表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月ロード  作者: 琴哉
第2章
37/67

第7話



「もう体はいいのか?」


 話を聞き終え、アマシュリをベッドに寝かせた後、使い慣れない頭を整理するため、復興作業を行っている場所へと足を運んだ。すると、ちょうど近くにいたルーフォンに声をかけられる。

 足を止めゆっくりと見上げると、いつものルーフォンの表情。アマシュリから聞いた話をそのまま伝えると、いったいどのような表情をするのだろうか。

 アマシュリからは、すべてにおいて十分な注意が必要になってくると言われた。そして最終的には、一度城へ戻った方がいいのではないかという話もあった。

 しかし、城へ戻るとルーフォンたちはどうする?

 城へ連れて行くにも、まだこの村の者しか俺が魔物だということを知らない。魔物の土地。魔王の城へ、人間であるルーフォンとユンヒュが行くと、今後面倒なことが起きる可能性がある。それに、魔物の土地へ行くには、ここはちょうどいい場所だということになる。が、その組織というものがそれを知ったら、一番に狙ってくる場所でもある。できることなら、城にいる間、ここの守備を行ってほしいが。ルーフォンとユンヒュのみに任せるにも、限界があるだろう。


「だいぶ、よくなったと思うよ」

「寝てなくていいのか?」

「…今はそういう気分じゃない」

「でも、身体は辛いだろう?」

「…」


 痛い。でもそれを理由に今休んでしまうと、それに甘え続けてしまいそうだった。

 しかし、俺がこういうことを考えるようになるとは思わなかった。

 今までであれば、何の遠慮もなく寝ていたし、こんな旅にも出なかった。さすがに、魔物と人間の全滅を企ててるやつがいるなんて聞けば、それなりに動揺していたとは思うが、ここまで考えただろうか。

 徐々にだが、自分が変わっていっているのを実感する。

 この旅を通して何がわかったか。それは、自分の無力さ。それしかわかっていない。


「無理をするな。これからが忙しくなるんだろう?」

「え…?」

「違うのか?」

「…そう、だね」


 忙しくったって、どうすればいいのだろう。

 今みたいに、共存などを考えていていいのだろうか。それとも、その組織をどうにかするのが先か。


「もう起きてもいいのか」

「え?」


 違う場所から冷たい声が聞こえてきた。

 探すと、ゆっくりとリルがこちらに向かって歩いてきていた。復興作業を手伝ってくれていたのだろう。首にタオルを巻いていて、傍からはそこらの人間に見えてしまう。


「身体、平気なのかって」

「あー。だいぶん楽にはなった」

「そうか。で?」

「ん?」

「お前は何者だ?」

「…ほんと、何者なんだろうね」

「とぼけるつもりか?」

「……」


 詮索しようとするリルに、俺は無言で答える。

 何も言うことができない。今全てを伝えられる自信もないし、伝えてしまった後、リルはどういう反応をするのかを考えて、言いにくくなった。

 無言が続く中、一人の男が俺に話しかけてきた。


「勇者様ですね」


 まだ若いだろう人間の声が聞こえて、俺はゆっくりと振り向いた。

 すると、この村の人ではないだろう、どこかの兵士のような格好をした男が一人立っていた。


「そうだが?」

「お話があります」


 ここで話しにくそうな雰囲気を出すものだから、俺はリルの元から離れ、出来るだけ人がいないようなところまで連れて行った。

 落ち着くと、男は再度事務的な口調で口を開いた。


「国王様がお呼びです」

「…王が?」


 


 





「なっ勇者交代だと!?」


 連れてこられ、兵士に囲まれながらも、一番権力のある都市を抱える国王に、初対面して初めてのこと。いきなりしんみりとした空気になると、不意にそう告げられた。

 勇者交代。

 理由は簡単だった。

 魔王を討伐する様子がない。それだけだった。

 国民からの税金をこれ以上、無駄にするわけにはいかない。そう判断したとのこと。

 バッチを取り上げられ、勇者という肩書を失くした。 

 あまりそれに拘っていたつもりはないが、こんなことが起きるとは思わなかった。

 確かに魔王へ進まなかった。だが、いい方向へと進んでいたつもりではあった。なのに、いきなり呼び出され、仲間にはちょっと出てくるとだけ伝え、遠いところまで連れて行かれた。その後に、この始末。

 すでに新しい勇者の目星は付いているようだった。もう何も言うことはできない。

 逆に、勇者という肩書がないからこそ、自分が魔物だろうがなんだろうが気にすることがなくなる。そう考えれば、少しは楽だった。

 寧ろ、“組織”のことといい、もしかしたら“勇者”という肩書があっては、今後動きにくくなっていたのかもしれない。

 徐々にこれからのことを考えていくと、“勇者”から外れて、良かった。という結論になるのかもしれない。

 次の勇者がどんなやつか見ておきたい。


「次の勇者を一目見たいんですが」

「見てどうする。話は以上だ。下がれ」

「くっ…」


 国王…いや、お偉いさんというのは、話を聞こうとしないのだろうか。

 俺の周りを囲っている兵ですら、口を開こうとせず、反抗しようとする俺の両脇をつかみ取られ、引きずられるようにこの場を離れようとする。国王を睨みつけると、ニヤッと口元が上がっている。厭味ったらしく、弱い虫を見るように。

 引きずられるようにこの一室を出ようとした瞬間、国王の口が開き、兵を止めた。


「いや、変更だ。牢に閉じ込めてしまえ。もしかしたら、次なる勇者に手を加えかねない」

「なっ!」


 国王の言葉は、兵にとって絶対。

 扉付近で、両手を後ろにまとめ上げられ、金属製の何かで固められた。そこから何かが伸びているのか、後ろ向きのまま引きずられるように引っ張られる。

 踏ん張って引っ張られないようにするものの、強力に警戒されている結界内で、本来なる力を出せるわけがなかった。

 おとなしく引きずられ、閉じ込められた牢の中は、うす暗く、地面が心なしかじっとりと湿っている様子だった。

 一人寝るにはちょっと広い位の大きさの牢が、数個通路のサイドを挟むように並んでおり、面の悪い男や、いかにも悪さしてましたという男。黒く汚い男などが、転々と牢の中へと閉じ込められていた。

 ほんの少しの足音でも拾うかのように響き渡る牢内は、とても居づらい雰囲気だ。

 誰かと誰かが会話するというよりは、どこからか喧嘩腰に喋る男たちもいる。少し暴れれば壊れそうな牢ではあるが、暴れたら暴れたで、余計面倒なことに巻き込まれかねない。

 後ろで縛られていた手は、気づけば前で束ねられていた。

 肩幅くらいにしか開かないかのように、手首を銀製の糧をつけられ、その間に短い鎖でつながっている。

 手を伸ばして鉄格子に触れてみると、ひんやりと氷のような冷たさを感じる。相当冷え続ける環境なのだろう。どこからか冷えた風が流れている。

 交代で監視するように、常にいろいろな地点に三人いる。

 一直線の通りに、左右合わせて20位の部屋がある。きっと、監視役が見やすいようにしているのだろう。きっと、このようなフロアが他にもあって、そこにも何十人もの人が閉じ込められているのだろうか。しかし、それはやはり人間だけではない。

 実際に、魔王の城にも、このような空間はあるが、こんなにもの生き物を閉じ込めてはいない。


(うーん…。相当まずい状況かも)


 結界が張られているせいで、まともに動くこともできない。

 国王が居る地区ということもあって、何重にも結界が張られている。テレパシーを送ることも、ままならない。助けを呼ぶ方法を探すべきか、一人抜け出す方法を探すべきか。

 今ここで時間を費やすわけにはいかない。今日中にでも、抜け出さなければならない。でないと、すぐに戻るという約束が守れない。


(…いたしかたない…だよね?)


 冷える。ということは、寒さでみんなを眠らせてしまえれば一番いい。

 その間に抜け出すなりなんなりすればいいだけ。操作系の魔法が使えれば、一番無難だったのかもしれないが、残念ながら細かい神経を使うような魔法は、得意としないため、方法がわからない。


(これで魔王をやってるんだもんなぁ…笑える)


 楽しくないはずなのに、なぜだか頬が上がった。

 呼び出すべきは…。雪女。


 湿っている地面に手を触れ、ゆっくりと周りの冷気を利用して魔力を固めていく。

 今ある魔力で足りるかどうかはわからない。まだキーツとの争いで体中が痛むし、魔力を使いすぎていたせいで、回復しかけていた魔力のみでの召喚。結界が張られ、ため込んだ魔力もうまく発動できない状況。

 よい状況といえば、周りが既に冷え込んでいるという現実だけ。

 つかみ上げた何かを、物質化する。すでにこの時点で、ほぼ魔力は使いはたしているようなものだ。

 痛む体を辛抱し、しっかりと引っ張りこむ。こちらの世界へ。そして、ここにいるすべての者を、眠りの世界へ。

 極度に冷え込んだ体は、睡魔を呼び寄せる。

 そうリベリオが言っていた。

 バタリと遠くから倒れる音が聞こえると、次々に崩れ落ちる音が聞こえてくる。

 魔力の使い過ぎと、その冷え込みで同時に意識がクラクラとしてきてしまった。魔物は、人間よりも強いはずなのだが、弱りかけていた体は人間と同様なのだろう。

 足の力が失い、崩れようとした体を、ソッと後ろで支えてくれた。

 見上げると、そこには白く輝く顔をした雪女が、支えていてくれたようだ。

 細めの腕で俺を持ち上げ、鉄格子を壊して外へと飛び出していった。

 既に意識を失いかけている俺が覚えているのは、そこまでだった。




 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ