第50話 エピローグ お任せ部の承認と、陰キャ軍師の新たな日常
時計塔での『アンジュ奪還作戦』から数日後。
俺たちお任せ部のメンバーは、放課後の部室――通称『魔窟』に集まっていた。
「……反省文、やっと終わったぁ……」
陽奈が机に突っ伏し、魂が抜けたように呟く。
当然の報いである。
時計塔への不法侵入、屋根上での危険行為、その他諸々の破壊活動。
退学にならなかったのが奇跡のようなものだが、そこは生徒会の温情と、裏での政治力(理事長の孫への忖度)が働いたらしい。
「手が痺れて文字が書けねぇ……」
「私もですぅ……『ごめんなさい』って百回書きましたぁ……」
金剛とクルミもグロッキー状態だ。
そこへ、コンコンとドアがノックされた。
入ってきたのは、銀縁眼鏡をかけた生徒会長・西園寺ランカと、副会長の東城寺だ。
「……ごきげんよう、破壊神の皆さん」
「あ、会長!」
陽奈がガバッと起き上がる。
ランカは咳払いを一つすると、ツカツカと陽奈の前に歩み寄り、一枚の賞状のような紙を差し出した。
「これを受け取りなさい」
「えっ、なにこれ? 賞状?」
「『特別活動許可証』です」
ランカは、少しだけ頬を染めて視線を逸らした。
「貴女たちの活動……その、実態はともかく、結果として学園の環境美化と治安維持に貢献したことを認め、生徒会公認の部活動として承認します」
「えっ、ホントに!?」
「ただし!」
副会長がすかさず補足を入れる。
「活動内容は『学園内の清掃』および『害獣駆除』に限定します。……破壊活動は含みませんので、あしからず」
「えーっ、地味!」
「文句を言わない。廃部よりマシでしょう」
ランカは呆れたように言うが、その口元は緩んでいる。
そして、彼女のスクールバッグには、取り戻した『アンジュ』のマスコットが、誇らしげに揺れていた。
「……今回は特別ですからね。勘違いしないでください」
「へへっ、ありがと会長! これで堂々と活動できるね!」
「……ふん。精々、私の顔に泥を塗らないように励みなさい。……じゃあね、陽奈」
ランカは最後に、下の名前を小さく呼んで、ヒラリと手を振って去っていった。
ツンデレのお手本のような去り際だ。
「やったー! 公認だー! 宴だー!」
「うおおお! 俺たちが正規軍だ!」
「すごいですぅ! 部費も出ますかぁ!?」
陽奈たちが手を取り合って喜んでいる。
俺、笹木慧は、その騒がしい光景を、少し離れたパイプ椅子から眺めていた。
(……やれやれ)
俺はスマホを取り出した。
画面にはいつものソシャゲ『ロゴス・リベリオン』。
だが、ログインボーナスを受け取る指は、以前よりも少しだけ遅かった。
――人生は、神様がテストプレイを放棄したバグだらけのクソゲーである。
その定義は、今も変わっていない。
理不尽な難易度、噛み合わない会話、予測不能なトラブル。
壁を削り、銅像を磨き、カラスを追いかけて空を飛ぶ。
俺が望んでいた「平穏なモブライフ」とは程遠い、ノイズだらけの毎日だ。
(……だが)
俺はスマホの画面を消し、目の前の現実を見た。
西日に照らされた埃っぽい部室。
スナック菓子を開けて笑い合う、筋肉ダルマとドジっ子。
そして、その中心で太陽のように笑う、ポニーテールの少女。
あの日、俺のノイズキャンセリングを突き破って飛び込んできた「特大のバグ」。
彼女が引っ掻き回すせいで、俺のクソゲーはめちゃくちゃになった。
バランス崩壊もいいところだ。
けれど。
退屈で、灰色で、ただ消化するだけだった俺の毎日は――いつの間にか、極彩色のイベントで埋め尽くされている。
「……悪くはない、か」
俺は小さく呟いた。
クソゲーにはクソゲーの楽しみ方がある。
バグ技だろうが裏ワザだろうが、使いこなして攻略してやるのも、ゲーマーの腕の見せ所だ。
「あ、軍師くん! 何サボってんの!」
不意に、陽奈が俺の前に立ちはだかった。
あの日と同じ。
逃げ場のない、真っ直ぐな瞳。
「公認も取れたし、次だよ次! 次のクエストに行こうよ!」
陽奈が俺の手をガシッと掴む。
やはり、その手は火傷しそうなくらい熱い。
以前の俺なら、振りほどいて逃げ出していただろう。
でも、今は――。
「……ああ。仕方ないから付き合ってやる」
俺は観念して立ち上がり、その手を握り返した。
「俺は軍師だからな。お前みたいな暴走特急、俺が制御しないと世界が壊れちまう」
「にししっ! 頼りにしてるよ、相棒!」
陽奈がニカッと笑い、俺の手を引いて走り出す。
「行くよー! 青春攻略、スタートッ!」
俺たちのクソゲー攻略は、まだチュートリアルが終わったばかりだ。
どんな無理難題が待っていようと、このバグだらけのパーティーなら、なんとかなる気がした。
さあ、次のステージへ。
俺は覚悟を決めて、走り出した彼女の背中を追った。
第一部完結です!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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次は、ランカを活躍させたいなぁ……。




