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第17話 食堂のざわめきと、壁に潜む捕食者(ミミック)

 翌日の昼休み。

 俺たちお任せ部は、全校生徒の胃袋を満たす戦場――学生食堂へと乗り込んだ。


 狙いは一つ。生徒たちの「生の声(クエスト)」だ。


「よーし! みんな、手分けして悩み事を聞き出すよ!」


 陽奈が意気揚々と号令をかける。

 だが、作戦は開始5秒で暗礁に乗り上げた。


「あぁん?……ちょっといいか?」


 金剛が近くの男子生徒に声をかける。


「ひぃっ!? 財布ならありません! 許してください!」


 男子生徒は脱兎のごとく逃げ出し、その騒ぎで周囲の生徒たちもサーッと波が引くように席を立ち始めた。

 金剛の周囲だけ、ぽっかりと無人のドーナツ化現象が起きている。


「……おい金剛。お前の『威圧(アグロ)』が高すぎる。NPCが会話モードに入らないぞ」

「あぁん? 俺は普通に話しかけただけだぞ?」

「お前の『普通』は一般人の『恐喝』だ。……ここは、下がってろ」


 俺は金剛を柱の陰に待機させた。

 やはり、ここはコミュニケーション特化型のユニットを使うしかない。


「天道、夢咲。お前たちが行け」

「了解! 任せて!」

「は、はい……がんばります……」


 陽奈のコミュ力と、クルミの無害な可愛さ(癒やしオーラ)。この二人が組めば警戒されることはない。

 二人は窓際の女子グループへと接近し、自然な流れで会話に混ざることに成功した。

 俺は少し離れた位置で、その会話に耳をそばだてた。


「えっ、ホントに!? 怖いなぁそれ」


 陽奈が上手に話を盛り上げている。

 すると、一人の女子生徒が声を潜めて言った。


「本当なんだって。……渡り廊下の壁、見たことある?」

「渡り廊下?」

「そう。あそこの壁、夜になると……無数の『黒い手形』が浮き出てくるんだって」


 お。早速怪しい情報だ。


「しかもね、壁の中から『うぅぅ……』って怨念の声が聞こえて……通りかかった人を壁の中に引きずり込むんだって。通称『嘆きの壁』……」


 女子生徒が怖がらせようと、おどろおどろしい口調で語る。

 その瞬間。


「ひぃっ!?」


 陽奈が素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 ガタン! と椅子を鳴らして立ち上がり、顔面蒼白で後ずさる。


「て、手形……!? ひ、引きずり込む……!?」

「え、天道さん? どうしたの?」

「い、いや、なんでもない! あは、あははは……!」


 陽奈は引きつった笑いを浮かべ、逃げるように俺の元へ戻ってきた。


 ガシッ!

 俺の制服の袖が、ものすごい力で握りしめられる。

 見ると、陽奈は小動物のようにガタガタと震えていた。


「ぐ、軍師くん……聞いた……?」

「ああ。壁に手形、か」

「む、無理だよぉ……! 壁から手が出るなんて……それって、霊界への入り口ってことでしょ!? ぜったい呪われちゃうやつだよぉ!」


 陽奈が涙目で俺を見上げてくる。

 ポニーテールが怯えた犬の尻尾のように垂れ下がっている。

 やはり、オバケ系にはめっぽう弱いらしい。

 だが、ここで引くわけにはいかない。俺は冷静に切り返した。


「……落ち着け、天道。相手はオバケじゃない」

「うそだぁ! 壁から手だよ!? オバケ以外に何がいるのさ!」

「この世の現象は全てプログラムだ。つまり、それは『モンスター』だ」

「モ、モンスター……?」


 陽奈が縋るような目で俺の袖を引っ張る。


「ぐ、軍師くん……。モンスターって……私、ゲーム詳しくないからわかんないよぉ……」

「いいか? 例えば『ウォール・ミミック』という敵がいる」

「み、みみっく……?」

「ああ。壁に擬態して、獲物を待ち伏せする生物だ。ヤドカリみたいなものだと思っていい」

「やどかり……?」


 陽奈がキョトンとする。俺は畳み掛けた。


「つまり、壁に見えるのはただの『殻』だ。中には実体のある本体が隠れている」

「じ、実体があるってことは……」

「こちらの物理攻撃(パンチ)が通るってことだ」

「…………!」


 その言葉を聞いた瞬間。

 陽奈の瞳孔が開き、恐怖の色が急速に消え失せた。


「えっ、叩けるの!?」

「ああ。殻をひっぺがして、中身を叩けば倒せる」

「なーんだ! ミミックかぁ!」


 バシッ! と自分の頬を叩き、陽奈が完全復活する。

 さっきまでの涙目はどこへやら、彼女はプンプンと怒ったように拳を握りしめた。


「もう! こっそり隠れて待ち伏せなんてズルいよ! みんなを怖がらせる悪いモンスターは、私がお仕置きしちゃうからね!」

「おお、さすが部長! 頼もしいな(棒読み)」


 ……まあ、十中八九ただの汚れだが。

 恐怖を克服し、やる気になっているならそれでいい。


「よし! ターゲット確認(ロックオン)! 『嘆きの壁』ミミック討伐だよ!」


 陽奈が拳を突き上げる。


 こうして、ただの壁のシミは、お任せ部の第一討伐対象として認定されたのだった。

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