第16話 生徒会からの通達(クエスト)と、作戦会議の迷走
週明けの月曜日。放課後。
俺たち『お任せ部』の部室に、招かれざる客が現れた。
コン、コン。
礼儀正しいノックと共に現れたのは、黒縁メガネをかけた真面目そうな男子生徒。
生徒会副会長、東城寺だ。
彼は入室するなり、メガネのブリッジを中指でクイッと押し上げ、事務的な口調で告げた。
「失礼します。本日は生徒会長からの伝言を伝えに来ました」
部室の空気がピリつく。
陽奈が「うっ……」と身構え、金剛が「あぁん?」と眉をひそめ、クルミが彼の背後に隠れる。
「『お任せ部』認可から一週間。……現時点での実績はゼロ。活動報告書の提出もなし」
副会長は手元のタブレットを淡々と読み上げる。
「約束の期限まで、あと3週間です。それまでに『学園への明確な貢献』が認められない場合、即刻廃部となります。……以上です」
一礼し、踵を返す副会長。
去り際に一度だけ、俺の方をチラリと見た気がしたが、彼はそのまま無言で出て行った。
パタン、と扉が閉まる。
数秒の沈黙の後。
「やーばーいー!! 忘れてたぁぁぁっ!!」
陽奈が頭を抱えて絶叫した。
ポニーテールが落雷を受けたように逆立っている。
「ど、どうしよう軍師くん! 廃部だよ!? 活動停止だよ!? 私の銅像計画が白紙になっちゃう!」
「自業自得だ。先週は遊んでばっかりだったからな」
「うぅ……反論できない……!」
陽奈は涙目でホワイトボードの前に飛び出し、マジックペンをひっ掴んだ。
「こ、こうなったら緊急作戦会議だよ! 一発逆転のド派手な実績を作らなきゃ! みんな、アイデア出して!」
そう言って彼女がボードに書き殴り始めたのは、迷走そのものだった。
『案①:校庭に巨大ピラミッドを建設してパワースポットにする』
「却下だ。俺たちは土建屋じゃない。予算は誰が出すんだ」
『案②:全校生徒参加の24時間耐久強制鬼ごっこ(私が鬼)』
「却下だ。ただのテロ行為だ。死人が出る」
『案③:私が全校生徒の靴下を手洗いする』
「却下だ。需要がないし、お前の手が死ぬ」
陽奈が「ええーっ!?」と不満げに声を上げる。
すると、腕組みをしていた金剛が口を開いた。
「なら、俺が校門に立って、登校する生徒全員に『笑顔で挨拶』を強要するってのはどうだ? 平和になるぜ?」
「却下だ。お前の笑顔は『挨拶』じゃなくて『威嚇』だ。遅刻者が激増する」
「……あぁん?」
金剛がピキッと反応するが事実だ。
最後に、クルミがおずおずと手を挙げた。
「あ、あの……お花で冠を作って、みんなに配るのはどうですか……?」
「……可愛いが、実績としては弱すぎる。却下だ」
俺はため息をつき、パイプ椅子から立ち上がった。
このままでは、実績を作る前に学園を混乱に陥れて廃部になる未来しか見えない。
「……貸せ、天道。お前らの方針は根本的に間違っている」
俺は陽奈からペンを取り上げ、ボードのカオスな文字を全て消した。
そして、中央に大きく一言、書き記した。
『生徒の不満を解消する』
「……バグ?」
陽奈がキョトンとして首を傾げる。
「そうだ。あの生徒会長が評価するのは、『目に見える秩序の回復』だ。ピラミッド建設なんて派手なイベントじゃなくて、地道なトラブルシューティングこそが最短の攻略ルートなんだよ」
俺はペン先でボードを叩いた。
「『困っていること』『直してほしいこと』。それを解決すれば、文句なしの貢献になる」
「なるほど! さすが軍師くん!」
陽奈がポンと手を叩く。
「でも、依頼なんて来てないよ? 目安箱も空っぽだし」
「依頼は待っていても発生しない。自分から受注しに行くんだ」
「受注しにいく……?」
「RPGの基本だろ。『街の人に話しかける』だ」
俺は不敵に笑い、窓の外を指差した。
「情報の宝庫はどこだ? 全校生徒が集まり、噂話が飛び交う場所――」
陽奈がハッとして、目を輝かせた。
「――学食!」
「正解だ。昼休みの学食に突撃して、生徒たちの『悩み事』を聞き出す。足で稼ぐぞ」
「おーっ! 聞き込み調査だね! なんか探偵みたいでカッコいい!」
陽奈のポニーテールが、ご機嫌にブンブンと揺れる。
単純な部長で助かる。
俺たちは荷物をまとめ、部室を飛び出した。
「行くよみんな! クエスト・スタートだー!」
こうして、俺たちお任せ部は学園の雑踏へと繰り出した。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
そこで待ち受けているのが、陽奈の最も苦手とする『怪談』という名のクエストだということを。




