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満月ロード  作者: 琴哉
第1章
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第9話


 

 

「シレーナ。知らなかったの?」

「誰も教えてくれなかっただろう」

「じゃあなんで…」

「ん?」

「いや」

 

 次の日、目が覚めて次の街へ足を進めていると、夜中に話していた宝石の話になった。

 魔王である俺は、既に知っているものだと思っていたのだろう。呆れたような顔をした後、何かを思い出したかのように、アマシュリは何かを言いかけたが、何も気づいていない様子の俺を見た後、口を閉ざしてしまった。

 シェイルがそのようなものを持っていたのに。と言いたかったのだろうか。

 シェイルなら持っていても教えてくれなさそうだし、あり得る。


(そういえば、宝石といえば…)

 

 宝石。ではないとは思うが、父から譲り受けたネックレスも、同じようなものなのだろうか。

 

「そういえば、アマシュリなら知っているか? 人魚の涙」

「あ、うん。噂には…」

「人魚の涙? 何だ?」

 

 はじめて聞いた言葉に、俺は首をかしげながらルーフォンを見る。

 ちらりとアマシュリのほうを見ると、少しだけ気まずそうにしている。話していたから聞いたのだが、聞いてはいけないものだったのだろうか? それとも、ただ馬鹿にされるぞという忠告だったのか。


「まぁ、そんなこったろうとは思ったよ。宝石の中でも最上級の物だ。身につけているだけで、強力な力を得るって」

「すっげぇっ! じゃあ、ほんの小さな魔術でも、威力がつえぇってこと?」

「そーいうこと。ただし、扱うのが難しいっていうのと、そう簡単には見つけれないって話」

「へぇ…どういうところでとれるんだ!?」

「人魚が死に際に流す涙がそうなんだが、人魚自体本当にいるのかも危うい上、争いを好まない癖に、人間よりも魔物に懐きやすいから、魔物の領域に位置する。っていう言い伝え。宝石がほしいがために魔物の土地に行く勇気のある奴がいないからこそ、貴重で言い伝えにしかならないってわけ。噂では、魔王が持っているという話もあるからこそ、ただの言い伝えなんじゃないかってあきらめてるけどな」

「魔王が…」

 

 噂だとしても、魔王が持っている。

 それでなおかつ貴重。

 手に入れたら莫大の力を得る。

 一度だけ不思議に思ったことがある。魔王になる際に、魔物が狙ったもの。それは俺が所持している、父からの形見。これさえ手に入れば、強い力を得るからと、狙ってくる魔物がいたとしてもおかしくはない。

 どうして形見がそんなにほしがるのか不思議になっていたが、これが“人魚の涙”といわれているものであれば、辻褄が合う。 

 それに、噂だとしても魔王が持っているとなれば、これくらいしかない。

 黙り込んでしまった俺に、アマシュリはテレパシーを送ってきた。


(魔王…? どうなされました?)

(…アマシュリ。もしかして、俺が持ってるこの形見って…)

(…)

(アマシュリ! 知ってるんだろう?)

(そうです。俗に言う“人魚の涙”です)

 

 これが。魔王の証。

 見つかってはいけない。

 噂というものは、先入観にもなる。

 俺が持っていたら、魔王だと疑われかねない。もしくは、結局噂は噂。こんなガキが持っていて、“人魚の涙”と知らずだとすれば、見つからなくてもおかしくはない。どちらかだろう。

 

(アマシュリ、俺ってもしかして)

(…王?)

(俺って…すげぇっ?)

(は? まぁ、持ってる時点で貴重ですからね)

(使いこなせれば最強じゃん! 魔王殺せんじゃん!?)

(いや、シレーナ。だんだん勇者化してきてますけど、魔王はあなたですからね!? 自分を殺すことなんて、人魚の涙がなくても簡単でしょうが。何を言い出すんですか)

(だから、魔王を適当な魔物に仕立て上げて、俺が魔王さっさと殺せば、みんなが納得するんじゃねぇかって。そんで、魔王を殺したから、魔王の座は俺が頂く。そんでもって、共存してみましょ。なんて言ってみろ。なんか、認められた気が…)

(馬鹿ですか…)

(ひどっ!) 

 

「おい」

「あっ?」

 

 アマシュリと会話テレパシーをしていると、ルーフォンが、不思議そうな顔で見ていた。


「いきなり黙り込んで、何を考えてる」

「いやー。その“人魚の涙”さえ手に入れられれば、魔王簡単に殺せそうだなって」


 嘘は言っていない。

 手に入れている。という現状を隠しただけであって、この旅の最終目的は“魔王討伐”なのだから、そういう思考になったっておかしくないだろう。


「その“人魚の涙”が魔王所持疑惑あるんだって」

「奪えばいい。もしくは、それ一個しかないわけじゃねぇだろ? 別個の物を見つければいい」

「簡単に言うな…」

 

 

 

 

 

 


 

 

(魔王。ご連絡です)

 

 今日も魔物を数匹潰しながらも、先へと進み、日が真上まで来ていた。丁度昼ごろだろう。少しおなかがすいたなと思いながらも、ボーっと歩いていると、いきなりシェイルから通信テレパシーが入った。

 一瞬足が止まりかけたが、気にせず足は進める。


(どうした?)

(ヴィンスが感じたのですが、遠くの方から魔物が数匹城へ向かってきてます)

(へぇ。なに? 危険な気でも感じた?)

(はい。戦闘態勢に入っているみたいだと。魔王。城にお戻り願います)

(えー…精神だけでもいい?)

(構いません)


 ただ、何かの報告だけかと思っていたが、敵意を感じてしまえば、シェイルは戦闘に入るだろう。ということは、ボーっとしているコピーだけでは、いろいろ不便だということだ。

 数匹と言っていたが、はっきりと何匹か気になるところだ。

 足をすっと止め、子供が歩くのに疲れたかのようにしゃがみこみ、振り向いたアマシュリに上目づかいで見つめる。


「どうかしましたか?」

「眠い…疲れた。もう歩きたくない」

「だからちゃんと寝ておけといっただろう」

「寝たもん。ちょっとだけ」


 頬をふくらまし、ルーフォンの冷たい一言に目を伏せる。

 拗ねたように、地面に人差し指で8の字を書き続ける。そのウザったい雰囲気に、アマシュリが先にため息をつく。


「じゃあ、少し休みますか。ずっと歩きっぱなしでしたし」


 すぐ近くの木に寄りかかり、座るアマシュリ。

 仕方がないなと、ルーフォンもアマシュリの隣の木に立ったまま寄りかかる。

 やったと顔を輝かせながら、アマシュリの隣に座り、膝の上に頭を乗せて横になる。


「ちょっと甘えすぎですよ」

「いいからいいから」


(すまない。魔王の城に敵意をもった魔物が数匹近付いてきてるみたいなんだ)

(えっ…。でも、シェイルだけでも十分じゃ?)

(言ってなかったんだが、魔王の間に俺のコピーを作っておいたんだ)

(じゃあ、そちらに精神を持っていくつもりで?)

(そういうこと。収まるまで向こうに精神飛ばしてるから、俺の警護よろしく)

(早めに帰ってきてくださいよ)

(まかせろ)

 

 

 

 

 

 

 


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