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第46話 合同作戦会議と、優しい共犯者たち

 放課後の生徒会室。

 普段は静粛なこの場所に、今はお任せ部の面々と、招集された生徒会役員たちが勢揃いしていた。


 部屋の空気は、まるで国家の危機に立ち向かう対策本部のように張り詰めている。

 ……まあ、議題は「カラスに奪われた魔法少女グッズの奪還」なのだが。


「……敵は空を飛ぶ。闇雲に追いかければ、また空へと逃げられて終わりだ」


 俺、笹木慧はホワイトボードの前に立ち、マーカーを走らせた。

 描いたのは学園の俯瞰図。そして、敵の予想逃走ルートだ。


「必要なのは、完璧な包囲網だ。お任せ部と生徒会の総力戦で、奴を『(ケージ)』に追い込む」


 俺はババン! とボードを叩いた。


「作戦名『オペレーション・エンジェル・ケージ』。概要を説明する」


 俺は指揮棒を振るった。


「まず、前衛は金剛だ。お前のその『威圧感』で、カラスの低空飛行ルートを塞げ。奴を地上に降ろすな」

「おう! ガン飛ばしてビビらせてやるよ!」


「次に、索敵は夢咲だ。あの天道が追いきれなかった回避能力(スキル)……その動体視力なら、奴の動きも見切れるはずだ」

「は、はいっ! 瞬きせずに見張りますぅ!」


「そして――追い込んだ先で待つのは、生徒会役員による『窓の閉鎖』と『捕獲網』だ。各棟の渡り廊下を封鎖し、奴の退路を断つ」


 完璧な布陣だ。軍師としての俺の脳内シミュレーションでは、勝率は九割を超えている。

 役員たちも「了解!」と頼もしく頷く。

 だが――。


「…………」


 作戦の中心にいるはずの生徒会長・ランカだけが、深く俯いていた。

 彼女は膝の上で拳を握りしめ、震える声で言った。


「……皆さん、すみません」


 その声に、室内のざわめきが止まる。


「こんな……私的なことのために、生徒会を動員して……。ただのアニメグッズなのに……」


 ランカは唇を噛んだ。


「公私混同も甚だしいです。……これでは、会長失格ですよね」


 自嘲するような言葉。

 彼女はずっと「完璧な生徒会長」であろうとしてきた。その理想が、自分のオタク趣味のせいで崩れてしまったと思い詰めているのだ。

 重苦しい沈黙が流れる。


 ……さて、どうフォローするか。俺が口を開きかけた時だった。


「ぷっ」


 誰かが吹き出した。

 見ると、会計の男子生徒が口元を押さえて肩を震わせている。


「会長、何を今さら。……水臭いですよ」

「……え?」

「会長が可愛いモノ好きなのなんて、みんな薄々気づいてますよ」


 その言葉に、ランカが勢いよく顔を上げた。


「は、はいぃ!?」

「だって会長、アンジュの放送翌日は機嫌がいいですし」

「休憩中にこっそり主題歌ハミングしてるの、聞こえてますし」

「スマホの待ち受け、一瞬アンジュちゃんでしたよね?」


 次々と上がる証言。

 書記の女子生徒が、優しく微笑んだ。


「私たちは、完璧な『西園寺様』に付いていってるんじゃないんです。……いつも一生懸命で、ちょっと不器用で、たまに可愛いところがある『会長』が好きなんですよ」


 役員たちが次々と頷く。


「そうそう。完璧じゃなくていいんスよ」

「むしろギャップ萌えってやつですね」

「会長の(アンジュ)、絶対に取り返しましょう!」


 温かい言葉の数々。

 それは、ランカが必死に隠してきた「素の自分」が、とっくに受け入れられていたという証だった。


「み、皆さん……知ってて……黙っててくれたんですか……?」

「副会長からの『見守るように』との指示もありましたから」


 視線を向けると、副会長・正義が澄ました顔で眼鏡を直していた。

 ランカの顔が、りんごのように真っ赤に染まっていく。


「~~~~っ!!」


 恥ずかしさと、情けなさと、それ以上の嬉しさが混ざり合い、ランカの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「うぅ……みんな……バカァ……! 大好きですぅ……!」


 ランカは袖で涙を乱暴に拭うと、キッと前を向いた。

 その瞳には、もう迷いはない。


「……総員、作戦開始です! 私の大事な友達を、絶対に取り返しますよ!」

「「「はい!会長!!」」」


 生徒会室に、力強い返事が響き渡る。

 俺は隣にいた陽奈に、小声で囁いた。


「……いいチームだな」

「うん! 私たちも負けてられないね、軍師くん!」


 陽奈がニカッと笑う。

 こうして、最強の布陣による『アンジュ奪還作戦』が幕を開けた。

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