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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第19話

 以前忍び込んだ廃墟じみた、団体の拠点であるだろう建物の裏へと来ていた。

 ルーフォンたちが城へ向かっていることは、ヴィンスとリベリオには伝えてある。着き次第ヴィンスがどうにかするという話になり、ルーフォンやメッシュは気になるが、俺は俺の仕事行うことにした。本当は一人で忍び込んだほうが自由がきくのだが、以前に痛い目を見ている以上、一人で向かおうとは思えなかった。だからこそ、シェイルがいる時に忍び込んでしまうのが一番安全だった。

 建物の中に入り込むのは、あっさりとしたものだ。まったくの警戒はされておらず、緊張感が感じられない。勘を頼りに魔物が居そうな方向へと足を進める。

 下の階に部屋というものは六部屋ほど。広さはないものの、階数があり高めの建物だ。上へ上る階段も一か所しかないため、本来上に潜り込むには、外からのほうが安全だ。しかし今は、上に行くというよりも、情報を得なければならない。その情報が上にあるとも限らない。

 一ヶ所、灯りが漏れている部屋を見つけた。姿勢を落とし、ゆっくりとその扉の近くへと体を寄せる。


『入った情報だ』


 ちょうど何かの情報が中の人たちに入ったようだ。その情報を聞き逃さぬよう、耳に集中させる。

 すると、中の魔物から、どう反応するべきか判断に困る言葉が出てきた。


『攻めるならいまだ。魔王はどうやら魔法が使えない、ただの人形だそうだ』


 つい目を見開いて、中の気配を感じることすら忘れるくらい、頭が真っ白になった。

 魔法が使えなくなったことは、限られている者しか知らないはず。ということは、その中の誰かが裏切ったということ。もしくは、忍び込まれたか。しかし、そんな簡単に忍び込めるものだろうか。普段はシェイルが魔王の近くにいる。シェイルが他の気配に気づかないということがあるだろうか。今は魔王の近くにいないとしても、リベリオなどがいる。シェイルほどの警戒心を持ってるかどうかはわからないにしても、放っておくだろうか。

 知られてしまっている今、魔王が勝手に動くのは危険すぎる。

 ヴィンスに伝えようとした瞬間、目の前の扉が開いた。

 情報のことで頭がいっぱいになってしまい、反応ができなかった。扉が開いたことにも、現状の理解に遅れ、全身が固まってしまい動けない。後ろにいるシェイルに助けを求めることもできない。開いた扉からは、薄らとほほ笑んだ見たこともない敵の顔があった。それを遅れて認識した瞬間、後ろから強い衝撃を与えられた。







 寒い。

 身体すべてが冷たくなっていた。内から冷えているわけではない。外からの冷気が感じられる。

 頭が起きていることはわかってるのだが、ひどい頭痛と、全身を打ったような痛みが、もうすこし眠れと命令してきている気がする。しかし、いま目を開けなければ、またいつこの冷気に気づけるかが分からない。冷気をそのままにして体温を落とすわけにはいかない。

 重い瞼に抵抗して、ゆっくりと目を開ける。

 目の前はほぼ真っ暗に近い状態だ。しかし、どこからか入ってきている若干の光で、建物の中の暗さだということに安堵した。

 体を動かそうにも、重くで動かせない。首は微かにだが、動く。

 どうやら仰向けになって寝かされているよう。近くに誰かがいる様子もない。

 首を左右に向けて気付いたが、体が重くて動かせないのではなく、何かに括り付けられ、動かすことができない。動かせる場所は、首から上と、微かに手の指と足の先を動かせるくらいで、何の役にも立たない。

 魔術の一つでも覚えておくべきだった。

 戦うことがないからと、怠けていたのが完全に失敗だった。魔法が苦手なら魔術で補う。そんなことすらもしていなかった自分が、腹立たしい。

 徐々に暗闇に目が慣れてきて、今いる場所の広さ、物や壁の形などは、うっすらとだがわかってきた。

 しかし、いったいなぜこんなことになってしまったのか。目を覚ます前のことを思い出そうとすると、ルーフォンと話したところからの記憶が徐々によみがえってくる。

 団体のことを伝えて、その行先はルーフォンに任せて、もう一度団体の廃墟へと向かうことを決めた。警備が薄かった記憶もあった。仕組まれたかのように、魔物がいる場所もすぐに分かった。何もかも、何者かによって誘導されていたかのように、途中まではスムーズに事が進んだ。


(シェイル)


 共に同行していた者の名前を思い出した。いったいどうしたのだろうか。あの状況で、シェイルはどんな状態だったのだろうか。なぜ逃げなかったのか。なぜ助けてくれなかったのか。今はどうしているのか。

 慣れてきた目で見渡す限りは、この中にシェイルの様子は見当たらない。あの髪の色だ。光に少しでも反射すると、見逃すわけがないのだが。気配のかけらもしない。


「リベイン…リベイン…」


 助けを求めるように、何度も何度も召喚獣の名前を呼び続ける。しかし、呼び出す手順をとっていないからか、まったく反応はない。今までに一度しか呼び出したことがない。それにばかり頼ってはいけないと、自分の中で決めていたから。

 途方に暮れる。

 この言葉はこんな時に使うものなのだろうか。この先のことを考えても、ここから出る方法が思いつかない。きっと時間が経てば何者かが現れるだろう。ただここに放置しておく。という考えも浮かんだが、できることなら現実に起きてほしくないことだ。しかし、何者かが現れたにしても、良い方向に進むわけがない。今、少しの希望があるというのならば、シェイルがどうしているかによる。大人しくつかまるわけがないだろう。

 そっと目を閉じ、耳を澄ましてこの建物の外を感じ取ろうとする。

 物音は一切しない。しかし、諦めず何も考えることなくただじっと、耳を澄ます。



 

 何時間経っただろうか。

 周りが暗いということもあり、まったく時間感覚がつかめない。それでも、ずっと耳を澄ましていた。その甲斐もあってか、微かにだが一切隠す様子もない足音が、遠いどこからか聞こえてきた。まったく聞こえていない状態からの音だ。おそらく近づいてきているのだろう。

 手に汗握る。

 その足音の主により、おそらく状況が左右される。

 耳に集中し、徐々に近づく足音に緊張が混ざる。


(くる)


 もう壁の向こうにいる。その壁も、横たわっている場所からは離れた場所だ。

 一度足音が止まり、金属が重なり擦れる音が響いた。ガチャリとこの空間に音を響かせ、ギーッという古びた音を鳴らしながら扉が開く。

 入ってきた数は二匹。

 魔法で火を手元に持ってゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 その姿に、何も考えられなくなる。

 すぐ近くまで来ると、持っていた火で、近くにあったらしい燭台に火を灯す。あたりが明るくなり、相手の姿・顔・表情がはっきりとわかってしまった。わかってしまったからこそ、余計に声が出なくなってしまう。


(どうして)


 思えるのはそれだけ。

 他の思考がうまく回らなくなってしまった。それを読み取られたのか、その相手は薄らと微笑み額に右手の手のひらを乗せる。その瞬間、不覚にも、目尻から一つの涙が流れてしまった。






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