次の人生へ
※最終話です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
すべての出来事に、一つの区切りがつきます。
それぞれの選択の先にある結末を、
見届けていただければと思います。
第5話(修正版・リョウマ崩壊強化)
「ただいま、りえこ!」
玄関の扉を開けながら、タケシは明るい声を上げた。
手には、紙袋いっぱいの土産。
「……お帰りなさい」
出迎えたその声は、どこか小さかった。
「お、どうした?元気ないじゃん」
靴を脱ぎながら、軽く笑う。
「そんなことないよ。お土産ありがとう」
りえこは笑った。
――そう見えた。
(……なんか変だな)
胸の奥に、わずかな違和感。
けれど、その正体は掴めない。
その夜。
タケシは、りえこをそっと抱き寄せた。
「……久しぶりだな」
その瞬間。
「――やめて」
りえこの手が、タケシの胸を押した。
はっきりとした拒絶。
「……え?」
「……あ、ごめん……違うの……今日は、その……あの日だから……」
「……ああ、そうなんだ」
間の抜けた声が出る。
「そっか。なら仕方ないな」
タケシは苦笑いした。
(びっくりした……)
違和感だけが、少しずつ積み重なっていく。
数日後。
「……話があるの」
りえこが、静かに言った。
その声は、どこか覚悟を含んでいた。
「あなた、優しいだけなのよ」
唐突だった。
「……え?」
「優しいだけじゃ、ダメなの」
りえこは真っ直ぐにタケシを見た。
「……どういうこと?」
「物足りないのよ」
その言葉に、空気が止まる。
「もっと……強引でもいいの」
りえこの声は、どこか熱を帯びていた。
「リョウマ君みたいに」
その名前が出た瞬間。
タケシの思考が、わずかに遅れる。
「……は?」
「無理矢理でもいいから、全部捨てて私を攫ってくれるくらいの人がよかった」
言い切った。
迷いなく。
「あなたには、それがない」
沈黙。
「……なるほどな」
タケシは、ゆっくり息を吐いた。
「それ、今言う?」
苦笑いが漏れる。
「まあ……そういうことなら、仕方ないか」
あっさりとした声だった。
「え……?」
りえこが戸惑う。
「いや、価値観違うなら無理だろ」
肩をすくめる。
「俺は俺だし」
数日後。
会社の一室。
「ふざけるな!!」
机を叩く音が響いた。
「こんなのデタラメだ!!」
リョウマは、顔を歪めて叫んでいた。
「デタラメではありません」
冷静な声が返る。
「人事部に、匿名の人物から資料が送られてきています」
「……っ」
一瞬、言葉に詰まる。
机の上に、数枚の写真が並べられる。
「就業時間中に、部下の自宅へ訪問」
淡々とした説明。
「そして――」
一枚の写真が、静かに滑らされる。
「部下の妻と不適切な関係を持っている証拠」
「……やめろ……」
リョウマの声が、低くなる。
「言い逃れは、できませんね」
その一言が、突き刺さる。
「……っ!!」
拳を握りしめる。
視線が泳ぐ。
「こんなもの……誰が……!」
「送り主は不明です」
逃げ道は、なかった。
「処分は、懲戒解雇となります」
その宣告で、全てが終わった。
「……くそ……!」
椅子を蹴り、立ち上がる。
「ふざけるな……!」
声は、もはや怒りではなく――
崩壊だった。
数週間後。
タケシは、静かな部屋で一人、ソファに寝転んでいた。
「……まあ」
天井を見上げる。
「しゃーないか」
少しだけ笑う。
「次いこ、次」
それから、しばらくして。
「ほんと、無理しすぎなんだから」
「いやいや、これでもだいぶマシになったって」
隣を歩く女性――沙里奈。
二人は、自然な距離で並んでいた。
「……ありがとうな」
ふと、タケシが言う。
「え?」
「いや、なんでもない」
照れくさそうに笑う。
沙里奈は、少しだけ目を細めた。
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
彼女の瞳の奥に――
何か別の色が宿ったように見えた。
「……どうしたの?」
「いや……なんでもない」
タケシは首を振る。
(気のせいか)
沙里奈は、いつものように微笑んでいた。
優しくて、穏やかな笑顔で。
ただ――
ほんの僅かに。
口角が上がっていた気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
短い物語ではありましたが、
楽しんでいただけたでしょうか。
それぞれの結末や、その後については、
読む方によって感じ方が変わるかもしれません。
少しでも印象に残るものがあれば嬉しいです。
本当にありがとうございました




