第24話 乱入者(リアルヴィラン)と、勝利の焼肉パーティー
ステージ上のカオスな即興劇は、奇跡的にもクライマックスを迎えようとしていた。
『さあ、みんなでレッドを応援してくれ!』
俺のマイクパフォーマンスに合わせ、子供たちが「がんばれー!」と声を張り上げる。
天道陽奈が、汗で輝く笑顔でポーズを決める。
「みんなの声、届いたよ! 覚悟しろ、暗黒将軍!」
「ぬははは! 来い、小娘ぇ!」
金剛がマントを翻す。
予定では、ここで必殺の『ギャラクシー・キック』が決まって大団円だ。
俺がBGMのボリュームを上げようとした、その時。
「ウェーイ! 待った待ったぁー!」
場違いなハイテンションボイスと共に、客席の中央を割って、一人の男が乱入してきた。
派手なアロハシャツにサングラス、自撮り棒を持ったチャラ男だ。
「はいどうもー! 『迷惑系』の星、バズ・フライヤーことバズ男でーす! 今日はとある地方都市のヒーローショーをジャックしてみた動画、撮っちゃいまーす!」
男は自撮り棒でステージを映しながら、勝手に上がり込んできた。
完全な不審者だ。子供たちがポカンとしている。
「なんだこの茶番! 俺が真のラスボスだっつーの! ウェーイ!」
バズ男はズカズカと中央へ進み、あろうことかお姫様役のクルミの肩に馴れ馴れしく腕を回した。
「そこの可愛い子ちゃんも映って映って! 再生数稼ごうぜぇ!」
「ひぃっ!? や、やめてくださいぃ……!」
クルミが悲鳴を上げて縮こまる。
俺は頭を抱えた。最悪だ。質の悪い配信者に絡まれた。スタッフがつまみ出そうにも、カメラが回っていて手が出しにくい。
だが。
そんな「大人の事情」など、この勇者には通用しなかった。
「……そこの派手な人!」
陽奈だ。
彼女は男をビシッと指差し、真剣な顔で叫んだ。
「追加ボスか知らないけど、撮影禁止エリアだよ! マナー違反は許さない!」
(……こいつ、演出だと思ってやがる!)
陽奈の脳内では「迷惑系YouTuber=マナーの悪い敵キャラ」と変換されているらしい。
彼女は躊躇なく男との間合いを詰める。
「あぁ? なんだこのチビ。俺のチャンネル登録者数知ってんのか?」
「知らない! でも、女の子が嫌がってるでしょ! 離れて!」
陽奈の正論パンチ。
バズ男は苛立ったように舌打ちし、自撮り棒を振り上げた。
「うっせえな! 映す価値もねぇ雑魚は消えろ!」
ヒュンッ。
自撮り棒が陽奈を襲う。
パシィッ!
陽奈はそれを片手で軽く受け止めた。
AGIカンストの彼女にとって、素人の大振りなど止まって見えるのだ。
「なっ!?」
「物を粗末にするのもダメだよ!」
男がバランスを崩した瞬間、背後から巨大な影が覆いかぶさった。
金剛だ。
「……おい、三下」
ドスの利いた低音が、マイク無しで響く。
「配信ならよそでやれ。ここはガキの夢の場所だ」
ガシィッ!!
金剛の丸太のような腕が、男の襟首を猫のように掴み上げる。
バズ男の足が宙に浮いた。
「ひぃいいっ!? な、なんなんだコイツら!? 放送事故だろ!?」
「クルミ! 離れろ!」
俺の指示で、クルミが男から逃れようと走り出す。
だが、そこはドジっ子属性持ち。何もない平地で足がもつれた。
「ふえっ!?」
ドテッ!
彼女が金剛の足元で盛大に転ぶ。
「あッ、クルミ!?」
金剛が驚いて、思わず掴んでいた男の手を離してしまった。
支えを失ったバズ男は、そのまま重力に従って落下。
運悪く(あるいは運良く)、その顔面が――ふわりと舞い上がったクルミのドレスの中へと吸い込まれた。
「ぐわっ!? な、何も見えねぇ!?」
視界ジャック。
バズ男はパニックになり、顔を覆いながらフラフラと立ち上がった。
ステージ中央で無防備に棒立ちになる敵。
完璧なお膳立てだ。
『今だレッド! ラストシューティングだ!』
俺はインカムで叫んだ。
陽奈がニカッと笑い、高く跳躍した。
ポニーテールが旋風を巻き起こす。
「チャンネル登録解除ぉぉッ! ギャラクシー・スピン・キィィィック!!」
ドゴォォォォォン!!
強烈な回し蹴りが、無防備な男の胸板(に下げていたバッグ)にクリーンヒットした。
男は物理法則に従い、ワイヤーアクション顔負けの勢いで吹っ飛び、ステージ袖の段ボール山へと星になって消えた。
……静寂。
そして。
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こった。
子供たちが飛び跳ね、大人たちがスタンディングオベーションを送る。
バズ男が逃げ帰る中、俺たちは商店街会長から感謝状と共に、「本物のヒーロー」として称えられたのだった。
その夜。
『高級焼肉・牛角王』の個室にて。
「焼肉じゃあああっ!!」
「肉だ! 肉を寄越せぇ!」
勝利の宴が開催されていた。
金剛と陽奈は、まるで飢えた獣のようにカルビとロースを網に放り込んでいる。
クルミも「金剛くん、たくさん食べてくださいね……」と甲斐甲斐しく肉を焼いている(自分はサラダを食べている)。
「……食費の心配がないって、素晴らしいな」
俺は特上タン塩を噛み締めながら、至福の溜息をついた。
体中は打撲だらけだが、この美味さですべてチャラだ。
二時間の激闘を終え、店を出た頃には、夜風が心地よい時間になっていた。
満腹になった金剛とクルミは、「送っていく」と先に帰路についた。
残されたのは、俺と陽奈の二人。
「ふぅー! 食べた食べた! もう一歩も動けない!」
陽奈がお腹をさすりながら笑う。
街灯の下、彼女の横顔は満足げで、そしてどこか楽しげだ。
「……今日はありがとね、軍師くん。君がいなきゃ、ショーは失敗してたよ」
「まあな。俺の的確なフォローのおかげだ。感謝しろ」
「うん! 感謝してる!」
素直に認められると調子が狂う。
駅への道を並んで歩く。
ふと、陽奈が立ち止まり、俺の顔を覗き込んできた。
「ねえ、軍師くん」
「ん?」
「GW、まだ半分残ってるよね?」
彼女の上目遣い。
大きな瞳が、期待の色を宿して揺れている。
「まだ遊び足りないの。……付き合ってくれるよね?」
「……焼肉分は働いたはずだが」
「えー! ケチ! いいじゃん、次は戦いじゃなくてさ……もっと楽しいことしようよ!」
陽奈が俺の袖を掴んで引っ張る。
「……はぁ。分かったよ。ただし、次は平和なやつにしろよ」
「やった! 約束ね!」
夜の商店街を駆け出した陽奈が、くるりと振り返って叫んだ。
「絶対だからね! 破ったら、RINEでスタンプ爆撃するから!」
「……へいへい」
街灯の下、小さくなっていくポニーテールを見送り、俺は小さく笑った。
攻略難易度『極』のGW後半戦。
だが、次に訪れる騒がしい休日が、俺は少しだけ待ち遠しくなっていた。




