第18話 運動部の悲鳴と、血涙のガーゴイル
学食での「ミミック」発見(という名の勘違い)に続き、俺たちお任せ部は放課後のグラウンドへと足を運んだ。
夕日に照らされた校庭では、運動部が活気あふれる声を上げている。
「次は体力バカ……じゃなかった、運動部への聞き込みだよ!」
陽奈がグラウンドの土を踏みしめる。
ここなら、夜遅くまで練習に残っている生徒も多いはずだ。目撃情報は期待できる。
俺たちは、休憩中だった野球部の部員たちに声をかけた。
金剛が後ろに立っているだけで彼らは直立不動になったが、陽奈が「悩み事ないかなっ!?」と笑顔で聞くと、キャプテンらしき男子がおずおずと口を開いた。
「じ、実は……最近、夜練ができなくて困ってるんです」
「どうして?」
「……出るんですよ。中庭に」
キャプテンが声を潜め、辺りを警戒するようにキョロキョロと見回す。
「中庭にある、創立者・西園寺厳三郎先生の銅像……知ってますか?」
「うんうん、あのヒゲのおじいちゃんの像だよね」
「あいつが……夜な夜な歩き回ってるんです」
ゴクリ、と部員たちが唾を飲む。
「しかも、目からはドロリとした『血の涙』を流していて……目が合った生徒は、呪いで『石』にされるって噂で……!」
「……!!」
その瞬間。
陽奈とクルミが同時に息を呑んだ。
「い、いし……!?」
「せ、石化……ですかぁ……?」
二人はガバッと抱き合った。
ブルブルと震えながら、顔を見合わせる。
「ど、どうしようクルミちゃん! 石にされたら動けないよ! 一生そのまま雨ざらしだよぉ!」
「ふぇぇぇ……やだぁ……私ドジだから、石になって転んだら、粉々に割れちゃいますぅ……!」
「こ、怖いよぉぉ……!」
完全にパニック状態だ。
銅像が歩く、血の涙、石化。
怪談のフルコースに、陽奈のライフはもうゼロに近い。
陽奈がバッと振り返り、すがるような目で俺を見た。
「ね、ねえ軍師くん!」
「……なんだ」
「い、石が歩くってことは……幽霊じゃないよね!? これって魔法生物だよね!?」
必死だ。
「オバケではない」という確証を求めて、俺の言葉を待っている。
俺は眼鏡(ないけど)をクイッと上げる仕草をして、淡々と答えた。
「……そうだな。石像が動くといえば、『ガーゴイル』や『ゴーレム』の一種だろう」
「が、がーごいる……?」
「ああ。魔法で命を吹き込まれた石の番人だ。動力核を破壊しない限り動き続ける厄介な敵だ」
俺がもっともらしく解説すると、陽奈の表情が固まった。
数秒の思考。
そして――。
「……石、なんだよね?」
「ああ。材質は石、あるいは青銅だ」
「なんだ……ただの石かぁ!」
陽奈がパッとクルミを離し、安堵の息を吐いた。
「ビックリしたぁ。てっきり呪いかと思ったけど、動く石なら話は別だよ!」
彼女はニカッと笑い、自分の拳をバシバシと叩いた。
「私、空手部の体験入部で瓦割りやったことあるもん! 石なら私のパンチで砕けるよ!」
「……お前の拳は削岩機か」
極端な解釈で立ち直った部長に、俺は心の中でツッコミを入れる。
すると今度は、横で黙って聞いていた金剛が、ギリィ……と拳を握りしめた。
「……許せねぇな」
「金剛?」
「偉大なる創立者・西園寺先生の顔をして悪さをする偽物だぁ? ……俺たちの学び舎を築いた漢への冒涜だ」
金剛の背後に、ゴゴゴゴ……と怒りのオーラが立ち昇る。
こっちはこっちで、妙なスイッチが入ってしまったらしい。
「そのふざけたガーゴイルとやら……俺が粉砕してやる」
「おお! 金剛くんもやる気だね! よーし、二人でかち割っちゃおう!」
盛り上がる脳筋コンビ。
その様子を見て、怯えていた野球部員たちも「す、すげぇ……」「あいつら何者だ……?」と尊敬の眼差しを向けている。
(……いや、十中八九ただの赤いペンキのイタズラ書きだと思うが……)
俺の冷静な推測は、熱気に包まれた彼らには届かない。
まあいい。掃除用具としてタワシとブラシを用意しておけば、結果オーライだろう。
「ターゲット追加! 『血涙のガーゴイル』討伐!」
陽奈が高らかに宣言する。
こうして、ただの汚れにまみれた銅像は、お任せ部の第二討伐対象として認定されたのだった。




