表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

思ったよりイイ感じ

「えーっと...僕のクラスは.......ここを曲がって真っすぐ行って........」

「待って行き止まりなんだけど!?もしかして...上の階?」

このアホ面を晒しながら校内を徘徊している生粋の方向音痴の名は星乃(ほしの)夜空(よぞら)

というのもエア校は様々な施設と繋がっているため、通路がかなり複雑な造りとなっているのだ。


「はぁ...ようやく着いた......」

魔導学部1-Aの表札が、こちらを嘲るようにそこに鎮座している。


ガララッ

教室の中は初々しい緊張に包まれており、酷く静かだった。

「(僕の席はえーっと...)」

「(あっ名前の順って訳じゃないんだ。)」


窓際から一席離れた、後ろから2番目の席、ここが彼の新たな拠点だ。

「(後ろの方の席なの、結構ありがたいかも。)」


トートバッグを机の上に置き、椅子に座る。

周りを見渡してみると、魔導書を読んでいる勤勉な者がいたり、スマホゲームをやっているのんびりな者など、中学の頃とあまり変わらない光景に少し安心感を覚える。

かくいう夜空少年は、既にトートバッグを枕にして寝る準備をしているのだが...


「(今日からエア校生...か。)」

有名だからという理由だけで選んだ学校、魔導学部を選択したのだって、なんとなく魔法が好きだから。


「(相変わらず自己がないよな...でも楽しそうではあるし......)」


そんな風に黄昏ていると、突然教室の引き戸が猛烈な勢いで引かれた。


ガララララララ!!!ドゴォ


『!?!?!?!?!?』

「あっ、すまん。」


ーーーーーーーーーーーー


「コホン、あーお前ら、とりあえず初めまして。」

「私の名前は黄泉乃(よみの)(とばり)、このクラスの担任になった、これからよろしく。」

黒髪に紫のインナーカラーが入った、どことなく気怠そうな雰囲気を醸し出している彼女が魔導学部1-A、星乃夜空達の新たな担任だ。


「んじゃあとりあえず点呼していくぞー。」

「荒木」

「はいっ!!!」

「藍田」

「はーい!」


「それからー...」

先生が生徒達の名前を呼び、それに応えていく。

見るからにめんどくさそうに仕事をするその姿に、教室の空気が少し緩んでいくのが分かった。


「虚」

「はい。」


「....?」

不思議な感覚だった、彼女が返事をした瞬間、まるで夢の中にいるような浮遊感が襲う。

視界が渦巻き、世界の彩度が歪になっていく。本当が本当じゃなくなっていくようなーーー


「(あれっ?僕は一体何を.......)」

「(久しぶりに体を動かしたからかな、疲れてるのかも.......)」

オシャレな言い方をしたが、結局のところ夜空少年のスタミナがクソザコなだけだった。

そんな感覚に襲われている間に、点呼の方もかなり進んでいたらしい。


「星乃」

「はっはい!」

「唯咲」

「はぁい」


「よし、これで19人、全員揃ってるみたいだな。」

「それじゃあ無駄に配布物が多いから、とっとと配って終わらせるぞ。」

「一番前の席のヤツは、今のうちに自分の列に何人いるのか確認しとけ。」


「(...本当にすごい適当だな......)」

適当ながら、的確で合理的な指示により、()()()()()配布物を配るのにも、そこまで時間を要さなかった。


「恐らく今配った紙共のどこかに自己紹介シートってモノが混ざってるから、今日家に帰ってからでも書いておけ、暫く教室の中に貼っておくものだから、あんま変な事は書くなよ。」


"はーい"


「これにてHRは終わりだ、明日はクラス内で親睦会と、部活動見学があるから留意しとけ、それじゃあ解散、とっとと帰れ。」


そういうと帳先生は、僕たちを残しそそくさと廊下の方に出て行ってしまった。

「(親睦会...か.......うぅぅ.......緊張する.........!!!)」


「(とりあえず...今日はもう早く帰ろ、お腹空いたし。)」

不健康ではあるが、さすがに菓子パンひとつで腹具合が持つほど少年の代謝は悪くない。

「(たまにはカップ麺でも食べるか......)」

不健康ではあるが。


何味のカップ麺を食べるか考えながら、少年は廊下に出た。

「(うーん、醤油か塩か.....それとも味噌か.....悩みどころだなぁ.........)」

とぼけたツラで長い廊下を歩いていた所、ふと目線を落とした先に、罰印に結ばれた1対のヘアゴムが落ちているのを見つけた。


「落とし物...だよね?えっと、職員室ってどこに.......」

「ん?あの人は.....」

頭を上げて前を見ると、一つの人影が見えた。


"(うつろ)、水色のインナーカラーがかかった白髪に、ピンクと青のオッドアイが特徴的な夜空のクラスメイトだ。

「もしかしてこのヘアゴム、あの人の.......」

「ってやばっ!!階段降りて.....!!早く追いつかないと見失っちゃう!!!」


エア校内の造りは複雑、故に少しでも目を離せば一瞬でどこに行ったかが分からなくなってしまう。

少年は考える間もなく走り出した。

道中の壁に"廊下は走らないでください"という壁紙が貼ってあった気もするが、知ったこっちゃない。


「はぁっ、はぁっ...!!そこの人.....待って!!!」

「......?」

少女が後ろから聞こえる声に気づいたのか立ち止まる。


「ハーー....ゲホッゲホッ...!このヘアゴム、君のものじゃないかって.......」

そう言って罰印の紺色のヘアゴムを差し出す。

「あっこのヘアゴムっ!!!」

どうやら少年の全力疾走は骨折り損にはならなかったらしい。


「ありがとーー!!!わたしのだこれーーーーー!!!」

「えーー!?どこで落としたんだろ!?!?ほんっとにありがと!!!」


「っ!?は、はぁ....」

見た目の儚さとは裏腹に、とても元気な返事が返ってきたため、少々驚いた。


「とりあえず持ち主が見つかってよか」


グゥゥゥゥゥ....


「えっ」

「あっ」


静かな廊下の中に、少年の体の中から空気の押し出される音が響く。

どうやら度重なる激しい運動により、夜空少年の胃袋は遂に朽ち果ててしまったらしい。


「(サイッッッアクだ......!?!?!?)」

「.....えっとその......」


「.........もしかしてキミ、お腹すいてたりする....??」

「..................お恥ずかしながら...」


「じゃあ丁度良かった!!!!!」

「!?!?!?」

予想だにしなかった返答に、思わず狼狽える。

少女はパステルの瞳を輝かせながら少年に話しかける。


「この学校の中にさ!すんごくかわいいカフェがあるの見つけちゃってさ!!!」

「よかったら、一緒に来てくれない!?一人だとすこし寂しくって....」


「えっあっぼっ僕でよかったら!!!」

「ほんとー!?!?ありがとーーー!!!!」


ガシッ


そう言い終わると、少女は突然少年の手を握りーーー


「それじゃ、早くいこ!!」

「えっちょまっ」

「(待って今僕女子と手つないで!?!?)」

....言わずもがな、夜空少年は未だ純潔である。

少女はそんな事もお構いなしに、ぐんぐんと少年を前に引っ張っていく。


ーーーーーーーーーーーー


「よーし!着いたーー!!!」

「ここが件の.....」


学園内カフェ、"メイクミス・ターボチャージ"。

カフェ、ましてや飲食店にあるまじき店名だが、確かに外装はお洒落で可愛い。


「....メイクミスをターボチャージしたらまずいのでは?」

「ね!早速中はいろー!!!」

「あっうん...」



「二名様ですね、こちらの席をご利用ください。」

店内も外装に負けずオシャレで、意味分からん葉っぱやもちもちしたヌイグルミがそこらに置いてある。

床と壁は木目調で落ち着いた印象を感じさせ、店内BGMも相まってチルい雰囲気を出している。


"オマエの寝首を掻き切ってェェェ!!!その血で髪を泡立たせエエエエる!!!!!!"


「!?!?!?!?!?!?!?」

.......血温い雰囲気を出している。

少女、虚はメニュー表とにらめっこするのに夢中なのか、全く意に介してないようだ。


「んーー....そうだなー.....私はカフェラテたのもっかなー!」

「あっじゃあ僕もそれと....このミルクケーキで。」

注文が決まったのでスタッフにそれを伝え、暫くするとオーダー品がやってきた。


「こちら、カフェラテが二杯に、ミルクケーキが一皿です。」

「ありがとーー!!ねぇ見てキミ!!!」

「このカフェラテ、レモンのくし切り入ってるんだけどー!おもしろーー!!!」


「それ僕のカフェラテには入ってないから、メイクミスなんじゃないかな...」

「えっウソーーー!?!?まぁおもしろいしいっか!」

「そんな適当でいいの!?」

「えまって意外とおいしいんだけど」

「おいしいと思ってなかったの!?!?」


カラララ.....


「てかさ!わたし達まだ自己紹介してなくない!?」

「あっ確かに....」

点呼の時点で苗字は呼ばれていたが、確かに名前までは知らなかった。


「わたしの名前は(うつろ)(ゆめ)!!テキトーに夢って呼んでいーよ!!!」

「僕の名前は星乃夜空、よろしくね、夢......()()。」

「さんって、そんなぁ!?敬称なんてつけないでいいよ!夢って呼んで!」

「えっあー....ゆ、夢.......???」

「ふっふーん♪そう!夢です!!!」




「そういえばさ、えっと...夢はなんでこの学校を志望したの?」

「なんだか面接官みたいなコト言うね!?うーん、わたしはねー....」

少女は軽くあしらいながらも、ゆっくりと、確かな心持ちでこう答えた。


「わたしはね、もっと色んな人に()を見せたいんだ。」


「.......人に、夢を?」

「それってなんか、学校の先生になるとか、研究者になるとか.....」

少女は静かに首を振る。


「ううん、人に夢を見せたいの。」


「えっと.....とりあえず、人が夢見れるような何かをしたいんだね。」


少女は穏やかに微笑み、一口複雑な味わいのカフェラテを飲んだ。


ーーーーーーーーーーーー


その後も会話は弾み、気づけば時計は午後1時を指していた。


「今日は付き合ってくれてありがと!また明日ー!!!」

「うん、また明日。」

遠ざかっていく白髪の少女を見送りながら、夜空少年も帰路に就く。


「(今日は疲れたけど、なんだかんだ言って楽しかったなぁ...)」

「(.......体はぼろぼろだけど。)」


煌々とした太陽の光が、見慣れない景色を照らす。

帰り道は奇跡的に迷わず、無事に家に帰る事ができた。


「後は夜までゲームでもやって、眠くなったら寝よ...」


意外とこの高校生活は楽しいものになるかもしれないと、少しの希望を胸に抱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ