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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第35話

「壊されてしまいましたか」


 楽しそうに微笑むシェイル。

 透明な地を蹴り、飛びつこうとした瞬間、足元にあったはずの謎の壁が消え、そのまま真下へと落ちていく。さすがに翼を生やすほどの魔力は戻っていない。しかも落とされたのは俺だけではなく、シェイル以外すべて。

 リベリオとリルはすぐさま翼を生やし、体勢を整える。リベリオがこちらに向かってくるのを確認したリルは、シュンリンのほうへと飛び、身体を支える。拾われた俺の体を、リベリオはゆっくりと地面のほうへと降りていく。一方リルは、シュンリンに言われたのか、シェイルのほうへと向かって飛んでいく。

 もうすでに壁はない。シェイルも翼を生やし、見下すように浮遊しているだけだった。

 少し距離を取り、シェイルと対峙するシュンリンとリル。先ほどからシュンリンは自ら飛ぼうとはしない。嫌な予感がする。少しだけ胸がざわつき、飛び立とうとしないリベリオの腕をつかむ。


「さっきからシュンリン飛ばないけど」

「魔力の温存とは言っていたが」

「…たぶん、そろそろシュンリン限界だ」

「なんだと」

「戦闘に長けているのかもしれないが、城に入ってから争いに魔力を使用してるところをそんなに見てない。ほとんど城に居ればヴィンスやリベリオ、シェイルがいるからな。それに序盤でシュンリンは結構魔力を使ってる。そりゃリベリオ達もそうだけど、もしかしたら元がそんなに…。俺たちをどうやって見つけた?」

「シュンリンが全方位に電撃を飛ばした…。もしかしてそれで結構な魔力を使ってるのか」

「たぶん。超音波と同じ原理だろう。どこまで飛んで、どこで止まったかで配置等を確認したんだろう」


 閉じ込められているときから、シュンリンは魔法を使っているところをそんなに見ていない。ルーフォンが落ちるときですら、リベリオを引っ張り、突き落として助けに行かせた位だ。先に気付いたのであれば、飛んでいってもよかったようなものだ。しかしそれをしなかった。


(翼を生やす魔力すら惜しいのか)


 掴んでいた腕に力を入れて引っ張り、シュンリンの元へと飛ばすように命令する。少しためらう様子もあるが、腰に手をやり、一本の剣を取り出す。


「それは、ルーフォンの」

「渡してくれと」

「ああ」


 受け取ると、リベリオが背を向けてくる。


「前は危険なので、後ろに居てください」

「わかった」


 自分の腕でしっかりとリベリオを掴むと、リベリオは翼を生やして飛び立つ。すると、少し身が軽くなる。

 離れていく地面のほうを見ると、ルーフォンがこちらに向かって呪文を唱えていた。唱え終わると、さらに少し身が軽くなり、こちらに目をやって、軽く片手をあげて見せていた。

 見えないだろうがうっすらとほほ笑み返事をする。

 再度シェイルと対峙する。不気味な微笑をこちらに一度移したかと思えば、すぐにリルとシュンリンのほうへと視線が移る。右手が動き、自らの髪を一本抜いて剣の姿へと変える。剣先を向けたのは、シュンリンのほうだった。

 今の状態が不利にしかならないと感じたのか、リルから体を離すように少し前のめりになり、背に小さな翼を出す。確認すると、リルはゆっくりとシュンリンから手を離した。

 一瞬高度が下がったが、小さかった翼を徐々に大きくし、自らの体を支えながらも、ゆっくりと後退し高度も下げていく。それでも剣先はシュンリンの元だった。

 少し勢いをつけるとシュンリンの元へと一直線に飛ぶシェイルに、リルがすぐに腕を伸ばしてシェイルのほうへと勢いの強い風が送り込む。体勢を崩したシェイルは、シュンリンからリルへと向きを変え、両腕で自らの顔をかばう。その腕や体には、いくつもの細い切り傷が刻まれる。リルの得意な鎌鼬かまいたち

 鎌鼬が過ぎると、目先をすぐにリルへと向け、目の前まで飛んでは剣を下から振り上げられる。自らの足元に、風を作ってすぐさまリルは距離をとる。しかし、その距離もすぐに詰められる。何度も繰り返し行われるが、その合間にリルはシェイルに向かっていくつもの鎌鼬を送る。

 多少の傷を作るだけの鎌鼬。いくつもの数を撃ち込まれ、シェイルの体にはいくつもの切り傷が残っていく。しかし、ダメージ的には薄いせいか、鎌鼬を気にすることなくリルに向かっていく。

 シュンリンがリベリオに近づいてきたとき、リベリオは俺をシュンリンに渡し、シェイルのほうへと向かっていく。

 リルが鎌鼬を送った瞬間、シェイルは片腕で軽く顔をかばう。鎌鼬が消えシェイルが動き出す前に、リベリオは腕を伸ばして横から力強い水しぶきを送る。

 流されるかのようにシェイルが横へと少し高度も下げてずれる。視線がリベリオへと移るとき、リルが庇っているシェイルの腕に向かって腕を伸ばして掴み、腹部に魔力をこめた蹴りを送りつける。

 蹴り飛ばされるシェイルは、そのまま落下し、瓦礫の中へと力強く身をぶつけ埋める。砂煙が舞い、シェイルの姿を見失う。この程度でシェイルがやられるわけがない。体勢を落とし、身構えるが砂煙を切るようにシェイルが飛び出した先は、ルーフォンとアマシュリのほうだった。

 落下に気付いていたルーフォンとアマシュリも、シェイルのほうへと身構えてはいたが、瞬時に距離を詰められ体が固まる。

 微笑むシェイルの口元。それだけが印象に残ったのち、剣がルーフォンに向かって振られる。目を閉じることもできず、剣先が視界の右下あたりでとらえた瞬間、地面からいきなり黒い壁が現れた。同時に剣が壁にぶつかり、鈍い音が響き渡る。

 すぐに我に返り、距離を開ける。アマシュリもすぐに近づいてきては、何が起きたのかと驚いている様子ではある。

 シェイルは片足を上げ、その壁を蹴り壊す。それとともに後ろに大きな影ができる。シェイルが振り向くと、地面から出てきたいくつもの木の幹のような太さのある蔓が、シェイルに向かって力強く突き刺してくる。地を蹴り避けるシェイルを、しつこくいくつもの蔓が追う。避けきれなかった蔓が、シェイルの左肩をかすめる。

 微かによろけたシェイルの足元から別の蔓が現れ、片足を絡ませ動きを止める。

 避けきれないを察したシェイルは、剣を振り、向かってくる蔓を切り刻む。

 空中にいたリルは、すぐさまシェイルの元へと向かうと、動けないのをいいことに、打撃を与えようと拳に魔力をためる。横目でリルを確認すると、長い金髪の髪が動く。

 足を止め、すぐに距離を開けようと下がるリルだが、その髪からいくつもの針が飛び出しリルを襲う。


「自由にもほどがある…!」


 風を自分の背からシェイルのほうへと送るように出し、針の勢いを失わせる。

 シェイルの後方から蔓が突き刺そうとするが、その蔓すらも、髪がいくつもの剣へと変わり、対応させる。

 シュンリンは地に足を置き、俺を置いて今にもシェイルのほうへと向かおうとする蔓にバランス良く乗り、近づくなり、飛び降りてシェイルに向かって電撃を飛ばす。

 電撃の対処はないのか、防御をすることなくその電撃を直に受ける。

 シェイルの動きが弱まると同時に、シェイルの足元に暗闇を見つける。円状に開いたかと思えば、ある程度の距離までそれが開く。何か起きたのかと、リルとリベリオが円内にはいらないよう距離を開ける。

 脈を打つようにうごめき、くらやみからいくつ赤い色の筋が見える。

 過去に一度見覚えがある。ルーフォンの魔術だ。

 大きく赤い筋が脈を打ったかと思えば、上空に向かって地面からいくつもの槍が突き出される。

 槍は待つことなく、血になるように赤色に破裂し、赤い雨を垂らすように地面へと舞っていく。シェイルを確認すると、出てくる槍の位置を瞬時に確認したのか、微かにのがれたシェイルだったが、シェイルの左腕を槍は捉えていた。他にも切り傷があったが、右腕で左腕を抑えながらも、視線がこちらへと向く。

 先ほどの槍でとらえていた蔓は外れ、地を蹴りつけこちらに瞬時に飛んでくる。どうにかするにも素早いその動きに追いつかず、身を構えるだけになる。

 力強く何かにシェイルがぶつかる音がした。一瞬閉じていた眼を開けると、そこには先ほどルーフォンたちを守った壁が新たに現れる。隣でルーフォンとアマシュリ魔術を唱える。唱えているということは、この壁はルーフォンの仕業ではない。

 先ほどと同じようにシェイルは壁を壊してくる。しかしそれと同時にルーフォンの呪文は唱え終える。

 現れたのは、数個の炎の玉。そのいくつもの炎が、シェイルに向かって飛んでゆく。反射的に腕で防御するものの、炎の玉はしっかりとシェイルの体を燃やしていた。炎が上がるほどのものではないものの、負傷を与える程度にはなる。アマシュリの魔術が唱え終わると、身が軽くなり同時に横からリベリオによって、三人一緒に持ちあげられる。

 シェイルから距離を取り、上昇するが視線はこちらから外れることはなかった。翼が出てはすぐにこちらに向かって飛び立ってくる。

 逃げるように移動するものの、標的が変わることはない。実際今まともに動けるほど魔力が残っているのはリベリオ位だ。リルもシュンリンもかなり魔力を消費しているようで、シュンリンは飛び立つこともできず、リルは飛び立ち距離を測っているようにも見えた。

 シェイルの攻撃をよけながらもリベリオが問う。


「さっきの蔓は魔術か」

「いや、何もしていない。たぶんヴィンスじゃないかと」

「…そうか」


 ルーフォンの答えに、どこかリベリオはうれしそうに、頬を上げていた。

 避けるリベリオに援護をするかのように、リルは横から鎌鼬を送るが、食らってもリルのほうを向くことはなく、一直線にこちらに向かってくる。

 剣に変えていたはずの髪は、通常の金髪へと戻っている。その髪先をこちらに向けてくる。


「リベリオ。針だ」

「くっ」


 互いの間に水の膜を作り、防御壁のようにかざすが、シェイルの初めの針はそれを崩し、第二弾としてきた針が俺たちを襲う。

 庇うように針に背を向けたリベリオは、いくつもの箇所に針が突き刺さる。


「リベリオ!!」


 翼が消え、返事がないままそこから落下する。すぐさまリルが受け止めに下のほうへと飛んでくるが、上からは勝利のほほえみを見せたシェイルが、右手で剣を振りかざしこちらに向かって降下してくる。

 微かに力がこもっているリベリオの腕から離れ、リルのほうへとリベリオを押し出す。微かにリベリオが呼ぶ声を耳に入れたが、うっすらとほほ笑んで見せた。


「バカッシレーナ!」

「魔王!」


 シェイルに向かい、ルーフォンから受け取った剣を片手で構え、振り下ろしてくる剣を受け止める。

 そのまま振りきることなく、押し出すように地面のほうへと降下してくる。

 シェイルの体重と降下してくる力を、微かにある魔力で剣を手放さないよう強化する。


「くっ…」

「今のあなたが私に敵うわけもない…」


 声の張らないシェイルの声が、耳に直接入ってくる。

 空いている手をシェイルの左腕へと向け、魔力をためて弾を近距離で二・三発打ち込める。傷をえぐるように食らった左腕は飛び、失う。

 返り血を浴び、視界が悪くなる。それと同時に、過去の事だろうと仲間だった。信用していた者の左腕の損失に、感情が揺さぶられる。

 視線を逸らせ、ただ地面へと突きつけられた。

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