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色ボケジジイのダンジョンと日常

作者: BANG☆
掲載日:2026/08/01

 おやまぁ、仄暗(ほのぐら)い洞窟型ダンジョンの一階層へと通じる大して広くも無い通路でいかにも今日デビューしましたって体(てい)の小娘が立ち尽くしてますねぇ。


 たった一人でいっちょ前に剣を抱えてプロテクターに身を固めて・・・仲間でも待っているという風にも見えませんねぇ・・・


「何をじろじろ見てんのさ!勝手にヲトメのパイオツのぞきやがって気持ち悪いんだよ!

 そんなナメクジが這いずり回るみたいな目付きでこっち見んな!

 きめぇんだよ!」


 いきなりの罵声だねぇ・・・あたしゃあんたのその胸に抱えてる剣の手つきで、いかにも刃物の扱いに慣れてなさそうだから心配して観てただけなんだけどねぇ。


 大体、生粋のおっぱい星人のあたしがそんなコーヒー皿で収まりそうな大平原の小さな窪地みたいな胸になんてとてもじゃないけど興味なんて持つ筈が無いでしょうに、ねぇ?


 例え、あんたなんかがもし裸でその辺を歩いたってだぁれも振り向きゃしないよ!


【・・・んな゛ぁご】


 タマよ、お前迄あたしを信じていないのかい?


 あたしが両腕に抱いてる黒猫のタマったら疑わしそうにあたしの事を見上げて不機嫌そうに身動(みじろ)ぎなんかして呉れちゃってさ・・・お前と知り合って60年、ずーっと一緒にいたあたしの事はお前が一番知ってるじゃないのかい?


 眼付きがいやらしいだとか伸びた鼻の下がキモいだとか散々言われてきたあたしだけどホントはどんな人間だかお前は知ってるじゃないのさ。


「エロジジイはサッサとゴブリンにでもなぶり殺しになってこいってんだ!」


 勝手に盛り上がって一人で激高しながらさんざっぱら罵詈雑言(ばりぞうごん)やら悪態やらを吐(つ)きまくった初心者マークのコーヒー皿女はあたしを睨みつけながらやっとこさ去っていきましてね・・・それにしてもあたしに何の反論のチャンスも弁解の余地も与えないままで行くなんてとんでもない女だね全く。


 あからさまな虚勢を張るくらいなら案山子(かかし)でもいいから仲間を連れてりゃいいのにねぇ。


「おぉや、『落穂拾いジジイ』が新人に怒鳴られてるって度胸がある奴もいたもんだね」


「なぁ『スナイパー』さんよ、そんなジジイはほっといていい加減ウチのメンバーになってくれよォ☆」


 後ろから声を掛けてきたのは『乳神様』いや『スナイパー』の二つ名でここら辺のダンジョン界隈ではとっても有名なショートヘアで眉目秀麗で凄腕とその名を轟かす那須阿莉子(ありす)様。


 あたしがコッソリ名付けた乳神様の名の通り自己申告だとGだかHだかのパンと張りつめたお椀型の惚れ惚れするような胸部装甲(あたしの見立てだと絶対Jカップに間違いないんだけどねぇ)がとってもワンダフルな弓聖さんで、その神様にコナ掛けてる身の程知らずのチンピラはこのダンジョンでも悪い噂の絶えないパーティー『怒羅魂魚離亜《ドラゴンウォーリア》』のリーダー『ドラゴンの安』(本名不詳、知りたくも無い)。


 50年に及ぶダンジョンの歴史の中で弓なんていうほとんど扱う者がいないジョブでありながら個人でこの辺りでもほんの一握りしかいない丙種探索者(シーカー)にそして世界初の弓聖にまで上り詰めた乳神様に碌な事をしないクズの分際で言い寄るなんて万死に値するってもんですよ、ええ!


「気安く声掛けられても迷惑なんだけど、解ってる?」


 その言葉と共に乳神様の鋭い視線が威圧となってクズドラゴンの心臓に刺さってますねぇ。


 あぁ!あたしもあんな風に見つめられたい!即、成仏できる自信がありますねぇ!


「ま、まあ、き、今日のところは引き下がるけどさ、お、俺たちゃぜんぜんあきらめないゼ☆」


 しどろもどろになりながらも虚勢を張ってクズドラゴンが逃げていきますねぇ。


 腰が引けてるっていうかなんか臭うねぇ。・・・ははっ、アイツったら脱糞してやがるじゃないですか、いい気味ですねぇ。


「ジジイとは言えあたしも探索者(シーカー)なったのは半年前ですからねぇ。

 年季はあの娘と大して変わらないし虚勢張って吠えてるチワワに一々目くじら立てるのも大人気ないってものでしょ、ねぇ?」


「ポーターだからって舐めてたら痛い目に会うってのに怖いもん知らずっていうか知らぬが仏って言うか。

 タマちゃん見てもポチを見ても何も感じないようだったらあの子はダンジョンじゃ半年も生きて無いだろうけどね」


 あぁ、ポチって言うのはあたしが連れてるちょっと大きめのシベリアンハスキーみたいな荷車を引いてる犬・・・かねぇ。


 ポチに引かせる荷車でポーターとして他の探索者の荷物を運ぶのがあたしの仕事でね、だからポーターなんですよ。


 デカい犬に荷車を引かせて両腕に余る程大きな黒猫を抱えてるのがあたし、ポーターの人呼んで『落穂拾いジジイ』の鈴木一郎70歳なのよね。


 あの小娘がテイマーって訳でも無いあたしが二頭(どう考えたって匹で収まる大きさじゃないからねぇ)を連れてダンジョンにいる姿を見て違和感を感じられないってのは、探索者(シーカー)としちゃあ致命的だから乳神様(阿莉子様)の言い分には異論は御座いませんけどね・・・それよかあんな不良ども(怒羅魂魚離亜)に勧誘されてる乳神様にあたしとしては違和感を感じてるんですけどねぇ。


 だってそうでしょう?


 不遇職と言われて久しいアーチャーのジョブを授かって散々苦労してソロで丙種まで辿り着けたほどの傑物がパーティーでやっと戊種にしがみ付いてる、それもいい噂を聞いた事の無い札付きどもからしつこく勧誘されてるのなんて有り得ない事じゃないの。


 一応説明しとくけど探索者って免許制で上から神・特・甲・乙・丙・丁・戊・己・初ってランク分けがしてある訳でね、本人のジョブレベルに関わらず探索者を統括してる通称ダンジョンギルド正式名称は・・・異界管理探索局だったっけ?の腹積もりで交付されてる訳。


 神特はほぼお飾りで国際貢献で選ばれるから国内にはいないんで実質は甲種から初種の間で交付されるんだけど、素行が悪けりゃ当然昇格しないし、上部にコネがある連中なら不相応なランクでも交付を受けられるって寸法ね。


 ソロで頑張る乳神様(阿莉子様)はフリーのスポット参戦で依頼を熟(こな)している訳で甲種認定されてる『栄光の星』とか『至高の秘宝』みたいな大手の後ろに色々スポンサーが付いてるクランより貢献度が低いって扱いで丙種なんだけどクランがダンジョンを踏破する時とかは必ず応援で呼ばれて一番戦果を挙げてるのは乳神様なんですからね!


 どう考えたって不当としか思えないじゃないの。


 かく言うあたしも、実はポーターでありながら非公式ながらソロでダンジョンを一つ潰してる訳で登録半年で己種免許ってのは不満が無い訳じゃ無いねぇ・・・非公式だからそりゃあ認められないだろうって?


 正論は刺さるから受け付けませんのでヨロシク。


 でもあたしが連れてるタマとポチを見て普通に洞察力のある連中は混乱したのよね。


 だって人間以外でダンジョンに外から入る生き物っていないのよ。


 過去に何度も警察犬とか連れて行こうとしたんだけどダンジョンに入る直前に人間以外の全ての動物は謎の突然死を遂げちゃうのよ。


 中からモンスターどもが溢(あふ)れてくる迷宮氾濫(オーバーフロー)って言う災害はあるけどね。


 だから、ダンジョンの中からモンスターが溢れないようにあたしら探索者が中に入って間引きをしてるって事なんだけど黎明期には色々とすったもんだがあったものよ。


 人間以外は潜れないって制約の他にも火器は使えないってのもあるのよね。


 銃だろうが大砲だろうがダンジョンの中じゃうんともすんとも火薬が反応しないし弾が飛ばないのよ。


 中で使い物にならなかった爆薬をダンジョンから出した瞬間に爆発して多数の死傷者が出たなんて事例もあったし、ダンジョンの外から打ち込んだ砲弾が入ってすぐの場所にポトッと落ちて不発弾になった挙句に出したら爆発するんじゃないかってそのまま50年近く放置されてる都市伝説じみた事例もあるくらいなのよね。


 話が横に逸れちゃったけど外からダンジョンに生き物を持ち込めるあたしって特殊なのよねぇ。


 探索者の資格を取った時もさんざっぱらこねくり回されて二月何とかいう研究所に監禁された事もあったねぇ。


 結局理由が解らずにあたしとタマとポチは放免されてこうしてダンジョンに潜ってるって事なのよね。


 タマやポチをあたしから引き離そうとして何人も不幸な目に遭った人間も出てきたけど、自業自得って事で腫れ物に触るみたいに今は不問に付されてるのよね。


 大体60年一緒にいるタマが普通の猫の筈が無いじゃない。


 見た目はまるで黒豹みたいに大きい真っ黒なシャムだけどね。


 あの子(タマ)は猫又なんだもの。


 そしてウチの運搬担当のポチ。


 コイツは見た目は普通よりちょっと大き目なシベリアンハスキー。


 性格も騒がしくて間抜けで寂しがり屋なお調子者のハスキーそのものなんだけど実を言うとコイツも狗神って言う妖怪なのよね。


 まぁコイツがあたしのトコに来た経緯はいろいろややこしいのがあったけどねぇ・・・まっそれはおいおいって事で。


 とにかく妖怪はモンスターじゃないし普通の生き物でも無いんだからダンジョンの禁忌は関係ないからねぇ。


 ダンジョンの中から湧いたモンスターじゃなくて外にいた妖怪を使役して商売してるんだから文句は無しって事であたしはここにいるのよ。


 稼がないと背負わされた濡れ衣とは言え債務を履行できないからねぇ・・・


 あんまり面白い話でも無いしそんな事は構わないでしょ?


 取りあえず今日も稼ぎに行きましょうか。


「お~い『俊足の荒鷲』さん。今日はみんなして気合が入ってるじゃないの。

 ポーターは必要ない?

 あ、そう。そりゃあ邪魔したねぇ・・・また今度お要りようだったら御指名をよろしくねぇ。

 おや、『N大探索部』さんじゃないの。今日はどちら迄?あぁ、3階層までかぁ。

 深く潜る時は呼んどくれ、学割適用でお安くしとくからねぇ。

 あぁ、『漆黒の魔王軍』さんだね。やっと戊種に上がったんだって?今日はどこまでだい・・・」


 押しなべて今日も平和で退屈だねぇ。

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