に現れた。目の前に現れたアルは、そのまま剣を横なぎに振る。剣が熱を持ったように赤くなっている。


(速!)


 僕は、それを飛ぶように下がって回避した。アルと距離を取る形になる。

 おそらく今のが、赤の魔石を使ったスキルだろう。剣が赤くなったのだから、ほぼ間違いない。

 他に使うと宣言した魔石は、黄と黒がある。他にもこんな攻撃手段があるならば、まだまだ警戒しなければならない。

 このまま押されては、最初に決めた移動可能範囲を出てしまう。一度の場外で負けはないが、あまり良くはない。僕は、アルを回り込むように足を動かした。


「《フレイムラッシュ》!」


 だが、それをアルが黙って見ているはずがない。続けざまにスキルを使って、僕に追いすがる。一瞬で接近して、赤くなった剣を横に振る。

 再び僕は、剣を避けるために後ろに下がった。

 ギリギリのところで回避に成功。剣線が、僕の目の前を一瞬で過ぎ去る。


(これじゃあ、何もできずに終わりそうだ)


 僕は、二度目の回避の後、すぐに前に出た。剣を振り終わった後のアルに向かって、狙いを定める。そして、剣を振った。

 走り抜けるように、アルの背中を斬撃が襲う。


(まずは、初撃を取った)


 僕の攻撃が、この勝負の初撃目。

 僕は、落ち着いて動くことを心がけていた。間合いは、アルの方から近づいて来てくれるから、難しく考えなくて済む。

 見たのは二回だけだが、《フレイムラッシュ》は、横なぎに一撃を与えるスキルのようだ。それがわかっていれば、回避するのはたやすい。

 僕も姫に連れ回されて、伊達に連敗を続けているわけではない。うん、自慢できることじゃないですね。


「ちょこまか避けて……」


 アルが、口をへの字に曲げたが、すぐに顔を引き締めた。何か思う所があっても、今は勝負の最中。目の前のことに集中している。

 子供だからといって、遊び感覚で勝負をしているわけではないらしい。


「《フレイムラッシュ》!」


 アルは、再び僕の目の前へ加速し、赤く色づく剣を振る。

 僕は、それを再び後方へ下がって回避する。ここまでは、何度も続けた同じ流れだ。

 それを見たアルが、剣先を下げた。


「《シャドウエッジ》!」


 アルの持つ剣が、黒く変わる。黒い剣の剣先が、一瞬だけアルの影に触れた。そこから剣が、下から伸び上がるように振り上げられる。

 影に触れた剣が、伸びる。いや、剣に触れた影が、伸びている。剣の長さを伸ばすように、影が剣に巻き付いている。僕に向かって、影が斬撃となって襲ってくる。

 とっさのことに僕は、回避が間に合わなかった。向かってくる影に対して、両腕で顔を覆って衝撃に備えて身構えた。

 影の刃は、僕に衝撃を与えて、乾いた音を発して消えた。

 僕は、影の衝撃で後ろへ転がってしまった。転がったままの体勢で、頭を軽く振って、すぐにアルの位置を確認する。

 アルの剣が、赤く光っている。


(まずい!)


 僕は、立ち上がるのを放棄して、横へ転がった。

 僕がいた場所を、赤い剣線が通り過ぎた。

 何とか逃げ切った僕は、大きく跳び退り、アルから距離を取る。

 アルは、すぐに構えて、次の行動に移っている。


「《シャドウエッジ》!」


 距離を取った僕へ向かって、アルは離れた位置から影の斬撃を飛ばす。

 僕はそれを横に飛んでかわす。

 距離があったために、今回はかわせた。だが、距離が近づけば次はうまくかわせない。

 距離が離れたことで、場の動きが一度止まった。

 僕の身に着けている防具に取り付けられた黄金魔石が、点滅していた。その様子は、ウィルたちにも見えているだろう。それを見たウィルが何も言ってこないので、先ほどの行動で何か魔工品が効果を発揮したのかもしれない。

 息を整えながら状況を考える。その間に、黄金魔石の点滅が消えていく。

 僕の攻撃は、接近して剣を振るしかない。

 対してアルの攻撃は、《フレイムラッシュ》、《シャドウエッジ》の二種類のスキルと通常の剣での攻撃もある。まだ使っていないスキルもあるかもしれない。

 取れる手段が、あまりにもかけ離れている。スキルの差がある分、仕方がないのだろうけれど、これで勝負を仕掛けたらただのバカではないだろうか。つまり、僕はバカということになる。

 そんなことを考えるのは後にしよう。今は、この状況を何とかしなければならない。

 深く考えるまでもなく、結論はでる。結局のところ、一撃に賭けるしかない。できる限り強い一撃で、短時間で勝負を決めるしかない。姫との模擬戦の時にも考えたが、何とも芸のない話だ。


(また、変な称号を得なければいいけど)


 僕は、覚悟を決めてアルに向き直った。そして、胸元に輝く黄金魔石の上に空いている手を置く。

 アルは、表情を厳しくして僕の行動を見つめている。

 僕の取った行動は、特に意味はない。ただ何か気を引ければと思っての行動だ。この程度の小細工にどれほどの意味があるかはわからないが、何もせずに突っ込むわけにもいかない。事前にスキルはないと宣言しているけれど、これをどう取ってくれるか。

 僕は、ゆっくりと歩き始めた。アルの周囲を回るようにして足を進める。

 アルも僕の動きに合わせて、体の向きをずらす。僕に正面を向けるように、少しずつ回転する。

 僕は、アルの様子を注意深く見つめながら、速度を上げた。歩く速度から徐々に走る体勢へと移っていく。

 すぐに素早い動きを求められる速度になって、僕はアルの周囲を駆ける。僕からは、動かない。常に走り回って、アルの様子を観察する。

 アルは、僕の動きを見ながら、間合いを変えているが、攻撃をしようという意思が丸見えだった。

 そして、膠着状態に堪えられず、アルが動いた。


「《フレイムラッシュ》!」


 アルの使う中で最も素早いスキル名が、この場に響いた。

 アルが、瞬時に間合いを詰めて、僕の足下で剣を振る。

 僕は、それを最低限度の動きで回避する。何度も見ているのだから、どこまで下がれば避けられるかを判断できる。剣を受けるギリギリのところで避けて、こちらも動く。

 一歩足を前に出して、わずかに体を反らす。胸に当てた手を外して、黄金魔石を再びさらした。外した手は、そのまま拳を握り、カウンターのようにアルに向かって突き出す。

 それを見たアルは、腕を胸の前で交差させて防御の体勢を取った。

 その防御に対して僕は、何もしなかった。アルに対して突き出した拳をぶつけることもしない。

 突き出した拳は、フェイントだ。突き出した拳をアルの目の前で止め、手の平を見せる。そこにアルの気を向けさせたうえで、もう片手で握る剣をアルの死角から振り抜く。

 アルの体の横を駆け抜けざまに、背中を切りつけた。


(よし、うまくいった)


 ここで僕は、動きを止めてしまった。あまりにもうまくいきすぎたため、気が緩んでいた。

 そんな僕の背後、頭頂部から背中の中央にかけて衝撃が走る。それは、アルが剣を振り切った結果だった。

 そして、機械的な警告音が、周囲に鳴り響いた。警告音は、僕が身につけている防具から鳴っていた。


「勝負あり!」


 ウィルの掛け声が、広場の中に広がる。

 広場で観戦していた子供たちが、歓声を上げ、拍手をし、駆けていた。

 すべては、勝者となったアルのために。


(あっれ〜?)


 僕とアルの勝負は、わりとあっさり終幕した。



 ◇



 読んで頂き有難うございます。

 今回の解説コーナーは、魔石についていくつか。


 『魔石の色』

 通常、出回っている魔石は、色により分類される。種類は全部で七色あり、赤、青、黄、緑、紫、白、黒と分類されている。

 普段は色で分類されるが、正式な名称も存在する。また、魔石によって効果に傾向がある。

 赤は、緋炎魔石と呼び、熱や炎に関する効果をもたらす。

 青は、氷蒼魔石と呼び、冷気や氷結に関する効果をもたらす。

 黄は、黄金魔石と呼び、硬化や防御に関する効果をもたらす。

 緑は、深緑魔石と呼び、治癒や生命に関する効果をもたらす。

 紫は、紫電魔石と呼び、電気や光に関する効果をもたらす。

 白は、白銀魔石と呼び、解毒や浄化に関する効果をもたらす。

 黒は、黒耀魔石と呼び、情報や感覚に関する効果をもたらす。

 それぞれの効果は、魔工品になっても反映され、時には複合させて使用される。スキルを発動させる時にも影響があり、魔石の効果を完全に消すのは困難である。

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