赤い魔女の店の、何でも屋稼業
手慰み、第数弾でございます。
お楽しみいただければ、幸いなのですが……老人殺しが、登場いたしましたので、好ましい結果にはならないかもしれません。
それでもよろしければ……。
その日、店にやってきた時から、赤い魔女は悩み顔で溜息を吐いていた。
本日は、店番の日ではないが、魔女の希望で訪問していた店番は、同行してきた夫婦と共に首を傾げつつ、そっとそれぞれ動き出した。
店番は、魔女の悩みを聞き出すべく、同行した夫婦は、当初の目的を実行すべく、台所の方へと向かう。
紅茶と茶菓子を盆にのせ、店の応接室にいる魔女の元に戻った店番は、向かいに座ってテーブルにそれらを置き、平坦な声で尋ねた。
「もしかしてまた、人生相談に乗ったんですか?」
「……そんな簡単な話じゃ、ない」
人生相談にもいろいろあり、簡単も難しいもない。
だが、魔女からすると、人生相談の類は、簡単と割り切れるらしい。
単に、面白がれるか否かで、その境を作っているだけかもしれないが。
「では、何か、難しい品を、注文されたんですか?」
「ううん」
首を振る魔女は、妙に子供じみた返事をした。
実際は、店番よりもかなりの高齢であるのに。
あざとい、と思いはしたが、それは口にせず、静かに深く尋ねる。
「では、何をそんなに悩んでいるんですか?」
「……別れさせ屋、みたいなことを、頼まれた」
「へえ」
懐かしい単語だった。
一昔前から、探偵の仕事として定着してしまった依頼種だ。
別れさせると言っても、人によってさまざまだったが、主に賭博や不義を辞めさせるよう、誘導する仕事だったなと、店番が思い出しているところに、魔女は続けた。
「ある十代のお嬢さんの婚約者に、幼馴染のお嬢さんが言い寄らないよう、他の誰かと出会わせて、夢中にさせてほしいって」
「簡単じゃないですか」
店番はつい返してしまった。
思わず睨む魔女は、この店が繋がるそれぞれの世界に顔が効く。
十代の少女に年頃の相手を探すのなんて、朝飯前のはずだ。
悩む理由が分からない店番に、魔女は苦い顔で言った。
「もう一つ、同じ依頼があったんだよ。しかも、同じ日に」
「へえ。でも、あなたの事ですから、二人位当てがあるんじゃないですか?」
軽く返す店番に、魔女は更に苦い顔になった。
「……その、先のお嬢さんの、幼馴染のお嬢さんの依頼でも?」
「……」
初めて、店番の顔が変化した。
目を丸くして、こちらを見つめる顔を見ながら、魔女は神妙に頷いて見せた。
「それぞれが、その婚約者の少年を諦めさせるために、男を仕掛けてくれと、依頼してきたんだよ」
その日、それぞれ一人でやってきた少女たちは、子爵家と男爵家のご令嬢で、賜った爵位の差はあれど、同格の家柄の二人だった。
どちらも商売ごとで成功して爵位を賜った口だが、扱っている物が違う事もあり、争うことなく現在まで来ていた。
寄り親が同じという事もあり、同い年の少女二人も、自然と仲良くなったのだ。
その中がぎくしゃくし始めたのは、男爵家の方に伯爵家から縁談が舞い込んだのが原因だった。
「それが、二股疑惑の婚約者」
「……二股? してるんですか? そうは書いてませんけど」
魔女の説明を聞きながら、店番は引継ぎ用の顧客名簿と、備考を読んでいた。
その個所を指さしつつの指摘に、魔女は答えた。
「どちらも、はっきりとしたことは、言ってなかったけど、男爵家のお嬢さんの言い分では、子爵家のお嬢さんと彼が、相思相愛でも不思議ではない、という事みたいだね」
「……成程」
備考を読みながら、平坦な声で頷く店番に、魔女は声を潜めた。
「どちらも、返事待ちにして、今日のところは帰したんだ。こんなこと、私には決められないからね。でも、返事は今夜中にしなきゃいけないんだ。どうすればいいと思う?」
「……」
黙り込んだ店番は、台所の方を一瞥して伺い、備考のある個所を指で差した。
「私なら、こちらを狙います」
差された個所を見て、魔女は目を見張った。
その心を問い詰めようとするのを、店番は手のひらで抑えた。
「まずは、お約束していた朝食を、どうぞ」
平坦な声に応えるように、本日の連れの一人が、和食の朝食を盆にのせて、応接室に入ってきたのだった。
男爵令嬢と子爵令嬢は、幼い頃から親友と言ってもいい間柄だった。
利害を考えるような間柄ではなく、本当の友人同士だ。
少なくとも子爵令嬢の方は、そう思っていたのだ。
男爵令嬢に婚約者が出来、仲睦まじくしているのを見るまで。
その婚約者が、自分の初恋の君だと気づくまで。
その、伯爵令息に収まっている少年は、何処かの田舎から、王都に出稼ぎにきた女性が、どこの誰かも知らない男の種を身ごもり、産み落とした子供だった。
母親が、子爵男爵の寄り親である、公爵家でメイドをしている関係で、子供たちだけのお茶会の時に、時々会う機会があったのだ。
身分的には平民だが、賢い少年だったため、将来は公爵家での雇用が内定していたはずなのに、公爵家とは違う派閥の寄り子の、伯爵家の養子として引き取られたそうだと、父親に残念そうに言われた。
子爵令嬢には兄がおり、いずれは嫁がなければならず、それならば少しでも好ましい相手と添わせたいと、両親が心を砕いた結果、玉砕した形となった。
実らないのならば諦めようと、そう割り切った直後の、男爵家の縁談話だ。
男爵令嬢が、あの伯爵家と縁づいてしまう事にも、驚きと脅威を感じたが、そのお相手が幼馴染だったことにも、衝撃を受けた。
貴族となってしまったからには、政略結婚は仕方がないのは分かる。
爵位の高い方からのごり押しでは、男爵家には断れないことも。
だが、それでもっ。
この縁談を、素直に祝福することが、子爵令嬢には出来なかった。
何とか、破談に持ち込みたい。
そんな思いで時々、男爵令嬢と二人きりのお茶会で、婚約者の事を尋ねていたのだが、最近は怪しまれてしまったのか、招待も来ず、招待してもお断りされてしまうようになった。
子爵家の方も、家族ぐるみで仲がいい男爵家の今後を憂い、寄り親を含む人脈を駆使して、色々と根回しをしているのだが、間に合いそうもない。
ならば、力技で伯爵家と引き離せないかと、寄り親の公爵家の子息と話し合った時、不意に思い出したのだ。
王都の真ん中に、密やかに存在する、謎めいた雑貨店。
その店主は、王都でも珍しい色合いの、美しい女性だ。
平民も常連なその店は、貴族にも親しまれていた。
手に入りにくい品を、即席で用意できる店として。
もしかしたら、この手の相談にも、乗ってくれるかもしれない。
藁にもすがる思いで、子爵令嬢はその店に足を運んだのだ。
相談に乗ってくれた店主は、綺麗な顔を曇らせて、苦しそうに告げた。
「少し、検討の時間をもらえるかな? 出来ないことはないけど、段取りが難しそうだ」
答えが出たら、何かしらの方法で知らせるから、またおいでと送り出されて、店を後にしたのが昨日で、夕べのうちに答えが返ってきた。
詳しく段取りを組みたいとの言伝を、黄色い猫の首に巻かれた手紙で伝えられた子爵令嬢は、翌日再び店にやってきた。
が、予想外の事態が、そこにあった。
カウンターの方に向かうと、昨日と同じように店主が座っていたが、暗い赤毛の長身の女は、若干気の抜けた顔で笑いながら、奥へと導いた。
案内した応接室らしき部屋を覗き、一言声をかける。
「もう一人のお客さんも、見えたよ」
室内の誰から、小さく息をのむ音が聞こえたが、それに構わず、店主は入り口の前で子爵令嬢を招き入れた。
勧められるままに中に入ったが、きっちりと閉じられた扉を背後に、立ちすくんでしまった。
応接室の客席に座る、同年代の女性も、座ったまま目を見開いている。
「どうぞ、お座りください。あ、並んで座りたくないようでしたら、向かい合ってくださっても、一向に構いませんが」
平坦な声で言ったのは、見知らぬ人物だ。
薄色の金髪の、女にしては長身で、男にしては小柄な、中性的な美貌の持ち主で、性別不明な人物だ。
その声に押されて、子爵令嬢は先客の隣に腰を下ろした。
先に来ていたらしい男爵令嬢は、困惑してこちらを見ているが、困惑しているのはこちらも同じだ。
何故ここに、男爵家の令嬢がいるのか、そしてなぜあの件についての段どりの話し合いに同席するのか、さっぱり分からない。
二人して黙り込んでいると、奥の方からもう一人、応接室に入ってきた。
こちらは、一見して女性と分かる、長身の人物だ。
つやのある黒髪のその女性は、静かな仕草で二人の前に茶を置き、そのまま先の人物の隣に収まった。
その自然な仕草と、対照的な美人の二人が並ぶさまに、令嬢たちはつい言葉を失くし、ついでに思考も停止していた。
我に返ったのは、金髪の人物の平坦な報告があったからだ。
「あなた方の依頼を受けて、既に動いているのですが……」
「え?」
揃って聞き返す令嬢たちに構わず、その人物は続けた。
「先ほど、経過は上々と、報告がありました」
「はあ?」
そんなはずはないと男爵令嬢を見ると、そちらも子爵令嬢を同じような顔で見ていた。
それで察する。
「……もしかして、あなたも、この店に?」
「え? どうしてっ? あなたたちの家だけでも、巻き込まれないように動こうって、公爵家に相談したのにっ?」
「え? ……えー」
男爵令嬢の動揺した言葉で、色々な思惑が、判明してしまった。
気の抜けた声を発した子爵令嬢に頷き、金髪の人物が言った。
「昨日のうちに、あなた方のお宅の寄り親のお宅とも、繋ぎが取れました。どうやら、この国のあく抜きに、この店を巻き込もうという、腹黒な思惑だったようで」
「まあ、それは追々、報復させていただきますが、今は、こちらが先ですよ、ね?」
平坦な声と表情の人物とは違い、隣の女性は優しく微笑んで小首を傾げた。
「公爵様は、お子様好きの赤い魔女さんが、二人のお嬢さんが追い詰められているのを見て、思い悩んでしまうのを見越して、お二人をそれぞれ動かしたようですよ」
優しく続けた女性は、そっと茶を勧めた。
「甘い茶請けもどうぞ。うちの旦那が、あなた方を心配していました。まだお若いのに、こんな重い悩みを背負って、大変でしたね」
勧められるままに茶菓子に手を伸ばし、二人の令嬢はすっかり気が抜けてしまった。
話を引き出すのがうまい女性に乗せられ、二人の馴れ初めや最近のギクシャクさを、口々に言い合い、時には軽く言い争っているうちに、すっかり気が晴れてしまっていた。
だから、当の女性が言った、
「あの件は、あなた方ではなく、相手側に仕掛けているから、心配ないです。私の旦那が、ちゃんと成功させるはずですから、待っていてくださいね」
という言葉にも、違和感を覚えなかった。
その言葉に、可笑しい単語があったことに二人が気付いたのは、数日後だった。
数日後、男爵家に縁談相手の伯爵家が、話し合いの場を設けてほしいと先触れを出してきた。
幸い、家族が揃う日が早かったため、その話し合いも早めに行われることになったのだが、伯爵家の様子が、前回とは明らかに違った。
まずは、養子となった令息の服装が違う。
顔合わせの時も、婚約者同士のお付き合いの時も、貴族の比較的高価な服に身を包んでいたのに、今は完全に平民が着用する服装だ。
そんな令息が、伯爵を夫人と挟んでソファに腰かけた。
戸惑う男爵側に構わず、伯爵夫妻は妙に浮足立っていた。
何というか、どちらも何かに気もそぞろな状況で、本当ならば、こんな所にいたくない、そんな気持ちを押し隠しているつもりだが、傍から見たら全く隠せていない状況、と言えばいいだろうか。
中年の夫婦が、そこまで感情をあらわにするのも、珍しいというか不気味というか、どちらにしても男爵側は戸惑うしかない。
しかも、この話し合いの議題が、予想を超えていた。
「こちらの家との縁談、白紙にしたいのだ」
朗らかに告げた伯爵の言葉に、令嬢は思わず令息の方を見た。
目を合わせた少年の方は、困ったような顔だが、別に悲壮な感じはしない。
それどころか、笑いを殺している顔だ。
男爵家としても有難い話だが、唐突な申し出は困惑しか湧かない。
「あー。娘に、何か落ち度でも?」
困惑を張り付けたまま、男爵が問うと、伯爵は朗らかに笑って首を振った。
「そうではない。ただ、この子との養子縁組を、解消する手続きをしたのでな、婚約者は不要となったのだ」
「……はあ……?」
矢張り、よく分からない。
男爵は夫人と顔を見合わせつつも、何とか相槌を打ったのだが、その様子を見た伯爵夫人が、詳しい話をしてくれた。
その夫人も、何処か浮ついている。
「実は、わが家にふさわしい人を、見つけたんですよ」
目を瞬く男爵夫人に笑いかけ、伯爵夫人は言う。
「そこの子は、旦那様が平民を手に付けて産ませた子で、私とは血の繋がりがないでしょう?」
「え、ええ」
確かこの伯爵家は、旦那の方が伯爵家の血筋のはずだから、何の問題もないはずだがと、男爵家一同思ったが、何故か夫人の言い分に、伯爵本人も頷いている。
「夫人との子供ではない、生粋の貴族ではない子を後継ぎにするのならば、いっそのこと、生粋の平民でも、差支えはないだろうと判断したのだ」
「……?」
疑問符ばかりが、男爵家の一同の頭の中には湧いて出る。
一体、どこに転がる話なのか、想像もできない。
そんな男爵たちに、伯爵は朗らかに言い切った。
「新しい養子候補は、子供を養いながら働く人でな、後継ぎの問題も、全く問題ないのだ」
? 問題ありまくりでは?
話について行けず黙っている男爵たちに、今度は夫人も続ける。
「とても教養がある方で、貴族の教養もすぐに身につくと思うのよ。だから、その方に伯爵家をお任せする予定なのよ」
「そ、そうです、か。分かりました」
漸く、本当に漸く、男爵が相槌を打った。
早く話を終わらせて、距離を置いた方がいい、そんな予感が背中を押したのだ。
これ以上関わっていては、どんな異質なことに巻き込まれるか、分からない。
その予感は、大当たりだった。
平民に戻り、公爵家の職場に戻った少年は、後に語った。
「たった一人の男性を、伯爵夫妻が取り合って、自滅した」
「男性って、男っ?」
男爵子爵両令嬢の驚く顔に頷き、少年は説明した。
その男性は、何処かの店で料理人をしている男らしい。
二十代半ばくらいで、長身で細身な、黒髪の優しい顔立ちの男だ。
彼と先に会ったのは、夫人だったという。
護衛たちが命令に従って夫人から離れた時に、一緒だったメイドに声をかけたのだ。
ただ、道を尋ねただけ、だったらしい。
だが、その少しの時間で、穏やかな笑顔を浮かべたその男を、見初めてしまった。
「……」
「……で、秘かに、平民の食堂に通っていたところを、不義を疑った伯爵に見とがめられて、夫人が紹介したら、伯爵本人も……」
「……」
何というか、娯楽の本でも、そこまでありきたりな展開は、ない。
いや、昔はあったのだろうが、今は古いの一言だ。
だが、伯爵夫妻は引っかかった。
しかも今の状況は、同情の余地もない事態だった。
男爵家との縁談が白紙に戻って、更に数日後、伯爵家のメイドが警邏の屯所に、飛び込んできた。
血相を変えたメイドが言うには、伯爵夫妻がそれぞれ凶器を持って、振り回しているとのことで、半信半疑で数人の警邏が伯爵家に向かったところ、中年の夫妻が、それぞれ斧と剣を振り回して、屋敷中を駆け回っていた。
仰天して応援を要請し、残りの警邏で事態の収拾と従業員たちの避難を進め、やってきた応援と共に夫妻を拘束するのに成功した。
興奮状態だった二人は、朝方になって我に返ったが、説明は要領を得なかった。
「……それぞれが好いた者が、それぞれに隠されてしまったから、かっとしてしまったと、自供してるんだって」
「へえ」
今この世界の王都で話題の話を、魔女は店番に語っていたが、聞いている方は無関心だった。
引継ぎ用の顧客名簿を読んでいる店番を、ついつい胡乱な顔で見つめつつ、魔女は続ける。
「要領を得なかったから、伯爵家の王都の屋敷を捜査したら、犯罪の宝庫だったんだと。証拠の品、ぞくぞく」
「へえ」
相槌が、軽すぎる。
魔女は目を細めて、店番から顧客名簿を取り上げた。
「一体、どういう仕掛けをしたんだ?」
「……聞いていたでしょう? あの二人が来た時の会話。あれを、正確に実行したんですよ。私の兄貴分は」
店番は溜息を吐きながら答えた。
その日やってきた理由は、魔女の密やかな願いのためだった。
「……味噌汁が、恋しい……」
恋しいと言うほど、馴染んだ飲み物ではないはずだが、どうやら意外にも、和食にはまっているらしい魔女は、店番にとっては数少ない身内の一人で、強く出れない存在の一人だ。
なので、暇になった兄貴分に頼み、材料をそろえて妻も同行させて店にやってきたのだ。
本当は、味噌汁にお握りと漬物を添え、それを食してもらって満足させるだけのつもり、だった。
が、この兄貴分の妻は、すこぶる聴覚が鋭かった。
先の魔女と店番の会話が、台所にいても聞こえていたのだ。
和食定食を堪能した魔女に、女が優しく先の話を切り出し、店番にも解決策の説明を乞う。
いや、乞うというより、詰問に近かった。
こうなると思ったから声を潜めたし、二人が応接室に来る前に、話を中断したのだが、無駄だった。
そして、時期も悪かったのだ。
何故なら……。
「……現在、私の周りの連中の殆どが、戸籍代わりの時期で、暇なんです」
それを聞いて、魔女は嫌な顔になった。
「まさか、あの二人を利用した腹黒貴族を、逆に利用するつもりで、動いたのか? あの二人だけではなく、お前の周りの奴らがっ?」
「だから、スピード解決だったでしょう?」
客であった二人の話が書かれた備考欄には、件の伯爵家の、金繰りの怪しさを疑う記載があった。
目をかけていた少年が、あの伯爵の種だと知った公爵との、男爵家子爵家それぞれの、やり取りも。
これは明らかに、それぞれが同じ思惑で、別々に動いていたが為のすれ違い、だった。
ならば、仕掛ける相手は、伯爵夫妻揃った一択だ。
その日のうちにこの世界にやって来た、店番の知り合いたちは、裏付けも陽動も、急ピッチで行い、例の公爵家にも、それ相応の対価を強要しても来た。
店番は触りは考えたが、その後は一切手を付けていない。
つけなくていいと、周囲に止められてしまった。
こういうところだけは、変わらない連中だった。
「……」
盛大な溜息を吐いた魔女に、店番は平坦な声で言った。
「今回の、伯爵家の没落の加勢の見返りに、いくつかの屋敷を、無償で貰ったそうです。向こうの世界での戸籍が安定するまで、そこを拠点にして、色々とやらかそうと考えているようですね」
「……お前、放置する気か?」
「ご存じでしょう? 私の方は、暇じゃなくなったんです。出来ても、店番位です」
非情な店番の答えに、魔女は呻くしかなかったのだった。
店番の兄貴分は、昔から老人に受けがいい男です。
昔の老人は、四十代からなので、伯爵夫婦は完全に……。
P.S 見直して気づく。
魔女さん、朝食をいつ食ってるんだ?




