第21話 GWの緊急依頼と、焼肉食べ放題の罠
「SOS! 商店街に来て!」
陽奈からのメッセージを受け、俺は走った。
学校から徒歩15分の距離にある「スマイル銀座商店街」。
GWということもあり、家族連れで賑わっていた。
その中央広場にある特設ステージの裏手へ駆けつけると、俺はとんでもない光景を目撃した。
「お願いします! 助けてください!」
商店街の会長(ハッピを着たおじさん)が、地面に額を擦り付けて土下座していたのだ。
その前には、困った顔の陽奈、腕を組んだ金剛、オロオロしているクルミが立っている。
「……何やってんだ、お前ら」
俺が声をかけると、陽奈がパァッと顔を輝かせた。
「あ、軍師くん! やっと来てくれた!」
「説明しろ。なんで商店街のトップに土下座されてる。あと、なんで金剛たちが先にいるんだ」
「俺らは近くにいたんだよ。天道の招集ですっ飛んできた」
金剛が答える。
「えっとね、会長さんが『ヒーローになってくれ』って!」
要約するとこうだ。
本日午後から開催予定の『ご当地ヒーローショー』。
その主役である劇団員たちが、昨夜の決起集会で食べた「生ガキ」に当たり、集団食中毒で全滅したらしい。
代役を探そうにも、GW中でどこも手一杯。
絶望していた会長の前に、たまたま通りかかった陽奈が声をかけ、俺たちを呼び集めた――というわけだ。
「無茶苦茶だろ。素人にスタントなんてできるわけない」
俺は即答で拒否した。
怪我でもしたら責任問題だ。リスク管理がなってない。
「ですよね……無理ですよね……」
会長が涙目で項垂れる。
彼は諦めたように懐から封筒を取り出し、震える手で差し出した。
「せめてものお詫びに……本来、劇団の方々にお渡しするはずだった『打ち上げ代』なのですが、ここまで来ていただいた足代として、これを……」
「なんですか?」
陽奈が封筒の中身を覗き込む。
次の瞬間、彼女の目がカッと見開かれた。
「こ、これは……『高級焼肉・牛角王』の……プレミアム食べ放題チケット(4名様分)!?」
その単語が出た瞬間、場の空気が変わった。
「……肉だと?」
金剛がピクリと反応した。
彼の好物は「肉」だ。それも質より量、量より質の「高級肉」には目がない。
「食べ放題……」
クルミがゴクリと喉を鳴らす。
彼女は金剛が食べる姿を見るのが好きらしい(餌付けする親鳥の心境か?)。
そして陽奈は、よだれを垂らしそうな顔で俺を見た。
「おい待て。いくらなんでも高すぎる。何もしてないのに受け取れるか」
俺が冷静にツッコミを入れると、陽奈もコクコクと頷いた。
「そ、そうだよね……タダじゃ貰えないよね……」
だが、彼女の瞳からは、肉への執着が消えていなかった。
彼女は震える声で、悪魔的(?)な論理を導き出した。
「で、でもさ……! 私たちがショーを成功させれば、このチケットを『報酬』として堂々と貰えるってことだよね!?」
陽奈がバッと俺を見る。
「ぐ、軍師くん……! 私、お肉食べたい! じゃなくて、子供たちの笑顔を守りたい!」
「本音が漏れてるぞ」
「だって! このままじゃショーが中止になっちゃうよ? 楽しみにしてる子供たちが可哀想じゃん!」
陽奈がステージの表を指差す。
そこには、ビニールシートに座って開演を待つ、無数の子供たちの姿があった。
キラキラした目で「ヒーローまだかなー」と話している。
「う……」
これは卑怯だ。
俺だって鬼じゃない。子供の純粋な期待を裏切り、さらに高級焼肉の権利まで放棄するのは、寝覚めが悪い。
「……やるか」
金剛がボキボキと指を鳴らした。
「俺は構わねぇぞ。……働かざる者食うべからずだ。肉のためなら、悪魔にでもなってやる」
「こ、金剛くんがやるなら……私も……!」
「やったー! 軍師くんもやるよね!?」
三対一。多数決は成立してしまった。
俺は天を仰いだ。
平穏な休日が、音を立てて崩れ去っていく。
「……はぁ。分かったよ。やるなら徹底的にやるぞ」
俺はパン! と両手で自分の頬を叩き、脳内のスイッチを『指揮官モード』へと切り替えた
演目は『銀河戦士ギャラクシーレンジャー』。
開演まで、残り二時間。
「軍師くん! 提案! 登場シーンだけど、屋根から飛び降りて着地と同時に爆発するのはどうかな!?」
「却下。予算と命が足りない」
「じゃあ、必殺技は『天道流・惑星破壊パンチ』で!」
「セットが壊れる。寸止めだ、寸止め」
「えーっ! 地味だよぉ! もっと派手にドカーンとやりたい!」
「文句を言うな。俺たちが目指すのは『子供の夢』を守ることであって、会場の破壊じゃない。……いいか、時間がないんだ」
俺はブーイングする陽奈を一瞥し、金剛とクルミも含めた全員に向かって鋭く指示を飛ばした。
「総員、スクランブル態勢だ! 台本を頭に叩き込め! リハーサルは一回勝負だぞ!」
「ラジャー!!」
こうして、お任せ部による「地獄の突貫公演」の幕が上がった。




