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第8話 最強の盾と、もふネコの秘密

「成敗ぃぃぃーーッ!」


 天道陽奈の攻撃は、迷いがなかった。

 真っ直ぐな、教科書通りの上段振り下ろし。

 対象は、学園最恐の男、金剛厳夫(こんごういわお)の脳天。


「……ちっ」


 金剛は眉一つ動かさず、左腕を上げた。


 ガギィッ!!

 鈍い音ではなく、まるで鉄パイプと鉄パイプが衝突したような硬質な音が響いた。

 金剛の太い腕が、陽奈の全力の一撃を、微動だにせず受け止めていた。


「なっ……! か、硬っ!?」

「おいコラ、テメェいきなり何しやがる」


 陽奈が驚愕に目を見開く。竹刀が弾かれ、手が痺れているようだ。

 金剛の低い声が地を這うように響く。眼光だけで人が殺せそうな迫力だ。


「くっ……いい腕してるね! なら、二の太刀!」


 陽奈は着地するやいなや、遠心力を利用して横薙ぎの一撃を放った。

 速い。運動Fの俺なら反応すらできずに吹き飛んでいる速度だ。

 だが、金剛はため息混じりに、デコピンを弾くような動作をした。


 パチンッ!


「っとぉ!?」


 竹刀の剣腹を指先一つで弾かれただけで、陽奈の体はコマのように回転し、吹き飛ばされた。

 だが、彼女は転ばない。

 空中で猫のように身を翻すと、タタンッ! と地面を蹴って着地し、即座に構え直したのだ。


(……すげぇ。体幹バランスがバグってやがる)


 俺は物陰で戦慄した。

 金剛の防御力(VIT)も異常だが、陽奈の回避能力(AGI)も人間離れしている。まさに怪獣大決戦だ。


「証拠はあがってるんだよ! あんた、今そこで何埋めたの!? 弱きを挫く悪党は私が許さない!」


 息一つ切らさずに叫ぶ陽奈に、金剛は面倒くさそうに頭を掻いた。

 そして自分の足元――さっきまで手を合わせていた盛り土を見た。


「あぁん? 埋めた? ……スズメだ」

「えっ?」

「スズメだよ。巣から落ちて死んでたから、埋めてやったんだ。……カラスに食われたら可哀想だろ」


 場に、奇妙な沈黙が流れた。

 カラスが「アホゥ」と鳴いて飛び去っていく。

 陽奈がパチクリと瞬きをする。

 俺も、物陰から顔を出して固まる。


 スズメ?


 俺は恐る恐る、金剛の足元を見た。

 盛り土の上には、アイスの棒を二本組み合わせた手作りの十字架が立てられている。


 それだけじゃない。

 盛り土の周りは、野良猫に掘り返されないように、丁寧に選ばれた綺麗な小石で囲いが作られていた。

 さらに、その脇には一輪のタンポポが、日差しを避けるように大きな葉っぱを傘にして供えられている。


 ……繊細すぎる。

 そこらの女子より女子力が高い配慮だ。

 こいつ、死体遺棄じゃなくて、ガチの供養をしてただけだ。


「あ、あの……じゃあ、さっきの『安らかに眠りやがれ』っていうのは……」

「供養の言葉に決まってんだろ。文句あんのか」


 金剛が睨む。

 陽奈の顔が、みるみるうちに青ざめ、そして真っ赤になった。


「ご、ごめんなさいいいいいっ!!」


 陽奈は竹刀を放り投げ、その場に見事なジャンピング土下座を決めた。

 額が地面にめり込む勢いだ。


「私、てっきり悪いことしてるんだと思って! ごめんなさい! 私の方が悪党でした! 切腹します!」

「お、おい! 頭上げろ! あと切腹すんな!」


 金剛が慌てて陽奈を止めようとする。

 その時だった。

 金剛が屈んだ拍子に、彼の学ランの胸ポケットから、何かがポロリと落ちた。


 それは、パステルピンクのスマホケース。

 背面には、ゆるキャラのようなファンシーなネコのイラストが描かれている。


「あ」


 金剛の動きが止まった。

 俺の視線と、金剛の視線が、そのスマホケースで交差する。


(……あれは、癒やし系パズルゲー『もふもふネコちゃんず』の限定スマホケース!?)


 間違いない。俺も知っている。

 先月のイベントランキング上位50位以内の報酬でのみ入手可能だった、超激レアアイテムだ。

 まさか、このレイドボスが『もふネコ』のガチ勢?


「……み、見たな?」


 金剛の顔が、湯沸かし器のように真っ赤に染まった。

 さっきまでの殺気はどこへやら。今は完全に「秘密を知られた乙女」の顔だ。

 彼は慌ててスマホを拾い上げ、泳いだ目で叫んだ。


「ち、違うぞ! これは俺のじゃねぇ! い、妹のモンだ!」

「お前、一人っ子だろ。一年の時の自己紹介カードにそう書いてあったぞ」

「うっ……! じ、じゃあ拾ったんだ! さっきそこで!」

「そのケース、特注の刺繍ストラップが付いてるな。イニシャルが『I.K(いわお・こんごう)』に見えるが?」

「ぐぬっ……!」


 金剛は言葉に詰まり、わなわなと震え出した。

 これ以上ないほど分かりやすい反応だ。図体はデカいが、精神的防御力メンタルは紙らしい。


「テメェら……俺がこんなファンシーなもん持ってるってバラしたら……埋めるぞ!」


 その脅し文句すら、今の俺にはただのノイズだった。

 俺の頭の中では、ものすごい速度でパズルのピースが組み合わさっていた。

 ランキング50位以内の限定報酬。イニシャルI.K。名前は厳夫(いわお)

 ……間違いない。俺は毎日ランキング表をチェックしているからな。


「……お前、もしかして先月のイベント、『黒ネコの森』ランキング5位の『IWAOちゃん』か?」


 俺がボソリと尋ねると、金剛の肩がビクッと跳ねた。


「な、なんでそのHN(ハンドルネーム)を知ってやがる!?」

「俺は『軍師K』だ」

「ッ!? あの伝説の無課金勢、軍師Kか!?」


 金剛の態度が一変した。

 どうやら、俺のゲーマーとしての悪名は、ジャンルを超えて轟いているらしい。

 その反応を見た瞬間、俺の中で金剛への恐怖心が霧散した。


 こいつは「別種族(ヤンキー)」じゃない。同じ穴の狢、愛すべき「ゲーマー(同志)」だ。


 相手が同志なら、俺の対人結界は解除される。

 チャンスだ。

 俺はニヤリと笑い、スマホを取り出した。


「金剛。取引をしよう」

「と、取引だと?」

「今度のコラボイベント、限定スタンプが欲しいだろ? だが、あそこはドロップ率が渋い。俺なら乱数調整によるテーブル固定と、ボスの攻撃モーションに対するフレーム回避のタイミングを教えられる。周回効率が3倍になるぞ」


 俺は早口でまくし立てた。

 横にいる陽奈が「らんすう? ふれーむ? 呪文?」とポカンとしているが、金剛には通じたようだ。


 彼の喉がゴクリと鳴る。

 揺れている。鋼の意思が、ファンシーなネコの前で揺らいでいる。


「条件は一つだ」


 俺は土下座したままの陽奈の襟首を掴んで立たせ、金剛の前に突き出した。


「俺たちの部活、『お任せ部』に入れ」

「はあ!? なんで俺がそんなモンに!」

「入らないなら、明日からお前のあだ名は『もふもふ番長』だ」

「き、汚ねぇぞ軍師!」


 金剛は唸り声を上げ、しばらく葛藤した末に――。


「……わーったよ! 入りゃいいんだろ、入りゃ!」


 彼は忌々しそうに、でも少しだけ安堵したように息を吐いた。


「ただし! 俺は暴力とか面倒なのは嫌いだ。……その、なんだ。スズメの墓参りの邪魔だけはすんなよ」


 そう言ってそっぽを向く金剛の耳は、真っ赤だった。


「やったあ! 交渉成立だね!」

 陽奈が満面の笑みで金剛に抱きつこうとし、金剛に「寄るな! 暑苦しい!」と手で制される。

 俺は心の中でガッツポーズをした。


 見た目は魔王、中身は乙女(?)。

 最強にして最硬の盾を手に入れたお任せ部。

 だが、俺は改めて目の前の二人――ニカッと笑う暴走ポニーテールと、顔を赤らめる金髪リーゼントを見比べ、頭を抱えた。


(……絵面が濃い。濃すぎる。胃もたれしそうだ)


 部活成立まで、あと一人。

 戦力的には十分だが、俺の精神衛生(メンタル)を守るためにも……次は絶対に「癒やし枠」が必要だ。

 頼むから、次はまともな人間が来てくれ……!

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