表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/50

第11話 結成! お任せ部と、混沌の申請書

 放課後の旧校舎。

 『お任せ部(仮)』の部室に、奇妙な光景が広がっていた。


 まず、教卓の前で仁王立ちする、ポニーテールの少女――部長、天道陽奈。

 窓際の席で死んだ魚のような目をしている、俺――平部員(兼軍師)、笹木慧。


 そして。


「……おい。狭ぇよ、この椅子」


 パイプ椅子が悲鳴を上げんばかりの巨体を縮こまらせて座っている、金髪リーゼントの大男――金剛厳夫。

 その巨体の背後に隠れるようにして、クマのポシェットを抱きしめて震えている小柄な少女――夢咲クルミ。


「うぅ……こ、金剛くん、大きくて壁みたい……安心する……」

「……お前なぁ、俺を遮蔽物(バリケード)扱いすんじゃねぇよ」


 金剛は文句を言いつつも、背中に張り付くクルミを邪険に払い除けたりはしない。

 なんだこの構図。「野獣と小動物」か。意外と相性がいいな、この二人。


 俺はスマホのメモ帳を開き、パーティー編成画面(脳内)を更新した。


 【お任せ部 現在のメンバー】

 ・勇者(リーダー):天道陽奈(火力SS、知力E)

 ・軍師(参謀):笹木慧(運A、やる気F)

 ・重戦士(タンク):金剛厳夫(防御SS、隠れ乙女)

 ・魔法少女(ヒーラー):夢咲クルミ(癒やしSS、メンタルE)


「……バランスは悪くない。制御できれば、だが」


 俺が独り言ちると、陽奈がバン! と黒板を叩いた。


「みんな、よく集まってくれたね! これでお任せ部は部員四名! 正式な部活としての申請条件をクリアだよ!」

「おう。じゃあ俺は帰って『もふネコ』のイベントやっていいか?」

「だ、だいじょうぶかな……私なんかがいて……」


 自由すぎる部員たちを無視し、陽奈は拳を突き上げた。


「これで私たちの野望――学園の英雄になり、銅像を建てる計画の第一歩が踏み出せるわ! 見て、これが完成予想図だよ!」


 陽奈はチョークを手に取り、黒板に凄まじい勢いで「何か」を描き始めた。

 数秒後。そこには、棒人間が校舎を踏み潰し、空に向かって何か(剣?)を掲げている、地獄のような絵が完成した。


「……天道。それは英雄の像か? それとも破壊神の降臨図か?」

「えっ? 私だよ? みんなを守ってる姿!」

「ヒッ……! こ、怖い……学校を、壊してる……」

「……前衛的だな。ピ◯ソかテメェは」


 クルミが震え上がり、金剛がドン引きする中、陽奈は満足げに鼻を鳴らした。


「まあ、芸術の話は置いておいて! まずは生徒会に申請書を叩きつけるよ! でもその前に……重要なことを決めなきゃ」

「なんだ?」

「部活の『正式名称』だよ! 『お任せ部(仮)』のままじゃカッコつかないでしょ!」


 陽奈の瞳がキラキラと輝く。嫌な予感がする。


「私にいい案があるの! 『銀河(ギャラクシー・)最強(レスキュー・)救助隊(フォース)』!」

「却下だ。SFアニメか」


「じゃあ俺は『もふもふ愛好会』がいい」

「却下だ。ただの趣味だろ」


「あ、あの……『パンジーぐみ』とか……どうかな……」

「幼稚園か。却下だ」


 俺は全員の意見を秒速で切り捨て、申請書の『部名』欄にペンを走らせた。


「『お任せ部』。これでいい。分かりやすいし、これ以上変な名前にして生徒会に目をつけられたくない」

「えーっ! 地味だよ軍師くん!」

「文句を言うな。それより問題はこっちだ。『活動目的』」


 一番重要な項目が空白だ。

 陽奈はニカッと笑い、再びチョークを持った。


「ここをみんなで埋めるの! さあ、熱い想いをぶつけて!」

「俺はパスだ。面倒くさい」

「ダメ! 軍師くんは書記ね! はい、金剛くんから!」


 陽奈に指名され、金剛が腕組みをして唸った。


「あぁん? 活動目的だぁ? ……そうだな」


 彼はチラリと背後のクルミ(と、自分の胸ポケットのスマホ)を見て、ボソッと言った。


「……『小さくて可愛い生き物の保護と育成』……とかか?」

「却下だ。園芸部か手芸部に行け。あとお前の見た目でそれを書くと、警察が動くぞ」


 俺が即答すると、金剛は「チッ」と舌打ちしてそっぽを向いた。

 次はクルミだ。


「えっ、わ、私!? えっと、えっと……」


 クルミは涙目になりながら、震える手で黒板の隅っこに小さな文字を書いた。


『ごめんなさい』


「謝罪文じゃねぇか!」

「ふぇぇ!? ご、ごめんなさい……!」


 だめだ。話が進まない。

 陽奈が「もう! みんな向上心がないなぁ!」と胸を張り、黒板の真ん中にデカデカと書き殴った。


『世界平和と、私の銅像建設』


「却下だ。生徒会に喧嘩を売る気か」


 俺はため息をつき、手元の申請書を見た。

 陽奈が興奮して握りしめたせいで端がシワシワになり、クルミの涙が落ちて少し滲み、金剛が指で押さえた場所に穴が空きかけている。


 提出前からボロボロだ。

 このままでは申請書が通るどころか、全員生徒指導室行きだ。

 俺はゲーマーとしての経験を活かし、「運営(生徒会)が好みそうな無難なテキスト」を生成した。


『本部は、生徒間の相互扶助を目的とし、清掃活動やボランティアを通じて、健全な学園生活の維持に貢献するものとする』


「……おーっ! なんかそれっぽい!」

「軍師、お前スラスラと嘘が出てくんな……」

「嘘じゃない。建前(オブラート)だ」


 俺はシワを手のひらで必死に伸ばしながら記入を済ませ、立ち上がった。


「よし、書類は完成だ。これを持って生徒会室に行くぞ」

「いざ、出陣だね! レイドバトル開始ぃ!」


 陽奈が先頭を切って部室を飛び出す。

 金剛が重い腰を上げ、クルミがその背中に隠れながら続く。

 俺は最後に部室の鍵を閉め、覚悟を決めた。


 これから向かう場所は、この学園のルールを司る中枢、生徒会室。

 そこには、俺たちのような「バグキャラ」を何より嫌う、ラスボスがいるという噂だ。


「……まったく。セーブポイントが欲しいな」

 俺のぼやきは、廊下の喧騒にかき消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ