ハチミツ色の恋
僕の心はどくどくと震えている。恥ずかしくって居た堪れなくって、このまま息の根が止まるのではないかと思うぐらいに緊張する。
夕方の太陽の光を受けて、純白の花々が蜂蜜色に染まってきらきらと輝く。シチュエーションはバッチリだ。僕は、心の震えを押さえつけるように声を絞り出す。
「僕は君が好きです」
彼女を真っ直ぐ見据え、今までに無い、真剣な口調で言葉を紡ぐ。
けれど、彼女は僕から視線を逸らし、小さく甘い溜め息を吐く。何処か官能的なその溜め息は、僕の胸を更に高鳴らせる。
「私は貴方が嫌いです」
溜め息と共に吐き出された言葉に、僕はめげそうになるが、目をぎゅっと瞑り、ふるふると首を振った。今までの僕とは違うんだ。そう心に誓い、再び目を見開く。視線を逸らさず、真っ直ぐに見つめ続けた。すると、彼女は僕の視線を抹殺するが如く目を伏せた。
「僕は好きなんですよ」
「私は貴方が嫌いなの」
また、一蹴される。僕を睨みつけた彼女の、一瞬の刺すような視線も、僕の心にストレートに劈く。けれど、僕はくじけない。
「僕、君のためなら、君の大好きな蜂蜜、たくさんあげるのにな」
彼女はピクリ、と反応を示した。予想通り。彼女は凛としていて冷たい印象を与えるけれど、実際は甘いもの大好きな、すごく女の子らしい子なんだ。悩んでいる表情が可愛い。僕には彼女のどんな顔も、花が咲いているように優しく煌いて見えた。
けれど、すぐに表情を引き締め、ふん、と言った。
「どうせ、他の女に貢いでもらったんでしょう」
「ち、違うよ」
僕は思わずかぶりを振る。痛いところをズバズバ突くのが得意な彼女は、瞬時に自慢げに鼻をふふん、と鳴らした。
「嘘よ。貴方みたいな、見てくれだけは良い男、他の女がほおっておく訳がないわ」
僕が黙っていると、ほら見なさい、とでも言うように口元を歪める。
確かに、僕はモテる。ついこの前も、可愛い女の子に(勿論彼女と比べれば劣るけれど)、とろりと甘い蜂蜜と純白の花をプレゼントされた。
「貢いでもらったことが、無い、とは言わないよ」
視線がフラフラと泳ぐ。右往左往しながらも、結局は彼女を見た。言葉を慎重に拾い出しながら、どうか彼女に想いが届きますようにと祈りながら、ゆっくりと話す。
「でも、どんなに貢いでもらっても、僕には君が全て、なんだよ」
「……」
今度は彼女が息を呑み黙り込んだ。僕が顔を覗きこむと、彼女の顔は赤く、熱を帯びている。
「な、何見てるのよ」
「いや、可愛いなって」
彼女は赤い顔で僕を睨みつけた。
「貴方とは、一分も一緒に居たくない」
「居たい、の間違いじゃないの」
僕は可愛い彼女をからかうように冗談めかして言ってみると、彼女の顔は見る見る赤くなっていく。まるで蜂蜜みたいに甘ったるくて、でもとろっとしていて癖になりそうな素敵な表情。僕が思わず見惚れていると、彼女は眉を吊り上げ、
「……、もう、知らないっ」
彼女は踵を返して、飛んでいった。
「あ、ちょっと、待ってよ」
これは、結構脈アリかもしれない。僕はニヤリと笑って彼女を追いかける。
*
「ねーえ。あのミツバチ、ブンブンうるさい」
「ほんとに。ねえ、どっかにハエ叩きないの?」
執筆中小説を整理していたら随分前の話が出てきました。
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