表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/50

第37話 軍師の慰めと、次なる標的

 放課後の部室。

 そこには、どんよりとした雨雲のようなオーラが漂っていた。


「……私は勇者失格だ……ただの破壊神だ……」


 部屋の隅っこで、天道陽奈が体育座りをしている。

 膝に顔を埋め、ブツブツとネガティブな言葉を呪詛のように繰り返していた。

 自慢のポニーテールは重力に負けてダラリと垂れ下がり、まるで萎れた観葉植物のようだ。


「壁を直すつもりが……削り取っちゃった……。先生たち、困ってた……。私のせいで……」


 昨日の「ミミック討伐(壁破壊)事件」のショックは、予想以上に深刻だった。

 普段のポジティブさが嘘のように、彼女のメンタルは底値(ストップ安)を更新し続けている。

 クルミがオロオロしながら「あ、あの……元気出してくださいぃ……」と声をかけるが、陽奈の耳には届いていない。


 ……まったく。

 俺はため息をつき、彼女の隣にしゃがみ込んだ。

 ここでリーダーが潰れてもらっては困る。まだクエストは残っているのだ。


「……天道。顔を上げろ」

「ぐんしくん……。私、もうダメかも……。力の制御ができない……」

「気にするな。あれはお前のミスじゃない」


 俺は淡々と言った。


「あれは『バグ』だ」

「……え? バグ?」


 陽奈が少しだけ顔を上げる。


「そうだ。昨日の壁だが、汚れ()(背景)の『当たり判定』が重なっていたんだ。システム側の設定ミスだよ」

「……せってい、みす?」

「ああ。お前の攻撃力が高すぎたせいで、物理エンジンが誤作動を起こして、テクスチャ(塗装)ごと剥がれる処理になっちまったんだ。運営の設計が甘かっただけだ」


 俺はもっともらしい顔で、デタラメなゲーム理論を並べ立てた。

 普通なら「なわけあるか」と一蹴される言い訳だ。

 だが、単純な彼女には効果てきめんだった。


「そ、そうなんだ……。私のせいじゃなくて、バグのせいなんだ……?」

「そうだ。クソゲーにはよくある理不尽な挙動だ。プレイヤーが気に病む必要はない」


 陽奈の瞳に、少しだけ光が戻る。

 そこへ、空気を読んだ(?)金剛が、ドカッと足を踏み鳴らして近づいてきた。


「おう、そうだぜ部長。それに、次はもっと気楽にいける」

「……次?」

「第二のターゲット、『血涙のガーゴイル(銅像)』だ」


 金剛はニヤリと笑い、自分の拳をバシッと叩いた。


「あいつは石と青銅の塊だ。壁みてぇな柔な塗装じゃねえ。……つまり、どんだけ削っても『剥がれねぇ』ってことだ」

「……!」

「いくらでも力任せに磨けるぞ。削り放題だ」


 なんという脳筋理論。

 だが、その言葉は陽奈の心にクリティカルヒットしたらしい。


「き、金属なら……剥げない?」

「ああ。むしろ磨けば磨くほど輝くはずだ」

「そっか……。そうだよね! 金属だもんね!」


 陽奈がガバッと立ち上がった。

 垂れ下がっていたポニーテールが、ピョコンと上を向く。


「バグなら仕方ない! 次は金属相手なら、私のフルパワーでも大丈夫だね!」


 陽奈はパンパンと頬を叩き、無理やり笑顔を作った。


「よーし! リベンジだよ! 待ってろガーゴイル! 今度こそ完璧に討伐(おそうじ)してやるんだから!」


 いつもの元気な声が戻る。

 クルミも「よ、よかったですぅ!」と安堵し、金剛も満足げに頷く。


 だが。

 俺は見てしまった。

 拳を突き上げる陽奈の手が、微かに震えているのを。


(……まだ、怖がっているな)


 無理にテンションを上げているが、失敗の恐怖は消えていない。「また壊してしまうかもしれない」という不安が、その小さな背中に張り付いている。

 それでも前に進もうとする姿は立派だが……この危うさが、次の悲劇(オチ)を生まなければいいのだが。


 一抹の不安を抱えつつ、俺たちは夜の帳が下りるのを待って、中庭へと向かうことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ