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第30話 殺人バドミントンと、芝生の上の休憩

「ふぅー! 食べた食べた!」


 陽奈は満足げにお腹をさすると、すぐにリュックから何かを取り出した。

 ラケットが二本。バドミントンだ。


「さあ軍師くん! 食べた分だけ消費しないとね! 一戦やろうよ!」

「……おい。食後すぐに激しい運動をすると、脇腹が痛くなるデバフがかかるぞ」

「大丈夫! 軽くラリーするだけだから!」


 軽く。

 その言葉を信じた俺が馬鹿だった。


 俺たちは広場の芝生に移動し、距離を取って向かい合った。


「いくよー! サーブ!」


 陽奈が軽くシャトルを放り上げ、ラケットを振る。


 パァンッ!!

 乾いた破裂音と共に、シャトルが視界から消えた。


「は?」


 ヒュンッ!!

 風切り音が耳元を通過し、振り返ると遥か後方の地面にシャトルが突き刺さっていた。


「……天道。今の音はなんだ。拳銃か?」

「あ、ごめん! つい手首のスナップが効きすぎちゃって!」

「スナップで音速を超えるな」


 俺は冷や汗を流しながらラケットを構え直した。

 これは「バドミントン」ではない。「弾幕シューティングゲーム(リアル)」だ。


「次はちゃんとするから! ほらっ!」


 陽奈が再びサーブを打つ。今度は見える速度だ。

 俺はラケットを出し、なんとか打ち返す。

 ふわ~りと上がるシャトル。


 その瞬間、陽奈の目が「狩人の目」に変わった。


「チャーーンス!!」


 タタッ!

 彼女は目にも止まらぬ速さで落下点に入り、バネのように跳躍した。


 高い。滞空時間が長い。

 青空をバックに、太陽を背負った彼女が、ラケットを振りかぶる。


「必殺! メテオ・スマァァァッシュ!!」

「名前が物騒なんだよぉっ!!」


 ズドォォン!!


 俺は反射神経(運動能力F)では反応できないことを悟り、脳内CPUをフル回転させた。

 敵の筋肉の動き、風向き、そして「こいつなら俺の顔面を狙うはずがない」という信頼補正。


 予測演算の結果――着弾点は左足元!


「そこだっ!」


 俺は無様に地面に転がりながら、ラケットだけを突き出した。


 ガッ!

 奇跡のジャストミート。シャトルがひょろひょろと相手コートへ返る。


「うそっ!? 返した!?」

「ぜぇ……はぁ……! 見たか……これがゲーマーの『未来予知(予測)』だ……!」

「すごい! すごいよ軍師くん! じゃあ次は本気出すね!」

「出すな! 殺す気か!」


 そこからは、地獄のラリーだった。

 陽奈は縦横無尽に走り回り、アクロバティックな体勢から剛速球を放ってくる。

 俺は地面を這いずり回り、泥臭くシャトルを拾い続ける。


「たーのしーい!!」

「し、死ぬぅぅぅ!!」


 キャッキャと笑う陽奈と、断末魔を上げる俺。

 周囲の家族連れが、ドン引きした目でこちらを見ている気がするが、構っていられない。


 30分後。

 俺のスタミナゲージが完全に枯渇した。


「……もう、無理……」


 ドサッ。

 俺は芝生の上に大の字になって倒れ込んだ。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、肺が酸素を求めて喘いでいる。


「あはは! いい汗かいたねー!」


 陽奈も俺の隣にドサリと倒れ込んだ。

 彼女も息を弾ませてはいるが、その表情は晴れやかだ。バケモノめ。

 視界の端で、陽奈のポニーテールが草の上に広がっている。


「ゼェ……ゼェ……」

「はぁ……はぁ……」


 二人の荒い呼吸音が重なる。

 心臓がうるさい。運動のせいだけじゃない気がする。


 俺は首だけを横に向けた。

 すぐ隣に、陽奈の顔があった。

 汗で濡れた前髪が額に張り付いている。

 頬は運動の熱で赤く染まり、瞳は潤んでキラキラと輝いている。


 近い。

 手を伸ばせば、その熱に触れられそうな距離だ。


「……軍師くん」


 陽奈が俺を見て、ふにゃりと笑った。


「また、やろうね。……今度は、手加減するから」

「……ああ。……絶対だぞ」


 俺もつられて、小さく笑ってしまった。

 こんな無茶苦茶な休日も、悪くない。

 そう思った、その時だった。


 ポツッ。

 俺の頬に、冷たい雫が落ちた。


「……ん?」


 ポツ、ポツ、ポツ。

 アスファルトを叩くような音が近づいてくる。

 見上げれば、さっきまで晴れていた空に、いつの間にか分厚い灰色の雲が覆いかぶさっていた。


「……雨?」

「うそ、天気予報じゃ晴れだったのに!」


 ザァァァァァッ!!

 世界が一瞬で白く染まるほどの、土砂降りの雨。

 ゲリラ豪雨だ。


「わああっ! 冷たっ!?」

「逃げろ! 屋根があるところへ!」


 俺たちは弾かれたように起き上がり、荷物をひったくって走り出した。


 向かう先は、公園の向かいにあるショッピングモールの建物。

 ずぶ濡れになりながら走る俺たちの背中を、容赦のない雨粒が叩きつけていた。

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