第20話 討伐準備と、連休初日のSOS
学園内に巣食う「三大モンスター(ただの汚れと植木)」の特定を終え、俺たちは部室へと帰還した。
窓の外はすでに茜色に染まっている。
陽奈はホワイトボードの前に立ち、カッカッカッ! と勢いよく文字を書き連ねた。
『お任せ部・第一次討伐遠征計画』
仰々しいタイトルだ。
その下に、ターゲットと必要な装備がリストアップされていく。
「まずは『嘆きのミミック』! 壁にへばりついた硬い殻を剥がすには、これが必要だよ!」
陽奈がドン! と机に置いたのは、用務員室から借りてきた金属製のスクレイパー。
「聖剣『エクスカリバー』!」
「……ただのヘラだな」
「次は『血涙のガーゴイル』! 石のボディを削るには、この打撃武器だ!」
続いて取り出したのは、硬い亀の子タワシと金属ブラシ。
「ミスリルの籠手!」
「……研磨用具だな」
「そして最後、『千手のトレント』! あの長い触手を断ち切るには、この長柄武器しかない!」
ジャキィン! と音を立てて伸ばしたのは、高枝切りバサミ。
「竜殺しのハルバード!」
「……完全に造園業者の装備だな」
俺は冷静にツッコミを入れるが、陽奈たちの耳には届かない。
金剛も「なるほど、これなら奴らの装甲を貫けるな……」と真剣な顔でタワシを握りしめているし、クルミも「わ、私、聖杯でお水を運びますっ!」とやる気満々だ。
ホワイトボードに描かれたのは、どう見ても「校内大掃除の工程表」なのだが、彼らの脳内では「魔王城攻略マップ」に変換されているらしい。
「ふふっ、完璧だね軍師くん!」
陽奈が満足げに笑い、俺の方を向いた。
夕陽に照らされたその笑顔は、屈託がなく、本当に楽しそうだ。
「これで学園の平和を守れるね! みんなが怖がらずに過ごせるようになるよ!」
その言葉に、俺は口を開きかけた皮肉を飲み込んだ。
動機はどうあれ、結果として学校が綺麗になり、生徒会長との約束も果たせるなら、文句はない。
それに、この勘違い勇者が笑顔なら、まあ、付き合ってやるのも悪くないか。
「……そうだな。作戦決行は、連休明けだ」
俺はスケジュールを確認した。
「明日からはゴールデンウィークだ。学校は休みに入る。決戦は連休明けの放課後とする」
「了解! それじゃあみんな、連休中はしっかり休養して、英気を養っておいてね!」
陽奈がビシッと敬礼する。
こうして、「三大モンスター討伐作戦」の準備は整った。
俺たちは「よい連休を!」と言い合い、それぞれの帰路についた。
――そして翌日。5月3日、憲法記念日。
世間が大型連休の行楽ムードに浮かれる中、俺、笹木慧は自室のベッドで惰眠を貪っていた。
「……ふぁ。最高だ」
学校に行かなくていい。
陽奈に振り回されることもない。
ただひたすらに、積みゲーを崩し、ログインボーナスを回収するだけの至福の時間。
俺はこの平穏を愛している。このまま最終日まで一歩も外に出ない自信がある。
ピロン♪
枕元のスマホが鳴った。
ゲームの通知か? 俺は寝ぼけ眼で画面を覗き込んだ。
表示されていたのは、メッセージアプリの通知。
送信者は――『勇者ヒナ』。
「…………嫌な予感しかしない」
俺の「危険察知スキル」が警報を鳴らす。
見なかったことにしようか。いや、既読をつけずに内容だけ確認するか。
迷っている間に、通知が連打される。
ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪
『軍師くん!』
『起きて!』
『緊急事態発生!』
『SOS! SOS!』
『今すぐ商店街に来て!! (土下座のスタンプ)』
「…………はぁ」
俺は深いため息をつき、スマホを放り投げた。
SOS。緊急事態。
あのトラブルメーカーがそう言うのだから、ロクなことじゃないに決まっている。
無視しようか。いや、あの暴走勇者のことだ。無視したら、何をしでかすか分からない。
俺は深くため息をつき、渋々着替えて家を出た。




