表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/50

第50話 エピローグ お任せ部の承認と、陰キャ軍師の新たな日常

 時計塔での『アンジュ奪還作戦』から数日後。

 俺たちお任せ部のメンバーは、放課後の部室――通称『魔窟』に集まっていた。


「……反省文、やっと終わったぁ……」


 陽奈が机に突っ伏し、魂が抜けたように呟く。


 当然の報いである。

 時計塔への不法侵入、屋根上での危険行為、その他諸々の破壊活動。

 退学にならなかったのが奇跡のようなものだが、そこは生徒会の温情と、裏での政治力(理事長の孫への忖度)が働いたらしい。


「手が痺れて文字が書けねぇ……」

「私もですぅ……『ごめんなさい』って百回書きましたぁ……」


 金剛とクルミもグロッキー状態だ。

 そこへ、コンコンとドアがノックされた。

 入ってきたのは、銀縁眼鏡をかけた生徒会長・西園寺ランカと、副会長の東城寺だ。


「……ごきげんよう、破壊神の皆さん」

「あ、会長!」


 陽奈がガバッと起き上がる。

 ランカは咳払いを一つすると、ツカツカと陽奈の前に歩み寄り、一枚の賞状のような紙を差し出した。


「これを受け取りなさい」

「えっ、なにこれ? 賞状?」

「『特別活動許可証』です」


 ランカは、少しだけ頬を染めて視線を逸らした。


「貴女たちの活動……その、実態はともかく、結果として学園の環境美化と治安維持に貢献したことを認め、生徒会公認の部活動として承認します」

「えっ、ホントに!?」

「ただし!」


 副会長がすかさず補足を入れる。


「活動内容は『学園内の清掃』および『害獣駆除』に限定します。……破壊活動は含みませんので、あしからず」

「えーっ、地味!」

「文句を言わない。廃部よりマシでしょう」


 ランカは呆れたように言うが、その口元は緩んでいる。

 そして、彼女のスクールバッグには、取り戻した『アンジュ』のマスコットが、誇らしげに揺れていた。


「……今回は特別ですからね。勘違いしないでください」

「へへっ、ありがと会長! これで堂々と活動できるね!」

「……ふん。精々、私の顔に泥を塗らないように励みなさい。……じゃあね、陽奈」


 ランカは最後に、下の名前を小さく呼んで、ヒラリと手を振って去っていった。

 ツンデレのお手本のような去り際だ。


「やったー! 公認だー! 宴だー!」

「うおおお! 俺たちが正規軍だ!」

「すごいですぅ! 部費も出ますかぁ!?」


 陽奈たちが手を取り合って喜んでいる。

 俺、笹木慧は、その騒がしい光景を、少し離れたパイプ椅子から眺めていた。


(……やれやれ)


 俺はスマホを取り出した。

 画面にはいつものソシャゲ『ロゴス・リベリオン』。

 だが、ログインボーナスを受け取る指は、以前よりも少しだけ遅かった。


 ――人生は、神様がテストプレイを放棄したバグだらけのクソゲーである。


 その定義は、今も変わっていない。

 理不尽な難易度、噛み合わない会話、予測不能なトラブル。

 壁を削り、銅像を磨き、カラスを追いかけて空を飛ぶ。

 俺が望んでいた「平穏なモブライフ」とは程遠い、ノイズだらけの毎日だ。


(……だが)


 俺はスマホの画面を消し、目の前の現実(リアル)を見た。


 西日に照らされた埃っぽい部室。

 スナック菓子を開けて笑い合う、筋肉ダルマとドジっ子。

 そして、その中心で太陽のように笑う、ポニーテールの少女。


 あの日、俺のノイズキャンセリングを突き破って飛び込んできた「特大のバグ」。

 彼女が引っ掻き回すせいで、俺のクソゲーはめちゃくちゃになった。

 バランス崩壊もいいところだ。


 けれど。

 退屈で、灰色で、ただ消化するだけだった俺の毎日は――いつの間にか、極彩色のイベントで埋め尽くされている。


「……悪くはない、か」


 俺は小さく呟いた。

 クソゲーにはクソゲーの楽しみ方がある。

 バグ技だろうが裏ワザだろうが、使いこなして攻略してやるのも、ゲーマーの腕の見せ所だ。


「あ、軍師くん! 何サボってんの!」


 不意に、陽奈が俺の前に立ちはだかった。

 あの日と同じ。

 逃げ場のない、真っ直ぐな瞳。


「公認も取れたし、次だよ次! 次のクエストに行こうよ!」


 陽奈が俺の手をガシッと掴む。

 やはり、その手は火傷しそうなくらい熱い。

 以前の俺なら、振りほどいて逃げ出していただろう。


 でも、今は――。


「……ああ。仕方ないから付き合ってやる」


 俺は観念して立ち上がり、その手を握り返した。


「俺は軍師だからな。お前みたいな暴走特急(バグ)、俺が制御(デバッグ)しないと世界が壊れちまう」

「にししっ! 頼りにしてるよ、相棒!」


 陽奈がニカッと笑い、俺の手を引いて走り出す。


「行くよー! 青春攻略、スタートッ!」


 俺たちのクソゲー攻略は、まだチュートリアルが終わったばかりだ。

 どんな無理難題(クエスト)が待っていようと、このバグだらけのパーティーなら、なんとかなる気がした。


 さあ、次のステージへ。

 俺は覚悟を決めて、走り出した彼女の背中を追った。

第一部完結です!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし良かったら、★評価、ブックマークをしてもらえると、第二部制作のモチベーションになります。

次は、ランカを活躍させたいなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ