第1話
「あー…あっちぃ…」
「氷背負ってるくせに…」
真夏日。
魔王だとばれた後でも、変わりなく。むしろ少しだけ距離が縮まった雰囲気の俺達2匹と2人は、魔王の城で少し休憩した後、人間の土地へと戻った。キーツはというと、地下の牢屋のように作り上げた、ジメジメした一室で監禁されている。そこまでしなくてもとは言ったものの、その言葉に耳を貸すものは誰一人としていなかった。
魔王なのに…と、権限を使おうと思っても、魔王のためです。とにっこり微笑まれると、何とも言えなくなった。
それから数カ月、また街を渡り続けていた。
メッシュのいた村のように、魔物が共に住める地区が全くないわけではないみたいだった。
あれから渡り歩いた街の一部も、お偉いさんには内緒で仲良くしている地域もあった。その部分は、勇者という権利を使用し、町長などに話を突き付けた。メッシュの村の時のようにすんなり話はつかなかったものの、時間をかけて同盟を組ませた。
順調。というわけではないものの、徐々にだが目標に向かって進んでは来ていた。
街を後にし、次の町へと足を進める。
そんな中、あまりにも暑くなり、得意の水魔法を利用し、氷魔法を練習し、ようやく作成できた氷を首に巻き、その辺に転がっていた太い木の枝を杖として利用し、おじいさんのように腰を曲げて歩いた。
ため息をつくようにアマシュリは呆れた言葉を出すが、相当暑い様子だ。
「アマシュリもいる?」
「いりません。そんな不格好なもの」
「ひどーい…」
暑さに弱い俺は、他の者よりも今の現状にやられている気がする。
杖を捨て、体を前に倒す。
「もう無理…歩けない」
「砂漠じゃないんだからさっさと歩け」
冷たい瞳で見下ろされる。
ルーフォンだ。しかも、背負ってくれるとか、引きずってくれることとかはしてくれないようで、気にせず先へと足を進めてしまう。それについて行くように、アマシュリもため息をつきながら後ろを歩いて行ってしまう。ユンヒュなんか、こちらをチラリとも見ずに進んでしまう。
「この冷酷野郎どもめっ…!」
怒鳴ったところで、誰一人としてこちらを振り向かない。
本当に置いていくつもりだろうか。
暴れる体力すらもなく、そのままぱたりと両手両足を地面に伸ばす。
うつ伏せになっているため、首の後ろに巻かれていた氷が、徐々に溶け始める。
「うぅ…っさびしい」
「ははっ大丈夫?」
聞きなれない透き通った声がした。
空耳かと思ったが、スッと自分の真上に、自分を包むくらいの丸い影ができる。
ゆっくりと振り向くと、そこには日傘をさしたキツネ目の男性が立っていた。
「むり…もう無理。男性の救世主とか…やばい幻覚見えてきた」
「面白いこと言うねぇ~」
「ちょっ! シレーナに触らないでくれます!?」
「おっと…っ」
倒れていた俺に触れようとした手を、アマシュリが力強くたたき落とし、すぐに俺の上体を抱え、ルーフォンの後ろへと引きずり隠れる。
一応俺のほうは気にしていたみたいだ。早く登場したアマシュリに、驚きはしたものの自分の足で歩こうとは思わなかった。
「怖い怖い」
冗談を言うように、笑いながら両手をあげて降参のポーズをする。それでもまだ、アマシュリは警戒するように、キツネ目の男を睨みつける。
呆れている様子のルーフォンは、ため息をつきながら何者だと問う。
「俺ぇ? 勇者探しの旅に出てるイリス。ねぇ、勇者が今どこにいるか知らない?」
「勇者を? 何のためにだ?」
「何のためって、仲間になるため! この間通った村で、魔物と人間の共存を夢見た勇者っていう情報を得たから、気になっちゃって。俺、勇者に同意! 人間最高! 魔物最高!」
「へぇ…。要は変わったモノ好きってことか。せいぜいがんばるんだな。行くぞ」
熱弁し出したキツネ目。イリスと名乗る男にルーフォンは答えるが、あまり聞かずにスルリと流し、目標の先へと視線を戻した。
歩き始めるルーフォンに、置いて行かれないように俺を引きずりながらアマシュリは歩き出す。その後ろから、ユンヒュがイリスを気にしながらも足を進めていた。
「ちょっと聞き流さないでよ!」
ルーフォンの性格上、テンションの高い男が苦手なのは、なんとなく読みとれてはいたものの、ここまで無視を決め込むとは思わなかった。
しかし、共存を知っておいてついてくるなんて、また面白いやつだ。できれば仲間にしたいという気持ちは、きっとアマシュリには届かないだろうし、あえて気付かないふりをしている。せっかく仲間になりたいという人物に対して、そっけなくしてやる必要がわからない。
後ろから足音が聞こえる。
本当に置いていかれていることに気付いたイリスは、走ってこちらに向かってきていた。
「ねぇねぇ、勇者知らない?」
だるそうに顔をあげている俺を覗き込み、イリスが聞くが、引き剝がす様にアマシュリは俺を引っ張り、ルーフォンに押しつけ、イリスに向かって歩き出した。
ルーフォンもついに立ち止り、一応右腕で俺を抱えていてくれた。でも、抱えられると…。
(暑い…)
「いい加減うるさいんですけど。知らないものは知らないし、知ってても貴方みたいな人には教えたくない性分でして。いい加減にしていただけないでしょうか?」
「えぇっ。だって、俺の知ってる勇者の顔があの子そのものなんだもん」
「はぁ? 知ってるんだったらいちいち聞かないでもらえます?」
「いやぁ、いつまでしらばっくれるつもりなんだろうと思ってね」
楽しそうに声をあげて笑うイリスに、アマシュリが苛々し出しているのがわかる。あまりアマシュリを怒らせないほうがいいぞと、心の中だけで忠告しておく。
不意に笑いが止まり、きちんとアマシュリを見つめるイリス。口を開いたと思えば、意外な言葉が出てきた。
「それに、君、魔物だよね?」
その言葉に、アマシュリの方がびくつき、数歩距離をとって姿勢を低くし、戦闘態勢に入る。
「…何者」
人間に人型の魔物を人間かどうかを見分けられるはずがなかった。だからこそ、魔物の雰囲気はないはずの、見分けができるこの男に警戒してしまう。
俺も気になり、ゆっくりと身を起こし、ルーフォンに降ろしてと軽く肩を叩いて見せた。気付いたルーフォンは、ゆっくりと俺をおろし、視線を再度イリスへ向けた。
「一応人間。遠い先祖に魔物がいてね。低級魔物が気配を消しているものくらいはわかるんだよね。さすがに中級以上のはわからないけどー」
「先祖に…」
「へぇ、面白いじゃん。仲間に…」
「だめです。そんなどこの骨ともわからない男を連れていくほど、馬鹿にならないでください」
口を開いた瞬間、すぐにアマシュリの言葉にて拒否されてしまう。
すべて否定されたみたいでさびしくなり、その場に膝をおろしてしまう。
(こんなにも権力のない魔王って…)
魔王どころか、リーダーである勇者の意見に耳を貸してくれないなんて、結構ショック具合を隠しきれないものだ。
「ひどいなぁ。じゃあ、どういう基準で仲間を集めているわけ? その基準に達したらいいんだよね? 何すればいい?」
何をしてでも勇者の仲間になりたいみたいだ。
別に誰も何かしてというわけではない。
アマシュリはお目付け役みたいなものだし、ルーフォンはたまたま闘技場で一緒に来るといったものだ。ユンヒュなんて、成り行き上だ。別に何かしてというわけではない。
確かに、ルーフォンみたいに剣術も魔術も使える人が居ればいいなとは思っていたし、ユンヒュのように魔術専門が必要だとも感じてはいた。後は、別に反抗したり、魔王を殺すためのみの目的ではない限り、別に来たいのであれば、来ればいい。しかし、命の保証は致しません。それは了承していただかないといけない部分だ。
かといって、忠誠心が必要というわけでもない。何を求めることもないのだが。
「必要ないです。帰ってください」
「えー。やだよー。何の目標もないじゃんそれー」
「アマシュリ、そんなにこの男を仲間にしたくないわけ?」
「はい。精神的に嫌いです」
バッサリと言い放つアマシュリに、俺は呆れたように口を開いてしまった。
そもそも、こんなにも明るい仲間がいない。ユンヒュは必要ないときは口を開かないし、ルーフォンは冷たくバッサリ切ってしまうし、アマシュリはいろいろ面倒は見てくれるものの、テンションが高いというわけではない。このテンションは、すごく俺に合う。気がするのだが、だからこそ仲間にしたくないのだろう。ダックを組んだら、面倒をみなければならない人物が増えると、ルーフォンとアマシュリは考えているのだろう。
こういう部分だけは、アマシュリとルーフォンは本当に息が合う。
「ひどいなぁ。そんなにバッサリ言わなくても」
「わかった。取り合えず、誰かと戦ってみる?」
「なっ! シレーナ」
いきなり口を開いた俺に、アマシュリは面倒なことをと言わんばかりにこちらを振り向いて、一言怒鳴る。先ほどから、みんなして俺を無視しているような気がしてさびしいんだものと、言わんばかりに頬を膨らましてソッポを向いてやる。
ジリジリとアマシュリの視線は感じるものの、それに負けじと別個の部分を向き続ける。しばらくすると、諦めたのか、アマシュリから小さいため息が聞こえてきた。
「それそれ! そういうの待ってました! 相手は?」
「ルーフォンと俺。で組んで、アマシュリとイリスで組む」
『…はっ?』
飲み込めなかったアマシュリとルーフォンは、二人首をかしげて疑問符をつけてしまった。
アマシュリはともかく、いきなり振られたルーフォンなんか、巻き添えを食らっただけにしならない。
「つまり、アマシュリと息が一切合わない時点でアウトってわけ」
「シレーナ。どうして僕がこんなわけも分かんない男と、手を組まなければならないのですか!」
「え…。だって、嫌がってるのアマシュリだし。意外と息があったり、嫌な奴じゃないかもってどこかで思えればいいかななんて。それに俺ルーを敵に回したくないし」
「…本当に考えてることが分からないですシレーナ。僕はこいつが嫌なんですよ? 足手まといをしまくるにきまってるじゃないですか」
「それをイリスがどうにかできれば合格。面白くない?」
当事者とならないユンヒュのほうを向き、首をかしげて見るが、どうでもいいのだろう。知るかと一言返されてしまう。
イリスは賛成と両手をあげて楽しそうに笑っていた。ルーフォンも、どちらかといえばどうでもいい方なのだろう。ため息をつくだけで、嫌がりも楽しみもしなさそうだ。
「わかりましたよ。シレーナが言い出したら、止めるのが大変だってことはわかっているつもりですし、要は息が合わなければいいのですよね。やってやりましょう。足手まといは得意です」
一切胸を張れるようなことではないのは、アマシュリ自身がわかっているが、だからこそアマシュリとイリスで組ませた。
徐々にだが、アマシュリが戦闘内に入っていることに慣れを感じてきている。もともと観ているのは平気だった分、戦闘に交わることに慣れるのは思ったよりも早かった。それに、もう逃げれないんだと腹をくくっていたのもあるかもしれない。
アマシュリはあまり人を増やしたがらない。きっと、目立ちたくなかったり、すべての人の動向が見れなくなって、俺が危険な目にあうのを恐れているようにも見えた。だからこそ、イリスが俺に触れるとき、距離があったように見えたのに、すぐに駆けつけてきた。
すぐにルーフォンに預けたのだって、初めのほうからいたし、そろそろ慣れてきていて、下手に手出しをすることはないだろうと感じたのだろう。任せる人種をアマシュリはあまり間違えない。きっと、これからだって慎重に動くだろう。だからこそ、まだアマシュリはユンヒュを警戒する。
(まぁ、警戒心が薄い俺が悪いのかも知れんが)
ため息を心の中で吐きながらも、自分自身警戒心がないのを納得する。
アマシュリがそれを担っているし、すべてを疑って歩きたくなんかない。裏切られたらその時だし、自分とアマシュリの身に危険が及ばない限り、あとはどうにでもなると思っている。ルーフォンだって、ユンヒュだって、少なくとも自分の身は守りきれるだろう。だからこそ、俺はアマシュリと自分を守ればいい。
イリスへの警戒心を解くのは、どのくらいかかるだろうか。それを考えたら、この方法をとってみるのもいいかもしれないと思った。
嫌々イリスの左隣に立つのを見送りながら、仕方がないというように溜息をついたルーフォンの隣に立った。巻き添えを食らわないように、ユンヒュは跳躍魔術を自分にかけ、軽々と一番高い木に登った。
ルーフォンが剣を抜くとともに、イリスがコートに隠していた鎖鎌を取り出し、楽しそうに構えた。
戦闘方法を所持していないアマシュリは、ただ腕を組んで立っていただけだ。
「どうします? えっと…アマシュリ?」
「どうするって。あの二人に勝てるわけがない。お手上げ状態なんだけど? っていうか、シレーナちょっと楽しそう?」
「まーまー。意外とどうにかなるかもよ? こっちから仕掛けてもいいの?」
「どーぞー」
アマシュリとは反面、イリスのほうはやけに楽しそうだ。
持っていた鎖鎌の鎖を持ち、右手側にある鎌のほうを数センチたらし、クルクルと楽しそうに右側で勢いをつけるように回す。リズムをとるように腰を低くし、何度か頭を縦に振り、タイミングが良かったのだろう。スッと右手の鎖をこちらに向けて離すと、勢いに乗っていた鎌が下から上へ刈り上げるように、確実に狙うよう向かってきた。
が、その鎌は俺の目の前でピタリと止まった。避ける用意はしていなかったが、ジッと見なおすと、鎌の取っ手部分に拘束魔法が絡められ、それは地面ではなく、アマシュリの手に貼り付けられ、これ以上こちらに向かってこないように食い止めていた。
「シレーナに手を出すことは許さない…」
アマシュリは、いままでにないくらい冷たく、鬼のような下から瞳だけで見上げた視線をイリスへと向けた。
その言葉にイリスはピタリと笑顔のまま止まり、首をゆっくりとかしげる。
「あれ? この主旨なんだっけ…?」
「ははっアマシュリらしい」
「これじゃ進まないな」
アマシュリらしさに楽しみを覚え、ゲラゲラと笑っていると、先ほどからアクションを起こしていなかったルーフォンが、ゆっくりと剣を持ち直し、その鎖をつたって歩くようにイリスの元へと向かった。
戦闘態勢に再度入るため、右手で鎖をきちんと持ち直し、イリスは拘束されている鎌を引き戻すため、鎖を引っ張る。俺に攻撃を仕掛けないからか、アマシュリは魔法を解き、大人しく鎌をイリスの元へと戻してやった。
鎌がイリスの左手へと戻る前に、ルーフォンは走り出し、しっかりとイリスとの間合いを詰める。遠慮なく振りかざし、下ろされた剣は、今手元に持っていた鎖を両手でつかみ、ピンっと両手で引っ張り合い、自分の額前へ上げ、その振り下ろされた剣を鎖で食い止める。
勢いで鎌の進行方向は、アマシュリとイリスの間を通り、後ろへと振り飛ばされる。勢いを失った鎌は伸びなくなった鎖により、引き戻され、イリスの右側へと後ろ首に鎖が絡み、戻ってきた鎌は少し勢いはないものの、ルーフォンの左頬を目掛けて鎌の刃が向かっていく。
剣でそれを食い止めようと、鎖から剣を離そうとした瞬間、思うようにルーフォンの剣は動かなかった。遠くから良く見てみると、アマシュリが、剣が触れていた鎖とその剣先に拘束魔法をくくりつけていた。
チッと舌打ちをしたルーフォンの頬に、鎌がかすめようとする。その瞬間を狙い、気付けば進めていた足は、すでにルーフォンの左後ろへ辿り着いていた。
お飾りで持っていた剣で、その鎌を振り落とす。
「割と間に合うものだな」
自分もまだ鈍っていないと、一人感心しながら剣を片手にぶら下げながらにっこりほほ笑んでみる。
「ちぇー」
振り払われた鎌は放置のまま、逆側の端についていた小さいナイフが俺の方へと再度向けられた。
まさか、鎖鎌の先にナイフが付いているとは思わなかった。
「なっ!」
反応したのはアマシュリだった。今から止めるため魔法を発動しようとしているが、スピードが間に合わない。発動される前に俺にナイフは触れるだろう。
スッと膝を折り、姿勢を落としてそのナイフから逃れるが、先ほど振り払われていた鎌が、しゃがむのを考えていたのか、下から上へと振り上げられる。が、次にそれを振り落としたのは、ルーフォンの左足だった。
振り払ったその左足は、それだけではなく、下から上へ蹴りあげるように、振り払ったそのままの足でイリスの右脇腹へと向かった。
避ける事ができず、イリスはそのまま蹴られたまま後ろへ飛ばされる。
地面へ突きつけられた時、バウンドした鎖が擦れ、甲高い音とジャラジャラとした音が鳴り響いた。
「あーあ」
俺を傷つけられなければそれでいいのか、アマシュリはその流れを目で眺めるだけで、イリスを助けようなんか一切見当たらない。しかし、鎖の使い方が素早い。ふざけているようで、一応少し先のことくらいは考えているようだ。下手に手を抜くことはできないみたいだ。
手を地面につけ、ムクッと身体を起こすと、プゥッと頬を膨らませ、駄々をこねるように立ち上がることをせず、鎖を持っていた左手を空へ持ち上げる。
「ちょっとー。アマシュリも何かしてよー」
「してるじゃないですか」
「勇者を護る事はね!」
「当たり前じゃないですか。最初に言いましたよね? 足手まといは得意です」
ため息をつくようにアマシュリは、きちんとイリスの言葉に答えている。
アマシュリが構いたくもない奴に向かって、答えを出すなんて、それなりにイリスを認めてきているのか、それとも気付かぬうちに何かを許してきている証拠だ。
「まぁまぁ、お前面白いしいいんじゃない?」
「そうやってホイホイ仲間を増やすと、前回のように自分の身を危険にさらす可能性だってあるのです! いい加減学んでください!」
「えー。そういうのはアマシュリとかルーフォンが考えてればいいと思う。そう。そうだよ。難しいことは、全部アマシュリとルーフォンだよ。手に追い切れないのはユンヒュの作業だよ」
「いきなり我を話に加えるのではない」
いきなり振られたユンヒュは、フンっと顔をそむけ、知らぬと言わんばかりに目線を合わせてはくれなかった。
しかし、ようやく争いは終わったのだろうと納得し、ソッと地へ足を戻してきた。
今回で分かったこと。それは、アマシュリがとりあえず俺の守備は行ってくれるとのこと。だけ。あとは、イリスの戦い方はわかった。弱くはないが、強いわけでもない。攻撃一つ一つが軽く、どっしり来るような攻撃は行わない。ただし、間合いが長く、下手に近寄るとこの鎖の餌食になりそうだ。
鍛えればもう少し使える。
アマシュリも、今手を組んでみて大体のリズムはわかったと思う。それに、イリスの戦い方上、アマシュリを守備におけば有利だ。
(よくも考えてみなってアマシュリ。いざイリスと戦うことになったとしても、こちらが割と有利だよ)
(…まぁ、こんなジャラジャラした攻撃でしたら、拘束魔法でも、ユンヒュの魔術でも、どうにかなりそうですが)
(そうそう。要は攻撃の動きさえ止められればいいだけ)
(ただ、速いです。先ほどはルーフォンが蹴ったので怪我はしませんでしたが、魔法の発動が間に合わない可能性もあります)
(その時はその時だよ。それに、一つ一つの攻撃は痛くない。絡まらない限り)
(絡まったとしても、魔王様でしたら切れるのでは?)
(まぁ、ね。でもそれなりに頑丈だったなぁ。まぁ、どうにかなるんじゃない? 頭っからだめとも言い切れないし。様子見。オーケ?)
(…はぁ。わかりました。ただし、常に警戒は怠らないで下さいよ?)
ようやく諦めたアマシュリに、俺はにっこりとほほ笑んで、イリスの元へと足を進める。
ソッと手を出し、握手を求めるようにソッとほほ笑んだ。
「とりあえず、一緒に来てみるか?」
「…いいの? だって、俺負けたよ?」
ゆっくりと手が伸びる。そのイリスの手をつかみ、グイっと立ち上がらせると、不思議そうな顔で首をかしげている。
確かに負けた。が、
「これは一応イリスの戦い方とか知りたいっていうのもあったし、アマシュリと息を合わせれるかっていうのが問題だったんだろう。まぁ、合わせられるかどうかはまだしも、アマシュリもイリスの戦い方がわかっただろう? 認める認めないよりは、一緒にいることくらいはいいんじゃないか? 飽きたら自分で帰るだろう」
「あ、飽きるってそういう問題?」
「まぁ、特別何もしてないしなこいつ」
俺の言葉に疑問を持ったイリスは、首をかしげながら質問はルーフォンのほうへと向かう。すると、ため息をつきながら諦めろと言わんばかりにそう呟く。
確かに特別目立つことをしたつもりはないが、まったく何もしていないわけではない。つもりだ。だと言うのに、こんなにもはっきり言われるとは思わなかった。少しだけさびしい思いをしながらも、トボトボとアマシュリの元へと戻る。
「じゃあ、俺、一緒に行くこと了承ねぇっ! やたっ」
両手でガッツポーズを空へ向け、嬉しそうに舞い上がっていた。