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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第17話

 こんな大勢で行動したのは、生まれて初めてだ。細かく数える気すら起きない。大体数百は居るだろう。こんなにもの数を連れ、いざとなったらこの数に刃向かうことはできるか。自分一人ではどんなに都合の良い状況を考えたとしても、不利どころの話ではなく、勝ち目がないと言える。城にいる魔王率いる強力な仲間の元ではない限り、手を出せる気はしなかった。

 モストビを筆頭に進み始めたのは良いが、結構な距離を歩いている。魔物にとっては遅いスピードで、短い距離にしかならないのかもしれないが、人間にとしてみるら、かなりの距離。もちろん、歩いているだけではない。魔物は魔物同士でも平気で殺し合いを始める。この数のおかげか、人間である俺らのところまで魔物が流れてくることもなく、モストビの仲間たちがいとも簡単に戦闘を終わらせてしまう。その様子に、ズイやフェイは唖然としてしまう。

 自分たちがあまりにも無力だというのを、目の前で思い知らされているのだろう。もし、あの早い段階でモストビに会わなかった場合、こんなにも長い間魔物の土地を歩き続けているのは、体力的にも戦闘能力的にも厳しかっただろう。無力だと感じるのは俺も同じだった。

 しかし、気になるのはアマシュリが言っていた団体の話だ。すべてを聞かされた気はしないが、聞いた話によると、なんだかモストビという魔物は、本当にたまたま勇者を見つけたのだろうか。

 もともと勇者が魔物の土地へ入るのを知っていて、敵と戦う様子を見てから現れたのではないかと。


(俺も疲れてきたかな…)


 長い間歩き続け、人間の身からしてみたらかなり疲労がたまる。ズイやフェイなんか、顔つきがもうげっそりしている。どうしてこの二人が勇者として進んでこれていたのか、いまだにわからない。いや、基準がシレーナだからこそ、余計にそう思えてしまうのだろうか。二人に比べ、メッシュはまだ元気が残っているようだ。半分でも魔物の血が混ざっているからだろうか。

 若干自棄になり、途中で休んでやろうかと思ったが、焦らず考え直し、おいていかれるよりも無理にでもついていかなければ、自分の身が危ない。

 不意に顔を上げると、少し遠い位置に建物の端が見える。なんとなく見覚えがある気がする。前はこんなにも距離を歩いた気はしなかったというのに。

 不意にモストビが足を止めたのか、前方の魔物たちが止まった。ゆっくりと皆の足を止めると、モストビが振り向いた。その表情はなんだか楽しげだった。


「あれが魔王の城だ。みんな。気を引き締めて進め」


 そう大声というわけでもない音量で声を張る。

 その言葉に、俺はどうしても不安でしかなかった。確かに、数は多いかもしれない。ズイやフェイだけではなくなったとはいえ、魔王の城に入るというのを、こんなにも楽しそうな表情で言っていいものなのか。この者たちに恐れというものはないのか。 

 この団体が、今までどんな準備をしてきているのかはわからないが、あまりにも急すぎるのではないのか。


「ま、待て。こんなに早く突入を? 準備はできているのか」

「準備? 今まで十分待ったといってもいいくらいだ。それに、今回は戦いに行くのではない」


 モストビが、楽しそうな表情を変えずにそう返答する。戦いに行くのではないということだが、それではただの口論をしに行くというのだろうか。それとも、どんな状態なのか、忍び込む。という人数でもない。いったい何をしに行くのか。モストビの言葉をただ黙って待つ。


「まずは交渉。魔王は確かに数回見ている。しかし、魔王の恐ろしさを知る者は少ない。怒らせに行くのではなく、今後魔物たちをどうしていくつもりなのかを質問しに行くだけだ」


 魔物は魔王を数回見ている。しかし、魔王は今後どのような方向に決めていくのかを、人間の国王のように堂々と発表しているわけではなさそうだ。確かに、襲ってくる魔物たちは自分たちの意思だけで、人間を襲っているようにも感じる。

 誰かの指示かどうかは、その個人たちだけ。だからこそ、今まで勇者としてきたシレーナは、村と近くの魔物たちを干渉しないよう説得しようとすることができたということか。

 確かに、誰かに命令されて襲っているのであれば、そうも簡単に説得に応じたりはしないはずだ。もともと、人間を襲おうとしている魔物は、一部ということなのだろうか。

 魔物の常識や、普通と言われている事がわからない人間からしてみると、魔王の城に行くということは、攻撃を仕掛けることと同じとしか考えられない。


「さぁ、気を引き締めていけ。少なくとも我々には戦意がないことを表わすんだ」


 これ以上の質問はないだろうと言い切るように、城に顔を戻しモストビは歩いていく。それに続いていく仲間たち。

 ズイとフェイの顔を見ると、どうも気に食わない表情をしていた。確かにこの二人は、魔王を倒しに来た。そして、この魔物たちも魔王を倒すと言っていた。なのにどうして交渉なんかと思っているのだろう。その中で、どうして人間である自分たちを連れてきたのだろうと。

 あの時、闘技場でシレーナと会わず、勇者としてシレーナが選ばれていなかったら、もっともっと早い段階でこの城に向かってきていただろう。そして何も知らないで突撃して。いや、それよりもここまでこれたかどうかも疑問だ。しかし、あの時の俺はそんなことまで考えられなかった。魔王を。魔物を倒さなければ。そう思い続けていた。

 今となっては、一緒に旅したものが弱かろうが魔物で、しかも魔王とつながっていて。しかもその魔王が、勇者としていて。そのくせ言動は子供すぎて。どうして魔王をやっていけるのかが不思議でならなかったが、それでも会えてよかったと思えている自分がいた。きっと、思考がついてきていなかっただけなのかもしれないが、あの時シレーナに負けて良かったのだと、今だからこそ思える。きっと、闘技場の時に魔法を使っていようが使っていなかろうが、シレーナが勝っていただろう。

 城に近づけば近づくほど、怖れからか空気が変わってきているような気がする。少し肌寒くて、感じなくてもよい殺気があるような気がした。

 もうすでに見つかっている。どこかから、見張られているような感覚。

 警戒しているのか、モストビたちの歩くスピードも遅くなり、表情も険しくなっている。


「よけろ!!」


 叫んだのは、モストビの隣にいた魔物だった。モストビの腕をつかみ、反射的に感じた何かを避けるように、地を蹴り後退する。後ろにいた魔物が、モストビとその魔物をかばうように道を空け、なるべく前に出て防御に入る。

 メッシュを軽く担ぎ、後ろではなく横に広がる。前がどのような形になっているのか、しっかりと見たかった。メッシュをかばいながら見てみると、モストビが先ほどまで立っていただろう場所には、一つの槍のようなものが地面に突き刺さっていた。

 地面にヒビのようなものはない。強い力で一直線揺れることなく突き刺さったのだろう。

 槍のようなものは、木材のような素材だった。しかし、地面に突き刺さっている様子を見る限り、木材だけではないだろう。

 モストビは、前で防御態勢に入った仲間を割って前に出ていく。


(どうするつもりだ)


 おそらくその槍を出した者はこちらが敵だと認識しての攻撃だろう。槍を見る限り、遠慮の一つもない。こちらを消すことだけを考えた攻撃だ。

 しかし、そんなことも気にしないかのように、モストビは前を向き、少しだけ首を上に向ける。相手が上のほうにいたのだろうか。まだ俺にはどこにいるのかを認識できていない。 

 なるべく目立たないように前を探してみる。


「こちらに敵意はない。魔王に話があって来た」


 モストビがそう口にするも、相手からの返答はない。そもそも、敵意がないのであれば武器を持つ必要はない。そう言いたいのか、話を聞く気すらないのか。

 しばらく待っても返答が来ないことに、モストビは苦笑した。疲れた体をこっそり休めるところなのだが、相手の返答がないことにより、余計に疲れることがわかった俺は、警戒することなく無防備だということを示すよう、軽い足取りでモストビのほうまで歩いて行った。そこまで行けば、相手がどんな魔物かがわかると思ったから。

 モストビの目の前には、多少木があり、その奥には塀がある。その上に様子を見るように立っていたのは、魔物姿のヴィンスだった。見た目そのものは、人間のヴィンスだが、子供の姿ではないため、威圧感があった。

 チラリとヴィンスがこちらを見たが、すぐにモストビのほうに目を戻していた。接点があるというのをあまり知られないためだろう。表情を変えることもしなかった。もしかしたら、アマシュリから魔物とともに行動しているのを聞いていたから、あまり驚くこともないのだろうか。

 答えることも動くこともしていなかったヴィンスが、ゆっくりと行動に移した。

 塀から降り、地に足を下ろす。二歩前に出ては、その場にゆっくりとしゃがみ、地面に両手を触れる。それとともに、周りに生えていた何ともない木が揺れた。一瞬風で揺れただけかと思ったが、枝が伸びてくる。

 おいてきたメッシュのもとにダッシュし、前から持ち上げて首に掴ませる。

 なるべくヴィンスの視界から離れない位置へ、枝を避けながら移動する。モストビの仲間たちも、それぞれ枝を避け続ける。ズイやフェイを横目に見るが、どうすればいいのかわからないかのように、足を石にひっかけながらも、避けようと必死だった。

 しかし、枝につかまり持ち上げられるのは、魔物ばかり。

 避けるだけではなく、抵抗すればよいのだろうが、最低でもこちらには敵意・戦意がないことを示さなければならない。だからこそ、余計な手を出すことができない。されるがままだった。

 体勢を落とし、いつでも避けれるよう構えるが、人間には手を出すつもりはなかったのか、ズイもフェイも枝につかまることはなかった。むしろ、ヴィンスの攻撃に腰を抜かしたのか、腰と手を地面について仰向けになってしまっている。唯一立っていられているのは、俺とメッシュだけだった。おそらく、不公平さを出さないため、人間と魔物で分けたのだろう。これでズイたちに戦意があれば、また変わっていただろう。


「私たちには戦う意思はない!」


 枝につかまりながらも、モストビが高い位置でそう声を出していた。

 ゆっくりとメッシュを地面へおろし、息をつく。先ほどから口を開かないメッシュの顔をちゃんと覗き込んでやると、どうすればいいのかわからない、不安そうな顔をしていた。後悔しているかと小さな声で囁くと、少し考えて首を横に振った。


「・・・」


 ヴィンスはなかなか口を開かない。いったいどうするつもりなのだろうか。こちら側が退くことを決めるまでは、黙っているつもりだろうか。

 運よく、ヴィンスが前勇者としてのシレーナとのつながりと知っているのは俺だけだ。メッシュも、村復興の際には子供のヴィンスだったため、魔物の姿のヴィンスを知らない。下手に動くわけにはいかない。

 ヴィンスがどういう理由で黙っているのか、抵抗できないからと言って、ずっと枝につかまっているのもモストビたちは望んでなんかいない。自由に動けるのは、人間である俺たちだけ。だからと言って、勝手に動いてしまっては、つかまってしまう可能性もある。

 このままヴィンスについたほうがよいのか、まだ他人のふりをしていたほうがよいのか。

 答えなんか見つからず、刻一刻と時間が過ぎるだけだった。


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