孤島の単身赴任と、侵入する毒蛇
※第2話です。
前話では、突然の電話から物語が動き始めました。
今回は少し時間を遡り、
すべての始まりとなった出来事を描いています。
何気ない選択が、どこへ繋がっていくのか――
そんな視点で読んでいただけると嬉しいです。
「すまんタケシ、九州に単身赴任を頼めないか?」
オフィスに響いた、親友であり上司でもある藤田リョウマの声。
「新婚早々、無理を言っている自覚はある。……だが、向こうの支社は優秀な『タケシ』を指名してきているんだ!」
リョウマは苦渋に満ちた表情で俺の肩を叩く。
「……待ってくれ、夫婦での赴任はダメなのか?」
「期限は一年だ。一人の方が身軽だろ? 向こうに家族寮はないんだ、すまない!」
「……分かった。りえこに相談してみるよ」
俺の言葉に、リョウマは「恩に着る」と深く頭を下げた。
だが、その時。床を見つめるリョウマの口角が、獲物を罠にかけた獣のように吊り上がっていたことに、俺は微塵も気づかなかった。
自宅マンション。
「……りえこ、話がある」
「どうしたの、タケシ君?」
キッチンから顔を出した彼女の、陽だまりのような笑顔。俺はそれを直視できず、絞り出すように告げた。
「一年間の、単身赴任が決まったんだ」
「……そんな。寂しいよ、私もついて行きたい……っ」
「一年限定なんだ。月一回は帰るし、向こうからの指名なんだよ。……すまん!」
俺は、目尻に涙を溜めた彼女を強く抱き寄せた。
「……そっか。タケシ君、優秀だもんね。分かった、お留守番任せて!」
健気に微笑む彼女の温もりを信じ、俺は一週間後、九州へと旅立った。……それが、愛する妻を狂わせるカウントダウンの始まりだとも知らずに。
タケシが発って、わずか七日後。
ピンポーン、ピンポーン。
昼下がりの静寂を切り裂く、無機質なチャイムの音。
「誰だろう? 宅配便かな」
無防備にドアを開けたりえこの視界に飛び込んできたのは、見知らぬ配達員ではなく、夫の親友・リョウマだった。
「……あれ? リョウマ君……どうしたの?」
「りえちゃん、ごめん。……タケシの単身赴任、俺の力じゃ止められなかった」
殊勝な顔で頭を下げるリョウマに、りえこの警戒心は微塵も残っていなかった。
「今日はお休み? リョウマ君、お茶でも飲んでいく?」
「……いいのかい? じゃあ、お言葉に甘えて……」
一時の寂しさを埋めるための、あまりに軽率な招き入れ。
ドアが閉まる音。それが、幸福な家庭を粉々に粉砕する『地獄の入口』の音だった。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第2話では、物語の“裏側”が少し見え始めました。
まだすべては明かされていませんが、
違和感の正体が少しずつ形になっていきます。
この先、どう崩れていくのかも含めて、
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです




