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第23話 阿鼻叫喚の幕開けと、舞台崩壊のヒーローショー

 「スマイル銀座商店街」特設ステージ。

 観客席は、GWの陽気に誘われた家族連れで満員御礼となっていた。

 最前列には、目を輝かせた幼稚園児たちが陣取っている。


『さあ、お待たせいたしました! 銀河戦士ギャラクシーレンジャーショー、開演です!』


 司会のお姉さんのアナウンスと共に、軽快なBGMが流れる。


 まずは悪役の登場パートだ。

 ステージ袖で、俺は金剛の背中を叩いた。


「行け、タンク。お前の『威圧感』で掴みはOKだ」

「……おう。手加減はできねぇが、やるしかねぇな」


 金剛は深く息を吐くと、黒マントを翻してステージ中央へと歩み出た。


 ドスン、ドスン。

 足音がマイクを通していないのに響いている気がする。


「……ふっふっふ。俺様は暗黒将軍ゾルダーク……」


 金剛が観客席を見下ろした。


 メイクなし。素顔だ。

 しかし、緊張で強張ったその表情は、極道のカチコミ前のような殺気を放っていた。

 190センチの巨体。金髪リーゼント。鋭すぎる眼光。

 それが、最前列の幼児と目が合った。


 一瞬の静寂。

 そして。


「ビェェェェェェェッ!! ママーッ!! 殺されるぅぅぅ!!」


 鼓膜をつんざくような絶叫。

 それを皮切りに、「怖いよぉ!」「帰るぅぅ!」と阿鼻叫喚のパニック連鎖が発生した。


「……ッ!?」


 金剛が動揺して後ずさる。

 その「傷ついた表情」が、逆光のせいで「獲物を前に舌なめずりする魔王」に見えてしまい、恐怖を加速させる。


(……効果(デバフ)ありすぎだろ!)


 俺はインカムで指示を飛ばした。


『クルミ、出ろ! 場の空気を変えるんだ!』

『は、はいぃっ……!』


 お姫様役のクルミが、小刻みに震えながらステージへよろめき出る。


 彼女は金剛の前に立つと、台本のセリフを言おうとして――真っ白になった。

 目の前には、泣き叫ぶ子供たちと、凶悪な顔で立ち尽くす金剛。

 極度の緊張が限界を超え、彼女の口から出たのは本心だった。


「あ、あわわ……い、命だけは……! お家に帰してぇ……!」


 ガチの命乞い。

 涙目で腰を抜かし、ガタガタと震えるその姿。

 演技ではない。生存本能からのSOSだ。


「……おい、あれ演技か? すげぇリアルだな」

「あの子、マジで怖がってないか?」


 保護者たちがざわめき始める。

 まずい。このままだと「児童虐待ショー」として通報される。


『天道! 今だ! 全部ぶっ壊していいから出てこい!』

『任せて! ヒーロー参上!』


 俺の指令と同時に、ステージ上手の書き割りが弾け飛んだ。


 ドォォォン!!


「待たせたな悪党! 正義の味方、ギャラクシーレンジャーとは私のことだぁッ!」


 天道陽奈が、ベニヤ板を蹴破って飛び出してきた。

 登場演出ではない。ただ単に出入り口を間違えて、壁をぶち抜いただけだ。

 背景の「お城の絵」がガラガラと崩れ落ちる。


「あ……」


 陽奈が固まる。

 舞台崩壊。放送事故だ。

 会場がシーンと静まり返る中、俺はとっさに舞台袖のマイクをジャックした。


『み、見ろ! レンジャーの凄まじい闘気が、空間を破壊して現れたのだ!』


 俺の必死の実況(アドリブ)

 それを聞いた子供たちが「す、すげぇ……!」と目を輝かせる。

 よし、誤魔化せた!


「さあ来い、戦闘員たち! 私が相手だ!」


 陽奈がポーズを決める。

 俺は「イーッ!」と奇声を上げながら、他のバイト戦闘員と共に飛び出した。


 ここからはアクションパートだ。


 陽奈の動きはキレキレだった。回し蹴り、正拳突き、そして重力を無視した三角飛び。

 だが、問題はその威力だ。


「ギャラクシー・パァァァンチ!!」

「ぐべぇッ!?」


 俺の腹部に、手加減なしの拳がめり込む。

 ウレタンのプロテクター越しでも内臓が揺れる衝撃。

 俺はその拳圧で派手に吹き飛び、マットの上を一回転して着地した。


(……受け身スキルが熟練していく……!)


 俺は痛みに耐えながら、すぐに立ち上がって再び突撃する。

 殴られる、飛ぶ、回る。殴られる、飛ぶ、回る。

 そのやられっぷりが妙に板についてきたのか、客席から笑いと拍手が起き始めた。


「がんばれー! 赤いのー!」

「戦闘員も負けるなー!」


 謎の一体感が生まれている。

 陽奈はノリノリで、ポニーテールをブンブン振り回しながらポーズを決める。

 金剛も開き直ったのか、「ぬははは! 効かぬわ!」とアドリブで岩(発泡スチロール)を持ち上げ、怪力をアピールする。


 カオスだ。

 台本なんてどこにもない。

 あるのは、暴走する身体能力と、必死のリカバリーのみ。


 だが、子供たちの目は釘付けだった。

 予定調和ではない、本物の「戦い」の熱量が、そこにはあったからだ。


 そして、物語はクライマックスへ。

 本来なら、ここでレンジャーが必殺技を放って終わるはずだった。

 だが、このショーには、まだ最後の「波乱」が残されていた。

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