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次の日到着すると、集落の雰囲気がなんか変だった。浮ついているというのかざわめいているというのか、わたしたちの姿を見つけた住民が安心した顔をして走って近づいてくる。
「トーコ様、リンコ様、ヨーコ様!!よく来てくださいました!良かった。」
「えー。今日はまだ週末じゃないから明日も行くよって言ってたよ。今日は使わない座布団と絨毯持ってきたの。これで集会場の上敷きの上で本を読んでもお尻が冷たくならないよ。」
「わたしも昔キルトで作ったマットを持ってきました。作るだけ作って使っていなかったから勿体ないからね。」
「いつもありがとうございます!さぁ集会場へどうぞ。」
いつものように集会場へ入ると、なんか圧がある。見回してみると、こたつに煌びやかな人が座って本を読んでいる。めちゃくちゃ違和感。
バードさんが走ってその煌びやかな人の背後の人に声掛けしている。背後の人から煌びやかな人へ耳打ちしている。
煌びやかな人がこっち見た!
めちゃくちゃ緊張する。これは偉い人だ。ちょっとオーラが違う。
わたしと洋子がおろおろしだすが、凛子は修羅場をいくつも超えてきた猛者だ。経験数が違う。わたしたちの前に一歩出て待ち伏せる。
「伝説の三魔女殿。わたしはこの国の王太子、ユーリウス・オーバリと申す。お初にお目にかかれて光栄でございます。」
「私たちは魔法が使えません。伝説の三魔女かどうかもわかりません。還暦のただのおばちゃんで、透子と洋子と私凛子です。」
「そうですか・・・。でも、この集落から奇跡は起きている。それは確かだ。温かい古着、たくさんの野菜、鶏、布団にこたつに火鉢、“りばあし”に“ゆきがっせん”、本に“えいが”というもの、冬は寒いものという固定観念しか持てなかったわたしに、冬にもいろいろ楽しめるものを提供していることを知った。寒い夜長に遊べる“しばあし”や“えいが”にぜんぜん知らなかった物語の本、素晴らしい。ほんと素晴らしい異文化の出会いだ。“えいが”はもう一度見たいと思いました。」
「映画ですか。見ることできますよ。ポータブル充電器持ってきましたから、昨日みんな楽しめているようだったので、続き持ってきました。次もいいですよ。」
「な、何!続きがあるのか。是非見たい。」
「で、殿下!視察は良いのですか!」
「“えいが”も視察の一部であろう。是非、今、すぐにでも。」
王太子殿下の無茶ぶりもあって、映画鑑賞をすぐにするよと集落に声掛けすると、仕事中の人もわらわらと集まってくる。みんな昨日2回見て、今日も観るとか大丈夫なんだろうか。隣の集落の職人チームも混ざっている。いいのか、技術を学びにきたんじゃないのか?
今日は急遽だったので、ポップコーンはない。みんな映画観ながら食べなかったしね。
上映開始。例の映画はシリーズ4作あるそうだ。凛子はイケオジが大好きなので、全部持っているそうだ。何故この映画のチョイスだったのかよくわからないけど、大人から子どもまでわくわくどきどきできる冒険活劇は、剣と魔法が実際にある異世界でも通用するということだろうか。みんな楽しんでいるからいいか。
“是非彼を王宮で雇いたい・・・”とか王太子殿下がぶつぶつ呟かれていますが、主人公は、現実にはいませんから、それは物語ですからー。あとで必死にそう説明することになるとは。
映画とは作り物の世界であるということをわかってもらってやっと納得してもらった。でも、みんな物凄く興奮して楽しそうだった。
王太子殿下は、集落の職人が頑張って作って出来たばかりのこたつと火鉢と湯たんぽとリバーシを持って帰り、雪合戦を王都でもやってみると断言された。何冊か本も持って帰りたいとおっしゃるので、集落のみんなの了解を得て借用した。何故か父が好きだった剣客シリーズをうきうきと抱きかかえておられる。わたしは剣客シリーズ苦手なんで、持ってきたんだけどね。剣が日常にある世界ならば身近に感じられるのかも。凛子は残っていた販促グッズも渡していた。雪合戦するなら賞品にしてねと。
王太子殿下には“是非王都でも映画を上映して欲しい”と強く要求された。王都まで馬車で一日かかる。そうなると、お泊りになる。一人暮らしのわたしと凛子は平気だが、家族持ちの洋子は急に外泊はできない。往復で二日かかるし、向こうで上映だと一日取ることになれば、三泊四日だ。洋子の家族には三人で旅行に行くっていうことにしないと無理だな。
三人で計画を立てよう。明日は土曜日、洋子はわたしたちが定年退職して平日会えるようになったら、基本土日は家にいるようになった。土日は旦那さんと勇輝くんがお休みだからね。平日毎日こっちに来ているだけでも凄いよね。洋子は旅行に絶対行きたいから、家族の承諾取ってくると息巻いていた。わたしたちも王都に行くなら洋子が一緒の方がいい。説得できたら一緒に行こう。楽しみに待っているね。




