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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第27話



 リベリオを本当に呼んだ当の本人である魔王は、ヴィンスのもとに魔爆の治療のためリベリオと交代でとどまっているようだ。

 そそくさと出発の準備をするリベリオに、アマシュリは耳元で何かを伝えていた。聞き取ることはできなかったが、何を言いたいのかルーフォンにはわかっていた。今回の計画は、すべてアマシュリが立てたものだ。

 なるべく短時間で。を目標とし、アマシュリが用意したコートを着て外に出る。

 ルーフォンは抱き合うように正面からリベリオの右肩に腕を回し、しっかりと固定するように背中にリベリオの右腕が回る。固定されたのを確認した後、斜め上あたりに視線を上げて水でできた翼を背に伸ばす。少ししゃがんだと思えば、リベリオの背中にアマシュリが乗っかる。


「さすがに二人は重いかな」


 なんて苦笑をリベリオがしたものだから、ルーフォンは何かを思い出すように目をそっと閉じ、魔術を唱える。

 魔術の知識がないリベリオは一瞬何をされるのかと体をこわばらせたが、背中に乗っていたアマシュリが大丈夫と耳打ちした。短めの魔術を唱え終わると、リベリオは目を見開き、数歩進む。その姿にアマシュリは首をかしげて見せる。


「軽い。そんなことができるのか」

「まぁ、な」


 これならと、リベリオはそっと微笑んで空高く飛び、目的の場所へと飛んで行った。


-------------------------------------------------------------



 ルーフォンとアマシュリを乗せてリベリオが飛んでいくのを、城の中で見つめていたリル。見えなくなるのを確認すると、イリスを連れてヴィンスがいる部屋へと足を進めた。

 リルには一つ、報告していない事柄がある。報告するには一度、治療に手を伸ばしているというヴィンスに話を聞く必要があるからだった。今魔王が近くにいるということは、治療に関して手を施している最中ということだからだ。その様子を見る必要がある。

 扉を前に、三度ほどノックを鳴らすと魔王から入るよう声が聞こえてきた。扉を開け、中に入ってしっかりと閉める。

 テーブルを挟んでヴィンスと魔王が、液体の入った瓶を眺めながら何かをしている最中だったようだ。


「何かあったか?」

「その液体は?」

「あぁ、この液体がもしかしたら俺を治す可能性があるんだと」


 詳細を聞くと、魔力に関係していると思われるものだという。確信はなさそうだが、今必要だった情報の一つとして、リルにとってはとても有力な情報だった。

 どうかしたのかと聞く魔王に、ヴィンスに話があると口を開く。すると、ヴィンスも魔王も驚いたように目を合わせていた。

 わかったと不思議そうな顔をしながら席を立ち、扉のほうへと向かった。それを追うよう一緒にこの部屋を出ていく。背中に視線を感じ、振り向くと不思議そうに見つめ続ける魔王の姿。相手がリルだからこそ、警戒まではしていないようだが、何かの疑問が引っ掛かっているように見える。


「なにか?」


 要件が思いつかないかのように、疑いのまなざしが向けられる。気にすることなく、連れてこられた一室の壁に寄りかかり、椅子に座っているヴィンスを見下ろす。


「不思議に思ったことはないか? 人間が使う魔術を」

「魔術?」

「実際俺は魔物がどういう風にできたのか。というのを今回の件で初めて知った。もともと魔物と人間という種族がいて、魔物は魔法を。人間は魔術が使える。と当たり前に思っていたが、今回の件で魔物は人間に作られた。先ほどの液体が、魔法の源だというのであれば魔術は? 魔術は魔物を倒すべくして研究されたものだというのは知っているな?」

「あぁ」

「もともとその研究が進めることができたのであれば、魔物を作らないで魔術を研究しておけばよかったんだ。なのにどうして魔物を作った?」

「待ってくれ。俺が魔物を作ったわけじゃないんだ。そこまでは…」


 両手を上げ、降参する様にヴィンスは視線を落としてそういう。


「作ったなんて思っていない。しかし、不思議に思わないのかと聞いているんだ」


 見下ろすように言うリルをちらっと視線だけ送ると、一つ小さくため息をこぼして、視線を外して口を開く。


「確かにその通りだとは思うが、魔法と同じような原理で魔術を開発したんじゃ?」

「何も持たないはずの人間が? 何を源に?」

「…。そんなことを言われてもな。俺は別に治癒専門でもないんだ。得た情報で作ってみて、あれも試作品だ。研究結果に残されていた要領で作ったものだ」

「その研究したものは最終的にどうなった?」

「…。知らない。残されていた書物だけで、その先を探すように言われていたんじゃないの…か? ってもしかして」

「あぁ。一つ分かったことはある」


 じゃあなぜというかのように、落としていた視線がしっかりとリルの視線と合うように上がってくる。降伏していたように頭辺りに上がっていた両手も、徐々に力なく降りていく。

 ゆっくりと目の前の魔物は立ち上がり、しっかりとリルの目の前に現れる。

 ようやく興味を示したその姿に、ゆっくりと口の両端が上がる。


-----------------------------------------------------------------------



 逃げ回っていた研究者や、一般の人間はなるべく昼間は見つからないように建物の中や、空から見当たらない場所を探しては隠れ続けていた。移動するのは夜中。火や灯りをつけることなく、なるべく密着して移動を行い、なるべく遠くへ遠くへと逃げていた。

 行く先行く先、すでに助からなかった者たちで埋まりつくしているような、現実か錯覚かもわからない光景ばかりを目にしていた。

 このままでは生き延びることは不可能だと思い始めた研究者。何かに使えるだろうと、持ち出していた大量のビンの中身を利用することにした。少なくとも、自分の身だけでも助かるようにと。

 人間というものを絶やさないよう繁殖は行った。何年も逃げ続けながらも子供を作り、逃げ続けている最中、ある子供に異変が起きた。その時にはもうすでに薬の投与は行っていなかった。材料も何もない状況で、その一つの希望は捨てていたそんな時だった。

 何かよくわからないことを口にしては、その場におかしな現象を起こす子供。その子供をみんなは魔物が生まれたと、恐怖していたがある元研究者が提案を行った。

 子供は暗示にかかりやすい。それを利用して、その力を使うことを禁じた。素直に育つ子供に、いざ何かあるとと、元研究者の間であるノートを作成し、その子供に託した。ノートの中身は、そう簡単には読みにくい単語がびっしりとつづられていた。

 ある日、ついに魔物に見つかり危険な状況へと陥る。しかし、託された子供も大きくなっており、渡されていたノートを利用して魔物の退治に成功。

 子供が増えることにより、同じような能力ある子供がいることに気付く。その子供子供にそのノートが受け継がれ、ほとんどの人間が使用できるくらいになってきていた。しかし、渡れば渡るほど、どうしてこのような力を持っているのかを伝えられることはなく、人間も魔物と同様、繁殖が進み、現在へと正確な情報を持つ者を少なく数を増やし続けていた。

 自分たちが、魔物と同じ成分を身に潜めていることも知らずに。






「以上が俺の調べた結果だ。多少は省かせてもらうが」

「…つまり、ただの人間があの液体を使用すると魔物になる可能性が秘めているということか」

「しかし、記述には飲んだ者に影響を与えるものではなく、繁殖後に影響されているというところだ」


 その言葉にヴィンスは口が止まり、視線がそらされる。

 今行われている魔王の治療。もしかしたら治る可能性がと思っていたが、その希望すらも崩されているような話だった。

 このことを魔王には話していないという。話している間に聞いた治癒の事を聞いて、方法を見て確認したかったからだと言った。

 黙り込んでしまったヴィンスに、ゆっくりとリルは口を開く。


「調べた結果を伝えたまでだ。希望を捨てろと言っているわけではない」

「しかし、今の話が本当なのであれば、今摂取させている薬は」

「お前が感じた原理はどこにやった? もともと魔力が強い。その魔力を使用することができなくなったというだけであって、もともとなかった人間ではない。つまり、体内に入る魔力を、そのまま体内に抑えることができれば治るということだろう」

「そうだが」

「薬を使用して一日がたつわけでもない。戦線を離脱した人間であるルーフォンがもういない。足手まといは魔王だけになったんだ。そこに集中すればいいだけの話だ」


 そのリルの言葉一つにヴィンスは反応し、眉間にしわを寄せてリルをにらみつける。


「ルーフォンが離脱? どういうことだ」

「人間の土地に帰った」

「どうしてっ…。いや、その方が良いか」

「ああ。それが自然の原理だ。ただ、それにアマシュリがついて行ったがな。まぁ、あの男もあまり役に立つとは考えにくい。避難というところだろうな」

「アマシュリも? そのことを魔王は」

「ルーフォンの事は知っているだろうが、アマシュリの事はどうだろうな」


 話を最後まで聞いたのか聞かないのか、睨みつけていた視線はすでにリルのほうに向くことなく、この一室を出て行ってしまった。

 向かう先はシュンリンたちが残っている魔王の間。重い扉を軽々と開けて中へと入っていくと、そこにはやはりルーフォンとアマシュリの姿はなった。視界に入るのはシュンリンとメッシュが何か楽しげに遊んでいる様子だった。その光景に違和感を感じる。

 勢いよく入ってきたヴィンスのほうへ、シュンリンとメッシュの視線を集める。


「シュンリン、リベリオとアマシュリは」

「アマシュリはわからないですが、リベリオはルーフォンを連れて行きました」

「メッシュを残してか?」


 半魔だとしても、まだ子供のメッシュを置いていくとは思えなかった。もしただ人間の土地に帰るのであれば、戦力とならないメッシュもつれていくはず。それに、シュンリンはアマシュリの行き場を知らないという。

 シュンリンがわからないのにどうしてリルが知っているのだろうか。

 初めて城にリルとイリスを連れてきたとき、アマシュリはかなり警戒をしていたし、そのこと自体脅されて連れてこなければならない状態だったと聞いたが、そんな相手に伝えてシュンリンに伝えない意味が分からなかった。


(アマシュリどこにいる)


 足で探すよりもと、すぐにテレパシーで連絡を取る。すると、意外にもすぐに返事が返ってきてほっと安心する。


(ルーフォンとともに一度人間の土地に戻ってます)

(…そうか)

(勘違いしないでください。戦力になるため、魔術についてユンヒュにある程度学んでくるだけです。あまりにも未熟なことに気付いたので。悪あがきです。なるべく早くルーフォンとともに戻ります)

(…戻るのか)


 てっきり向こうで避難しているものかと思ったから止めはしなかったが、勘違いしていることにすぐに勘付いたのか、すぐに訂正をかけてくる。


(なんでそこに驚くんですか。戻ってきてほしくないのですか?)


 ちょっとトゲがある返事に、いつものアマシュリだとホッとして微笑んでしまう。


(いや、そういうわけじゃないんだが、いつものアマシュリでホッとした)

(…すみませんね!)


 ちょっと拗ねたその口調も、いつものアマシュリだった。






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