第39話 消えた威厳(サビ)と、金ピカの創立者
学園の中庭にて。
お任せ部と『血涙のガーゴイル』との死闘は、最終局面を迎えていた。
「はぁ……はぁ……! これでも食らえぇぇ!」
陽奈が最後の力を振り絞り、チューブ入りの強力研磨剤をタワシにぶちまける。
それは通販番組で「どんな汚れもイチコロ!」と謳われていた、業務用の最終兵器だ。
「必殺! シャイニング・ポリッシャー・フィニッシュ!!」
キュキュキュキュキュッ!!
陽奈の腕が高速振動し、銅像の顔面をミクロン単位で磨き上げる。
金剛も負けじと足元を磨く。
そして――。
「軍師くん! 浄化の水を!」
「了解」
俺はバケツの水を、頭上から豪快にぶっかけた。
ザパァァァン!!
水しぶきが舞い、泡と研磨剤が洗い流される。
赤いペンキの涙も、長年の汚れも、すべてが流れ落ちた。
雲間から月が顔を出し、その姿を照らし出す。
「……ぜぇ、ぜぇ……どうだ……!?」
陽奈が肩で息をしながら、顔を上げる。
そこに立っていたのは――。
ピカーーーーーッ!!
「「「うわっ、眩しっ!?」」」
俺たちは思わず手で目を覆った。
そこにいたのは、威厳ある深緑色をまとった創立者ではない。
まるで純金で作られた仏像か、あるいはパチンコ店の開店祝いのような、ド派手に輝く金ピカの銅像だった。
「……あれ?」
陽奈がポカンと口を開ける。
「なんか……色、変わってない?」
「……ああ。変わったな」
俺は冷静に分析した。
銅像というものは、経年劣化で表面が酸化し、緑青と呼ばれるサビに覆われて独特の青緑色になる。それこそが「歴史の重み」であり「威厳」なのだ。
だが、陽奈と金剛のバカ力と業務用研磨剤は、その歴史を完全に削り落とし、建立当時のピュアな銅の輝きを取り戻してしまったのだ。
「すげぇ……ピカピカだぜ。鏡みてぇだ」
金剛が覗き込むと、銅像の足に自分のリーゼントが映り込んでいる。
だが、どう見ても……。
「……なんか、威厳なくない?」
陽奈が恐る恐る呟く。
そう。ピカピカすぎて、重厚感がゼロなのだ。
まるで量産型のフィギュアか、成金趣味のオブジェにしか見えない。
創立者の顔も、心なしか「恥ずかしい……」と赤面しているように見える。
「ま、まあ、綺麗にはなっただろ。汚れは落ちた」
俺は苦しいフォローを入れた。
陽奈は「そ、そうだよね! 綺麗だもんね!」と自分に言い聞かせるように頷いた。
翌朝。
登校してきた生徒たちが、中庭を通るたびに悲鳴を上げていた。
「うわっ! なんだあれ!?」
「眩しっ! 目が、目がぁぁ!」
「え、銅像が金色になってる……?」
「うわー……なんか趣味悪っ」
「理事長、宝くじでも当たったのかな? 成金っぽくてダサくね?」
容赦ない罵倒の嵐。
指差して笑う者、スマホで写真を撮って「草」と投稿する者。
誰も「綺麗になった」とは言わない。「ダサい」「変だ」という感想一色だ。
その光景を、中庭の植え込みの陰から見つめる影があった。
「…………」
天道陽奈だ。
彼女は膝を抱え、地面に『の』の字を書きながら、ズズーンと沈み込んでいた。
「また、やっちゃった……」
彼女の目からハイライトが消えている。
「壁の次は……歴史を破壊しちゃった……。創立者、笑われてる……私のせいで……」
「……」
俺はかける言葉が見つからなかった。
確かに、あの輝きは予想外すぎた。
陽奈はフラフラと立ち上がり、亡霊のように呟いた。
「……私は勇者じゃない。文明を滅ぼす魔王だったんだ……」
ガーゴイル討伐戦。
結果:敵の殲滅には成功したが、創立者の威厳を犠牲にし、陽奈のメンタルは完全に崩壊した。




